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平成15年神審第95号
件名

プレジャーボートきたろう丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成16年2月18日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(相田尚武)

理事官
杉崎忠志

受審人
A 職名:きたろう丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船外機プロペラ軸付シャーピンが損傷

原因
船外機付プロペラの点検不十分

裁決主文

 本件機関損傷は、船外機付プロペラの点検が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年9月6日14時30分
 京都府舞鶴港
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートきたろう丸
全長 3.19メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 3キロワット
回転数 毎分5,000

3 事実の経過
 きたろう丸は、平成13年4月に進水した、最大搭載人員3人のFRP製組立式プレジャーボートで、船尾舷縁中央に主機として、B社が製造したDT5Y型と称する2サイクル1シリンダ電気点火機関の船外機が装備されていた。
 船外機は、機関部、駆動部、クラッチ及びプロペラなどから構成され、その動力伝達は、機関の回転力が、駆動小歯車から前進及び後進歯車に伝えられ、クラッチを前進又は後進歯車と嵌合(かんごう)させて、外径12ミリメートル(以下「ミリ」という。)のプロペラ軸に伝達され、同軸に装着された平行ピン(以下「シャーピン」という。)を経て軽合金製プロペラに伝えられるようになっていた。
 ところで、シャーピンは、長さ24ミリ、外径4ミリのステンレス鋼製で、プロペラ翼が水中で障害物に接触したときなどには、同翼の受けた衝撃力をシャーピンが吸収して折損することにより、歯車などの構成部品を保護する役割も兼ねていることから、定期的な点検を行ってシャーピンの損耗状態を確認する必要があった。
 そして、プロペラの点検について、メーカーでは、3箇月又は50時間運転ごと及びシーズンオフに行うこと、予備部品としてシャーピンとコッタピンをエンジンカバー内に収納していること及びその方法を取扱説明書に記載していた。
 A受審人は、平成12年10月に四級小型船舶操縦士の免許を取得し、翌13年4月にきたろう丸を購入し、自動車に積載して京都府舞鶴港に赴き、同港周辺海域において、レジャーの目的で、4月下旬から10月下旬にかけて使用していた。
 きたろう丸は、運航が続けられるうちプロペラ翼が障害物と接触したことなどにより、シャーピンが過大な剪断荷重(せんだんかじゅう)を受け、いつしか同ピンのプロペラ軸との境界付近2箇所に傷が生じる状況となったが、船外機の開放整備が行われなかったので、このことが気付かれないままとなった。
 A受審人は、平成15年7ないし8月の週末には頻繁にきたろう丸を使用していたものの、外観上プロペラ周囲に異常が見当たらなかったことから支障はないものと思い、業者に依頼するなどして定期的にプロペラを同軸から取り外しての点検を十分に行わなかったので、シャーピンに生じた前示傷部に繰返し応力が集中して亀裂(きれつ)が生じたことに気付かなかった。
 A受審人は、同年9月6日早朝自動車にきたろう丸を積載し、友人2人を乗せて自宅を出発し、08時15分ごろ舞鶴市アモ浜の海岸に着いて同船を組み立て、友人2人を同乗させ、船首0.3メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、レジャーの目的で、08時30分過ぎ同海岸を発し、船外機を全速力前進にかけ、毎時15キロメートルの対地速力で航行し、09時10分博奕岬(ばくちみさき)西側海岸に至って友人を降ろしたのち、ほかの自動車で到着した友人2人を乗せるため、同岬東側の瀬崎の海岸に向かい、09時45分同岬西側海岸に戻ったとき、前示シャーピンの亀裂が進展していたものの、このことに気付かないまま、同船を岩場に引き揚げて素潜りなどを行った。
 こうして、きたろう丸は、14時20分再び海上に下ろされ、A受審人が1人で乗り組み、友人2人を同乗させ、14時25分船外機が始動され、クラッチシフトレバーが中立位置から前進側に操作されたとき、海岸での揚げ下ろし時の衝撃によるものか、動力伝達時の衝撃によるものかシャーピンの2箇所の亀裂部が折損して、プロペラ軸の回転力が伝達されず、14時30分博奕岬灯台から真方位341度300メートルの地点において、プロペラが回転不能となった。
 当時、天候は曇で風力2の北北東風が吹き、付近海上には波高約0.5メートルの波浪があった。
 A受審人は、クラッチシフトレバーを数回操作したがプロペラが回転せず、陸揚げして船外機各部を調べたものの、シャーピンが折損したことに思い及ばず、救助を要請した。
 その結果、きたろう丸は来援した海上保安庁の巡視艇により舞鶴港の岸壁に引き付けられ、のちシャーピンが取り替えられた。 

(原因)
 本件機関損傷は、船外機の取扱いにあたり、プロペラの点検が不十分で、プロペラ軸付シャーピンが傷ついた状態で運転が続けられ、同傷部に応力が集中したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、船外機の取扱いにあたり、プロペラ軸付シャーピンがほかの動力伝達部品を保護するよう、その強度を少し小さくしてあったから、業者に依頼するなどして定期的にプロペラを同軸から取り外しての点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、外観上プロペラ周囲に異常が見当たらないことから支障はないものと思い、プロペラを同軸から取り外しての点検を十分に行わなかった職務上の過失により、同ピンが傷つき、応力集中により亀裂が生じたことに気付かず、同ピンが折損してプロペラを回転不能とさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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