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平成15年函審第66号
件名

旅客船ニューれいんぼう べる乗組員負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成16年3月25日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(野村昌志、黒岩 貢、古川隆一)

理事官
河本和夫

受審人
A 職名:ニューれいんぼう べる三等航海士 海技免許:三級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:トレーラヘッド運転手

損害
乗組員が右脚の大腿筋等の挫傷及び第5趾末節骨等の骨折により約2箇月の入院加療を要する重傷

原因
車両荷役作業中の車両誘導作業に対する安全措置不十分、トレーラヘッド運転手の安全確認不十分

主文

 本件乗組員負傷は、車両荷役作業中、車両誘導作業に対する安全措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 トレーラヘッド運転手が、船内で旋回する際、周囲の安全確認を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年9月24日18時50分
 新潟県直江津港
 
2 船舶の要目
船種船名 旅客船ニューれいんぼう べる
総トン数 11,410トン
登録長 181.34メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 29,160キロワット

3 事実の経過
 ニューれいんぼう べる(以下「れいんぼう」という。)は、平成13年6月に進水した新潟県直江津港を経由して福岡県博多港と北海道室蘭港との間の一般旅客定期航路に就航する全通二層甲板の鋼製旅客兼自動車航送船で、下から順に第一甲板から第七甲板まで設置され、第一甲板が乗用車甲板、第二及び第三甲板が無人航送車両であるヘッドレスと称するトレーラなどの車両甲板、第四甲板が上甲板となっており、第二甲板右舷の船首尾に車両積み卸し用の船外ランプウエイがそれぞれ備えられていた。
 第三甲板には、船首尾線方向に幅約3メートルで区分けした8列の車線が右舷側端を1番として順に番号がふられてあり、第二甲板に至る長さ約42メートル幅約4メートルの船内ランプウエイが両舷に備えられ、右舷側の同ランプウエイ(以下「右舷ランプウエイ」という。)は車線3・4番にまたがって垂線間長の中央から船尾方18メートルに、左舷側の船内ランプウエイ(以下「左舷ランプウエイ」という。)は車線5・6番にまたがって同中央から船首方6メートルにそれぞれの上端が位置し、両上端の間が車両の方向転換場所となっていた。また右舷ランプウエイの左舷側には長さ約38メートル幅約3メートルの階段室が設けられ、同室の右舷側囲壁が船体中心線上に、船首側囲壁が同ランプウエイ上端に並ぶ線より約1メートル前方に位置していた。
 ところで、れいんぼうの運航管理は、C社が博多港と直江津港間を、D社が直江津港と室蘭港間を用船してそれぞれ行っており、北航時の直江津港における車両の揚荷役作業は、C社が定めた運航管理規程の作業基準に従い、一等航海士が船内作業指揮者として荷役作業の打合せを行ったのち、主に第二甲板に、三等航海士が甲板手と共に車両甲板又は乗用車甲板にそれぞれ配置して車両の整理・誘導に当たっていた。
 そして、第三甲板におけるトレーラの揚荷役作業は、一等航海士が岸壁で待機するトレーラヘッドと称するトラクタに対して第二甲板への乗船を、次いで三等航海士が船内ランプウエイ上端付近で陸揚げするトレーラの車線などを示して第三甲板への進入をそれぞれ指示・誘導し、甲板手が車両方向転換場所から後退する同ヘッドを連結するトレーラに誘導していた。
 また、トレーラヘッドは、長さ5.62メートル幅2.49メートル高さ2.84メートルで、その大きさや運転席の位置などから乗用車に比べ死角を生じ易く、死角を補うため前面に数個のミラーが備え付けられていた。
 A受審人は、平成2年5月三級海技士(航海)の免許を取得して同年6月にD社に三等航海士兼甲板手として入社し、平成14年2月C社に出向してれいんぼうの三等航海士兼二等航海士として乗り組んでいた。
 B指定海難関係人は、平成元年8月にE社に港湾作業員として入社し、フェリー部副班長として貨物車両の運転に従事しており、れいんぼうの車両荷役作業においてはトレーラヘッドなどの運転に当たっていた。
 れいんぼうは、A受審人ほか21人が乗り組み、旅客44人及び車両153台を載せ、船首6.05メートル船尾6.35メートルの喫水をもって、平成14年9月23日22時00分博多港を発し、翌24日18時15分直江津港に入港した。同船は直江津港西防波堤灯台から真方位181度1,730メートルの地点にある東ふ頭3号岸壁に、23時55分室蘭港に向けて出港する予定で船首を真方位054度に向けて右舷付け係留し、船首尾の船外ランプウエイを岸壁に架け、間もなく船内作業員が所定の配置に就き、旅客、乗用車及びトラックなどが下船した。
 18時40分A受審人は、安全帽、安全靴のほか蛍光反射ベストを着用し、笛及び誘導灯などを携行して右舷ランプウエイ上端左舷側の階段室寄りに立ち、甲板手3人を順次陸揚げ予定のトレーラ駐車位置に就かせ、車両固縛装置の取り外し作業員数人及び荷役に使用するトレーラヘッド5台の運転手5人と共に、第三甲板のトレーラの揚荷役作業を開始した。
 18時49分半A受審人は、7台目のトレーラを陸揚げすることとし、トレーラヘッドを運転して右舷ランプウエイ下端の第二甲板上で待機していたB指定海難関係人に、2と記されたプラカードを掲げて陸揚げするトレーラが車線2番の船首側にあることを示し、同ランプウエイを上ってくるよう指示して第三甲板への誘導を開始した。
 そして、A受審人は、トレーラヘッドが右舷ランプウエイを上りきったあと、方向転換のため左折して停止し、その後トレーラ位置まで後退することを十分に承知していた。
 18時50分わずか前A受審人は、右舷ランプウエイを上ってきたトレーラヘッドがその上端に達して自己の真横を通過した直後、次に陸揚げするトレーラの順番を決めるため、左舷方に駐車中のトレーラを確認することとした。
 このとき、A受審人は、トレーラヘッドの方向転換場所に立ち入ると身体が左折した同ヘッドに接触するおそれがあったが、次に陸揚げするトレーラの順番を決めることに気を取られ、誘導中のトレーラヘッドから目を離さず、また同場所に立ち入らないなど、車両誘導作業に対する安全措置を十分にとることなく、誘導中のトレーラヘッドに背を向け、左舷船首70度方へ5メートルばかり移動して方向転換場所に立ち入り、左舷方のトレーラや左舷ランプウエイへ移動中の他のトレーラを確認するため立ち止まった。
 一方、B指定海難関係人は、A受審人の指示・誘導に従い、時速10キロメートル以下の徐行運転で右舷ランプウエイを上り、同上端に達したころ時速4キロメートルほどで同受審人を左正横に見て通過し、次いで右舷前方の連結するトレーラを確認したのち、左折して方向転換することとしたが、周囲の死角を補うためにミラーを活用するなどして周囲の安全確認を十分に行わなかったので、そのころ方向転換場所に移動したA受審人に気付かないままハンドルを左に大きく切って旋回を開始した。
 B指定海難関係人は、左折した直後、前方に前示移動中のトレーラを認め、その動きに注視しながら100度ほど左に旋回してトレーラーヘッドが左舷船尾80度ほどを向き、間もなく停止しようとしたとき、18時50分前示係留地点において、A受審人は、左折中のトレーラヘッド左前部に接触して転倒し、次いで同人の右脚が左前輪に轢過(れきか)された。
 当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
 B指定海難関係人は、トレーラヘッドを停止して後退しようとしたとき、事故に気付いた甲板手の知らせにより本件発生を知り、事後の処置に当たった。
 この結果、A受審人は右脚の大腿筋及び下腿筋挫傷並びに第5趾末節骨及び種子骨骨折により約2箇月の入院加療を要する重傷を負った。 

