(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年5月8日04時00分
北太平洋
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三十八竹丸 |
総トン数 |
19トン |
登録長 |
14.95メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
294キロワット |
回転数 |
毎分1,800 |
3 事実の経過
第三十八竹丸(以下「竹丸」という。)は、昭和59年2月に進水した、まぐろ延縄漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、B社が製造した、6LAAK-DT型と呼称するディーゼル機関を装備していた。
主機は、清水による間接冷却式で、直結の渦巻式清水ポンプが冷却水を循環させ、また、直結のゴムインペラ式海水ポンプで清水冷却器、潤滑油冷却器及び給気冷却器に海水を送っており、クランク軸受には三層メタルが使用され、シリンダブロックの下部にオイルパンが取り付けられていた。
主機の潤滑油系統は、オイルパンに標準量64リットル容量の潤滑油が潤滑油ポンプで汲み上げられ、加圧されたものが、こし器と潤滑油冷却器を経て潤滑油主管から分配され、主軸受、伝動歯車装置、カム装置、過給機などを潤滑するようになっており、潤滑油主管の圧力が圧力調整弁で余剰の潤滑油をクランクケースに逃がし、4.5ないし5.5キログラム重毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)の範囲に調圧され、潤滑油圧力が1.3キロを下回ると機関室と船橋で警報が鳴るようになっていた。
竹丸は、1航海を約30日として操業し、主機の潤滑油が航海毎に取り替えられていたが、2番シリンダのクランクピン軸受が経年摩耗して隙間が増加し、潤滑油が逃げて潤滑油圧力が下がり気味であったうえ、潤滑油冷却器の冷却管が貝で閉塞気味(へいそくぎみ)になっていた。
A受審人は、平素から沖縄とアメリカ合衆国グアム島の間で漁船を回航する際に機関長として乗船することが多かったが、竹丸の機関長が体調を崩したことから、急遽(きゅうきょ)交替を依頼され、平成14年4月29日に乗船し、機関長として前任者から主機の管理状態を口頭で引き継ぎ、潤滑油こし器が取り替えられていないことを告げられたので、同こし器を取り替え、さらに潤滑油こし器の予備がないので、僚船から1組を借りて出港することとした。
竹丸は、A受審人ほか7人が乗り組み、船首1.4メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、同月30日07時00分(日本標準時、以下同じ。)グアム島アプラ港を発し、赤道方面の漁場に向かった。
主機は、潤滑油冷却器の海水量が大幅に減少していたので、潤滑油温度が摂氏90度より下がらず、また、クランクピン軸受の隙間から潤滑油の漏れる量が多くなっていたことから、潤滑油圧力がようやく2キロ程度で運転された。
A受審人は、主機の運転状態を日誌に記録しながら、潤滑油温度が高く、潤滑油圧力が低い状態が続いたので、5月2日10時05分主機を停止したが、警報が鳴らなければ問題ないと思い、同温度を下げるよう潤滑油冷却器の海水側を開放して、同冷却器を掃除することなく、また、潤滑状態を確認できるよう、クランク室を開けて連接棒大端部の動きを確認するなど、クランクの点検をすることなく、潤滑油圧力調整弁を締め込んだのち、主機を再始動した。
竹丸は、主機の潤滑油圧力がいったん3キロまで回復して航行を続けていたが、翌3日には再び2キロまで低下し、2番シリンダのクランクピン軸受が叩かれて摩耗が急激に進行し、同軸受の摩耗粉が潤滑油こし器に付着するようになり、同こし器の差圧が大きくなってバイパス弁が開いた。
A受審人は、同月4日に主機を停止し、冷却海水系統のこし器を開放して貝殻が多量に詰まっていることを認めたが、なおも潤滑油冷却器を開放して掃除することなく、また、クランク室を開けてクランクの点検をすることなく、消費して減少した潤滑油分をオイルパンに補給して主機の運転を続けた。
こうして、竹丸は、同月5日から操業を開始し、8日主機を毎分回転数1,200にかけて漁場を移動していたところ、主機2番シリンダのクランクピン軸受メタルのケルメット層がなくなり、むき出しになった裏金がクランクピンと焼き付き、同日04時00分北緯02度15分東経150度20分の地点で、潤滑油圧力低下の警報が鳴り、異音を発して激しく振動し、主機が自停した。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹いていた。
A受審人は、潤滑油こし器を点検して、金属粉が大量に付着しているのを認め、クランクケースを開放してみたところ、2番シリンダの大端部に金属粉が付着し、焼き付いているのを認め、同シリンダのピストンを抜き出し、クランクピンの油穴に木栓を打ち込み、減筒運転の準備を行った。
竹丸は、減速航行してグアム島に入港し、主機の損傷状況が精査され、2番シリンダのクランクピンが異常摩耗しているのが分かり、のち主機が換装された。
(原因)
本件機関損傷は、主機の潤滑状態の管理に当たり、潤滑油冷却器の掃除が不十分で、潤滑油温度が適切に保たれなかったこと、及びクランクの点検が不十分で、クランクピン軸受の隙間が増加したまま運転が続けられたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、前任者から引き継いで間もなく出港し、低下した主機潤滑油圧力を調整しても、適切な圧力上昇を得られなかった場合、クランク室を開放して連接棒大端部の遊びを確認するなど、クランクの点検をすべき注意義務があった。しかるに、同人は、警報が鳴らないので問題ないと思い、クランク室を開放して連接棒大端部の遊びを確認するなど、クランクの点検をしなかった職務上の過失により、クランクピン軸受の隙間が増加したまま主機の運転を続け、同軸受メタルが叩かれる事態を招き、異常摩耗させて焼き付かせ、のち主機関換装を余儀なくされるに至らせた。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。