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平成15年横審第96号
件名

プレジャーボート喬ちゃん同乗者死亡事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成16年3月17日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(黒田 均、吉川 進、稲木秀邦)

理事官
米原健一

受審人
A 職名:喬ちゃん船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
同乗者が溺死

原因
同乗者の救命胴衣着用に努めなかったこと、海象(追い波の危険性)に対する配慮不十分

主文

 本件同乗者死亡は、同乗者に救命胴衣を着用させるよう努めなかったことと、追い波の危険性に対する配慮が十分でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年7月4日20時00分
 神奈川県横須賀港
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート喬ちゃん
登録長 5.58メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 29キロワット

3 事実の経過
 喬ちゃんは、船体後部に操舵スタンドを有する和船型FRP製プレジャーボートで、A受審人(平成15年2月四級小型船舶操縦士免許取得)が船長として操縦を任され、船舶所有者で四級小型船舶操縦士免許を取得しているBを同乗させ、船首0.4メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、釣りの目的で、平成15年7月4日18時30分神奈川県横須賀港第7区に注ぐ平作川左岸の定係地を発し、同県観音埼沖合で釣りを行ったのち、19時30分帰途についた。
 A受審人は、救命胴衣を着用せずに操舵輪後方に立ち、B同乗者を左舷船尾部に前方を向いて腰掛けさせ、同人に救命胴衣を着用させるよう努めることなく、自己の判断で操舵と見張りに当たって観音埼東岸沿いに南下し、19時41分横須賀港鴨居西防波堤灯台から088度(真方位、以下同じ。)780メートルの地点において、針路を大塚鼻に接航する205度に定め、周囲が暗かったので機関を微速力前進にかけ5.4ノットの対地速力とし、手動操舵により進行した。
 A受審人は、東方からの波浪を左舷側に受け、船体動揺を伴って航行し、19時58分半久里浜内防波堤灯台(以下「内防波堤灯台」という。)から082度1,000メートルの地点に達したとき、針路を同灯台に向首する262度に転じたところ、追い波を受ける状況となったことを知ったが、まさか大波がくることはないものと思い、高起した追い波を受けて船体が急傾斜しないよう、大塚鼻を大きく迂回する進路とするなど、追い波の危険性に対する配慮を十分に行うことなく、大塚鼻南岸を約80メートル離す進路で続航した。
 ところで、大塚鼻沖合には、南東方380メートルのところに、右舷標識である久里浜大塚根灯浮標が設置され、同灯浮標と大塚鼻南岸との海域に大塚根や干出岩が存在し、水深が急激に浅くなっていることから、東方からの波浪が高起しやすい状況となっており、A受審人は、夜間、同海域を航行した経験がなかったうえ、往航時、同灯浮標の南方を航過していた。
 20時00分少し前喬ちゃんは、高起した追い波を受けて船尾部が急激に持ち上げられ、船体が右舷前方に大きく傾斜し、20時00分内防波堤灯台から082度790メートルの地点において、原針路原速力のまま、A受審人とB同乗者が右舷前方の海中に転落した。
 当時、天候は曇で風力3の東風が吹き、潮候は上げ潮の末期にあたり、波高は2メートルで、三浦半島には波浪注意報が発表されていた。
 その結果、A受審人は、転覆を免れた喬ちゃんに自力で戻り、付近を航行していた船舶に救助を依頼し、B同乗者は、救助されて病院に搬送されたが、溺死と検案された。

(原因の考察)
 本件は、同乗者を左舷船尾部に腰掛けさせて帰航中、高起した追い波を受けて船尾部が急激に持ち上げられ、船体が右舷前方に大きく傾斜して船長と同乗者が海中に転落し、同乗者が溺水したことによって発生したもので、以下、その原因について考察する。
 事実認定の根拠で述べたとおり、A受審人は、B同乗者の指示に従って操縦していたのではなく、針路も速力も自分で判断して操縦していた。
 操縦者は、針路や速力の変更に伴う遠心力や加速度の変化も、風や波浪など外力の影響の変化も、最も感知しやすい立場にあるから、同乗者に対し注意を喚起したり、安全な針路や速力に修正することが可能であり、また、同人は、免許取得後の日数が浅いとはいえ、小型船舶操縦士の学科教本に記載されている、救命胴衣の着用が生存率を高めることや追い波の危険性についての知識を有していた。
 したがって、本件は、A受審人が、小型船舶操縦者として、暴露甲板に乗船している同乗者に救命胴衣を着用させるよう努めなかったことと、転針して追い波を受ける状況となった際、追い波の危険性に対する配慮を十分に行わなかったことをもって、本件発生の原因としたものである。 

(原因)
 本件同乗者死亡は、夜間、神奈川県横須賀港において、同乗者を左舷船尾部に腰掛けさせて定係地に向け帰航する際、同乗者に救命胴衣を着用させるよう努めなかったことと、転針して追い波を受ける状況となった際、追い波の危険性に対する配慮が十分でなかったこととによって、高起した追い波を受けて船尾部が急激に持ち上げられ、船体が右舷前方に大きく傾斜して船長と同乗者が海中に転落し、同乗者が溺水したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、神奈川県横須賀港において、自ら操縦にあたり定係地に向け帰航中、転針して追い波を受ける状況となったことを知った場合、高起した追い波を受けて船体が急傾斜しないよう、大塚鼻を大きく迂回する進路とするなど、追い波の危険性に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、まさか大波が来ることはないものと思い、追い波の危険性に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、高起した追い波を受けて船尾部が急激に持ち上げられ、船体が右舷前方に大きく傾斜して同乗者とともに海中に転落する事態を招き、救命胴衣を着用させていなかったことによって同乗者が溺死するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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