(原因)
 本件乗組員負傷は、新潟県直江津港東ふ頭3号岸壁において、トレーラの揚荷役作業中、車両誘導作業に対する安全措置が不十分で、乗組員が自己の誘導するトレーラヘッドに背を向けたまま、同ヘッドの方向転換場所に立ち入ったことにより、トレーラヘッド左前部が乗組員に接触して転倒させ、同左前輪が同人の右脚を轢いたことによって発生したものである。
 トレーラヘッド運転手が、船内で旋回する際、周囲の安全確認を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、新潟県直江津港東ふ頭3号岸壁において、トレーラの揚荷役作業中、車両の誘導に従事する場合、誘導するトレーラヘッドの方向転換場所に立ち入ると身体が同ヘッドに接触するおそれがあったから、トレーラヘッドを誘導中は同ヘッドから目を離さず、また同場所に立ち入らないなど、車両誘導作業に対する安全措置を十分にとるべき注意義務があった。しかし、同人は、次に陸揚げするトレーラの順番を決めることに気を取られ、車両誘導作業に対する安全措置を十分にとらなかった職務上の過失により、誘導中のトレーラヘッドに背を向けたまま同ヘッドの方向転換場所に立ち入り、旋回してきたトレーラヘッドに接触して転倒し、自らの右脚を轢過される事態を招き、同大腿筋及び下腿筋挫傷並びに第5趾末節骨及び種子骨骨折を負うに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、船内で乗組員の誘導に従いトレーラヘッドを運転してトレーラの揚荷役作業中、方向転換のため旋回する際、周囲の安全確認を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、その後、トレーラヘッドを運転して船内で旋回する際、一時停止し、前面に設けられた数個のミラーを活用するなどして周囲の安全確認を十分に行うよう改善していることに徴し、勧告するまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。





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