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平成15年門審第109号
件名

漁船第二海幸丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年3月24日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(安藤周二)

理事官
大山繁樹

受審人
A 職名:第二海幸丸機関長 海技免許:五級海技士(機関)(機関限定)(旧就業範囲)

損害
過給機タービン側軸受箱の玉軸受、ロータ軸及びブロワ等が損傷、のち同機を換装

原因
主機過給機軸受箱の排油口プラグの取付け不適切及び潤滑油漏洩の有無の点検不十分

裁決主文

 本件機関損傷は、主機過給機軸受箱の排油口プラグの取付けが不適切で、同プラグが緩んだこと及び潤滑油漏洩の有無の点検が不十分で、漏油が生じたまま運転が続けられたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年5月11日16時00分
 山口県見島北方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二海幸丸
総トン数 49.61トン
登録長 22.30メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 345キロワット
回転数 毎分830

3 事実の経過
 第二海幸丸(以下「海幸丸」という。)は、昭和52年4月に進水した、雑魚かご漁業に従事する鋼製漁船で、主機としてB社が製造したS185-ET2型と呼称するディーゼル機関を装備し、主機架構船尾側上部には排気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)が付設されていた。
 過給機は、C社が製造したVTR161-2型と呼称するもので、右舷側の軸流式タービンと左舷側の遠心式ブロワとを結合するロータ軸がタービン側軸受箱の単列玉軸受及びブロワ側軸受箱の複列玉軸受により支持されていた。そして、タービン側及びブロワ側各軸受箱は、それぞれ0.4リットル及び0.8リットルの潤滑油が入れられ、ロータ軸端に組み込まれた円板ポンプで玉軸受が注油される構造になっており、側面の軸受蓋には、上部に給油口、中央部下方寄りに油面計及び下部に排油口が設けられていた。
 ところで、過給機タービン側軸受箱は、排油口プラグとして六角ボルトが取り付けられ、排油口接合面には油密のため、セミメタリックガスケットと呼ばれるパッキンが装着されていた。
 A受審人は、平成13年8月海幸丸に機関長として乗り組み、主機の運転保守にあたり、周年にわたる山口県見島北方沖合を漁場とする操業において、全速力前進航行時には同機を回転数毎分680にかけ、月間250時間ばかりの運転を繰り返しており、同14年8月中間検査受検の際に過給機の開放整備を行った後、3ないし4箇月経過の都度、タービン側及びブロワ側各軸受箱の潤滑油を定期的に交換していた。
 ところが、A受審人は、同15年4月10日過給機タービン側軸受箱の潤滑油を交換する際、長期間の使用により変形していたパッキンを取り替えるなど、排油口プラグの適切な取付けを行わなかった。
 その後、過給機は、タービン側軸受箱の前示パッキンが運転に伴う振動の影響を受けて平坦化したことから、いつしか排油口プラグが締付力の低下に伴って緩み始め、排油口接合面から潤滑油が漏洩し、潤滑油量が徐々に減少していた。
 しかし、A受審人は、出漁前に主機を始動する際、過給機タービン側軸受箱の潤滑油を定期的に交換しているから大丈夫と思い、油面計で潤滑油量の減少状況を見るなどして、潤滑油漏洩の有無を十分に点検しなかったので、前示排油口プラグの緩みに気付かず、漏油が生じたまま、運転を続けた。
 こうして、海幸丸は、A受審人ほか6人が乗り組み、操業の目的で、船首1.20メートル船尾2.00メートルの喫水をもって、翌5月9日21時00分山口県大井漁港を発航し、見島北方沖合の漁場に至って操業を行い、11日13時00分同漁場を発進して水揚げのため、同県萩漁港に向け、主機を回転数毎分680にかけて航行中、過給機タービン側軸受箱の潤滑油量が著しく減少し、16時00分北緯35度23分東経130度55分の地点において、玉軸受が潤滑不良となって焼損し、ロータ軸が振れ回り、過給機が異音を発した。
 当時、天候は晴で風力3の南東風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、甲板で漁獲物の選別作業を行っていたところ、異音に気付いて機関室へ急行し、主機を停止した後、過給機タービン側軸受箱の過熱を認め、損傷が発生したものの運転が低速であれば可能と判断し、その旨を船長に報告した。
 海幸丸は、萩漁港に向けて続航し、12日02時ごろ同漁港に入港して漁獲物の水揚げを終え、大井漁港に回航した後、業者による過給機の精査の結果、タービン側軸受箱の玉軸受のほかロータ軸及びブロワ等の損傷が判明し、同機が換装された。 

(原因)
 本件機関損傷は、過給機タービン側軸受箱の排油口プラグの取付けが不適切で、同プラグが緩んだこと及び潤滑油漏洩の有無の点検が不十分で、漏油が生じたまま運転が続けられ、潤滑油量が著しく減少して玉軸受が潤滑不良となったことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、出漁前に主機を始動する場合、過給機タービン側軸受箱の潤滑油が漏洩することがあるから、その漏洩を見落とさないよう、油面計で潤滑油量の減少状況を見るなどして、潤滑油漏洩の有無を十分に点検すべき注意義務があった。しかし、同人は、過給機タービン側軸受箱の潤滑油を定期的に交換しているから大丈夫と思い、潤滑油漏洩の有無を十分に点検しなかった職務上の過失により、排油口プラグの緩みに気付かず、漏油が生じたまま運転を続け、潤滑油量が著しく減少して玉軸受の潤滑不良を招き、玉軸受のほかロータ軸及びブロワ等を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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