(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年6月9日03時30分
北太平洋中西部
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第二十八亀洋丸 |
総トン数 |
359トン |
全長 |
56.27メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,029キロワット |
3 事実の経過
第二十八亀洋丸(以下「亀洋丸」という。)は、昭和63年4月に進水した、カツオ一本釣り漁業に従事する、船首楼及び船尾楼付き一層甲板型の船尾船橋型鋼製漁船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか日本人船員14人及びキリバス人船員など12人が乗り組み、操業の目的で、船首1.6メートル船尾5.0メートルの喫水をもって、平成15年5月8日13時45分静岡県焼津港を出航し、長崎県佐世保市畑下に寄港して生き餌(えさ)を仕入れ、同月11日10時30分同所を発して奄美大島東方海域の漁場に向かった。
亀洋丸には、カツオ一本釣り用の作業場として、ブルワーク外側の、左舷側正船首から左舷船尾端を回って右舷側船尾部のギャレイ横付近までと、右舷側中央部から正船首までの周囲に渡り、ブルワークの頂部から約45センチメートル下方のところに、舷外に約60センチメートルの幅で水平に張り出した台(以下「釣り台」という。)が、設置されており、釣り台の洋上側に高さ約45センチメートルの鉄パイプ製の柵が取り付けられていた。
亀洋丸のカツオ一本釣り作業は、日出に開始して日没までとしており、魚群探索などによりカツオの魚群を発見したとき、右舷側を風上舷として漂泊し、乗組員が左舷側及び船尾部の釣り台で配置につき、1.5メートルばかりの釣り糸に釣り針を取り付けた、2ないし3.5メートルのカツオ専用の竿を使用し、餌まきと放水を行って、海面に群れているカツオを釣りあげる作業であったが、舷外の釣り台で行われることから、海中転落のおそれがあった。
A受審人は、5月14日06時20分ごろ北緯27度15分東経136度33分の漁場に着き、魚群探索とカツオ一本釣り漁を行いながら東行し、6月3日夜南鳥島付近から北上して操業を続けた。
6月9日03時00分(以下、時刻は日本標準時)A受審人は、北緯33度04分東経158度35分付近に至ったころ、起床して昇橋し、間もなく魚群探知機により前方の流木付近にカツオの魚群を発見したのち、折からの南西風を右舷側に受け、船首を南東方に向けて漂泊を開始した。
A受審人は、03時25分漁ろう長のB指定海難関係人に、漁ろう作業の責任者して、カツオ一本釣りの操業を任せることにしたが、海面状態が良好で風もあまりなかったことから、通常の作業方法で大丈夫と思い、舷外の漁ろう作業なので海中転落することがないよう、漁ろう長に対し、乗組員に命綱及び作業用救命衣を着用させるなど、漁ろう作業中の安全措置を十分にとるよう指示することなく、降橋して船尾部左舷側の釣り台に向かった。
また、B指定海難関係人は、漁ろう長として漁場の選択及び漁ろう作業中の総指揮をとっており、03時25分乗組員にカツオ一本釣り作業を行わせることにしたが、海中転落防止のため、命綱及び作業用救命衣を着用させないまま、船内マイクによりカツオ専用の竿を用意して作業配置につくよう指示し、船橋前部左舷側の釣り台に13人と船尾部の釣り台に12人を同作業に当たらせ、そのほか機関室に1人と調理室に1人を残し、自らは船橋で操業模様を見守りながら操船に当たった。
一方、甲板員Cは、操業開始の指示により、青い上下の雨合羽に保護面付きヘルメットと長靴を着用し、急いでいたためかマグロ専用の竿を手にし、03時28分ごろ船尾部釣り台の中央付近にほか11人とともに横一列の配置についた。
C甲板員は、カツオ一本釣りの漁船に乗って1年半ばかりで経験が浅く、体を前のめりにした不安定な姿勢で釣りを開始したところ、03時30分北緯33度04分東経158度35分の地点において、重さ30ないし40キログラムのマグロがかかり、一瞬のうちに竿とともに引き込まれ、海中に転落した。
当時、天候は雨で風力4の南西風が吹き、波高約1メートルの波浪があった。
転落したあと救命浮環が投入され、B指定海難関係人が船体を接近させて救助を試みたが、C甲板員は、潮などにより流され、間もなく海中に没して行方不明となり、その後、付近で操業中の僚船、海上保安庁の捜索機及び巡視船による捜索が行われたが、発見されなかった。
(原因)
本件乗組員行方不明は、北太平洋の南鳥島北東方海域において、カツオ一本釣り漁業を行う際、漁ろう作業中の安全措置が不十分で、舷外の釣り台で同作業中の乗組員が、釣り針にかかった大型魚に一瞬のうちに引き込まれ、海中に転落したことによって発生したものである。
漁ろう作業中の安全措置が十分でなかったのは、船長が、漁ろう長に対し、乗組員に命綱及び作業用救命衣を着用させるよう指示しなかったことと、漁ろう作業の責任者である漁ろう長が、乗組員に命綱及び作業用救命衣を着用させなかったこととによるものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、北太平洋の南鳥島北東方海域において、漁ろう長にカツオ一本釣りの操業を任せる場合、舷外の漁ろう作業で海中へ転落するおそれがあったから、漁ろう長に対し、乗組員に命綱及び作業用救命衣を着用させるよう指示すべき注意義務があった。しかし、同受審人は、海面状態が良好で風もあまりなかったことから、通常の作業方法で大丈夫と思い、漁ろう長に対し、命綱及び作業用救命衣を着用させるよう指示しなかった職務上の過失により、釣り台で一本釣り中の乗組員が、釣り針にかかった大型魚に一瞬のうちに引き込まれて海中に転落し、行方不明となる事態を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、北太平洋の南鳥島北東方海域において、漁ろう作業の責任者として、乗組員にカツオ一本釣り作業を行わせる際、命綱及び作業用救命衣を着用させなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人の所為に対しては、その後、乗組員に対し作業用救命衣を着用させていることに徴し、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。