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平成15年那審第48号
件名

旅客船第一清福丸旅客負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成16年2月19日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(上原 直、坂爪 靖、小須田 敏)

理事官
浜本 宏

受審人
A 職名:第一清福丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
旅客が肺挫傷、肋骨骨折及び肝損傷等で、約5週間の安静治療を要する重傷

原因
旅客の安全確保措置不十分

主文

 本件旅客負傷は、旅客の安全確保の措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年6月28日10時20分
 沖縄県八重山列島新城島上地港
 
2 船舶の要目
船種船名 旅客船第一清福丸
総トン数 4.8トン
全長 13.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 308キロワット

3 事実の経過
 第一清福丸(以下「清福丸」という。)は、平成13年2月に進水したFRP製旅客船で、沖縄県石垣漁港を基地として同県八重山列島の黒島や新城島周辺海域で、シュノーケリングの実施等に使用されていたところ、A受審人が1人で乗り組み、インストラクター1人と旅客10人を乗せ、シュノーケリングの目的で、船首尾とも0.4メートルの喫水をもって、平成15年6月28日09時00分同漁港を発し、10時10分同漁港南西方約13海里の最初のシュノーケリングポイント近くの新城島上地港に入港し、新城島上地13.0メートル頂の三角点から真方位236度700メートルの地点にある桟橋(以下「桟橋」という。)西側に着岸した。
 ところで、桟橋は、長さ190メートル幅10メートルで北北西方に陸岸から突き出していて、先端から50メートルが幅を更に西側に10メートル延ばした物揚場になっており、長さ150センチメートル(以下「センチ」という。)で15センチ角の車止めが、物揚場の縁から20センチ離して等間隔に設けられ、桟橋の側面には中空の硬質ゴムフェンダー(以下「フェンダー」という。)が等間隔に垂直に取り付けられており、フェンダーの桟橋の側面への取り付け面が長さ176センチ幅38センチで、フェンダーの船体に接触する面が長さ148センチ幅13センチであった。また、物揚場の南端部に乾舷が浅い船でも乗下船が容易にできるよう、桟橋の側面に沿って高さ20センチ幅150センチ奥行30センチの階段(以下「階段」という。)が対称形に7段設けられており、階段の最低部と下から3段目の階段は奥行が150センチと広くなっており、階段部の側面にはフェンダーが階段の傾斜と平行に取り付けられていた。
 清福丸は、船首側から順に、船首甲板、操舵室、屋根だけがある客室及び船尾甲板並びに客室上にフライングブリッジをそれぞれ配置していた。舷側には、高さ23センチのブルワークを設け、ブルワーク頂には幅15センチのガンネルがあり、ガンネル上に長さ450センチ高さ55センチ直径3.5センチの鉄製ハンドレールが客室近くから船尾にかけて取り付けられていた。両舷船尾端から94センチのガンネル上に12センチ角で高さ35センチの船尾係船用ビットが、また、船首甲板中央部には船首係船用ビットがそれぞれ備えられていた
 A受審人は、平成11年2月5日に一級小型船舶操縦士の免許を取得し、同14年1月20日からC社の従業員として働き始め、ダイビングのインストラクターの免許も取得し、船長として清福丸の運航に携わるとともにインストラクターとしてシュノーケリングなどの指導も行っていた。
 A受審人は、風上側の清福丸が桟橋に押され気味の状況下、船首係船用ビットから船首係船索を17.5メートル、右舷船尾係船用ビットから船尾係船索を5.5メートルそれぞれ出して桟橋上のビットにとり、船首を北に向けて右舷付けで清福丸を階段付近に係留し、船尾甲板から階段を利用して旅客を上陸させることにした。
 A受審人は、いつもより海上がしけていたうえ、時折沖合を航行する高速艇の航走波の影響などによって船体が動揺し、桟橋から離れたり近付いたりしているのを認めていたが、それまで船から上陸させる際に旅客が海中に転落などしたことがなかったことから、階段に飛び移るタイミングを指示するだけで大丈夫だと思い、旅客に手を貸したり、不意の船体動揺などでバランスを崩した旅客に即応できる態勢をとったりして上陸の補助を行うなど、旅客の安全確保の措置を十分にとっていなかった。
 こうして、清福丸は、A受審人が右舷側のハンドレールの上に立ち、桟橋の車止めを左手で押さえ付けて清福丸が離れないようにしながら、階段に飛び移るタイミングを旅客に合図していたところ、インストラクターに次いで船尾甲板から桟橋の下から3段目階段に男性旅客が飛び移り、男性旅客に、船に乗るのが初めてであった旅客Bが手を取って貰い、右舷船尾係船用ビットの上に右足を乗せて清福丸から階段に飛び移ろうとした時、高速艇の航走波の影響などによって船体が動揺し、急激に清福丸と桟橋との間隔が広がったため、B旅客がバランスを崩し、思わず男性旅客の手を離して下から5段目の階段の縁に両手をついて四つんばいの姿勢になり、さらに、両足が清福丸から離れてしまい桟橋にぶら下がる状況になったその直後、清福丸が揺り返しで一気に桟橋に押し寄せ、同年6月28日10時20分前示着岸場所において、B旅客の胸部が階段の傾斜に平行に取り付けられたフェンダーとガンネル部分との間に挟まれた。
 当時、天候は晴で風力3の南南西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で付近には波高約60センチの波があった。
 A受審人は、すぐに海中に飛び込み、清福丸と桟橋との間隔を離しながら挟まれたB旅客を下から押し上げるなどして、桟橋のインストラクターと男性旅客に協力してもらってB旅客を引き上げ、携帯電話でヘリコプターを要請し、D病院に同人を搬送した。
 その結果、B旅客は、両側肺挫傷、両側血胸、左気胸、多発肋骨骨折及び肝損傷で、約5週間の安静治療を要する重傷を負った。 

(原因)
 本件旅客負傷は、沖縄県八重山列島新城島上地港において、高速艇の航走波の影響などによって船体が動揺する状況下、上地港桟橋に旅客を上陸させる際、旅客の安全確保の措置が不十分で、上陸しようとした旅客がバランスを崩して同桟橋にぶら下がり、桟橋の階段の傾斜と平行に取り付けられたフェンダーとガンネル部分との間に挟まれたことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、沖縄県八重山列島新城島上地港において、高速艇の航走波の影響などによって船体が動揺する状況下、上地港桟橋に旅客を上陸させる場合、旅客が船から転落などしないよう、旅客に手を貸したり、不意の船体動揺などでバランスを崩した旅客に即応できる態勢をとったりして上陸の補助を行うなど、旅客の安全確保の措置を十分にとるべき注意義務があった。ところが、同人は、それまで船から旅客を転落などさせたことがなかったことから、階段に飛び移るタイミングを指示するだけで大丈夫だと思い、上陸の補助を行うなど、旅客の安全確保の措置を十分にとらなかった職務上の過失により、旅客がバランスを崩して桟橋にぶら下がる状況を招き、同人の胸部を桟橋の階段の傾斜と平行に取り付けられたフェンダーとガンネル部分との間に挟ませ、両側肺挫傷、両側血胸、左気胸、多発肋骨骨折及び肝損傷で約5週間の安静加療を要する重傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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