(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年1月1日13時00分
歯舞諸島南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第二十八海洋丸 |
総トン数 |
279トン |
全長 |
58.96メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,912キロワット |
3 事実の経過
第二十八海洋丸(以下「海洋丸」という。)は、昭和62年5月に進水し、遠洋底びき網漁業に従事する船首船橋・船尾機関室型の鋼製漁船で、機関室中央部に備えた主機の両側に、いずれも容量500キロボルトアンペアの交流発電機を駆動する同型の発電機駆動用原動機(以下「補機」という。)を各1機備え、右舷機を1号補機、左舷機を2号補機と称していた。
船楼甲板は、船首部から船体中央部にかけて、甲板長倉庫、乗組員居住区及びトロールウインチ区画を配列し、その後方が漁労甲板となって、最後部にスリップウエイを設置し、漁労甲板の両舷にインナーブルワークを設け、両舷ブルワークとインナーブルワークとに囲われた区画にコンパニオン各1個を備えていた。
両舷コンパニオンは、上甲板の漁獲物処理室や機関室に通じる階段室のほかファン室を備え、その頂部に排気管の化粧囲い(以下「化粧煙突」という。)を設置しており、主機及び1号補機の各排気管が右舷側の化粧煙突に、2号補機の排気管が左舷側の同煙突にそれぞれ導かれていた。
補機は、B社が製造したS165L-EN型と称する定格出力441キロワット同回転数毎分1,200の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関で、空気始動方式となっていた。
2号補機の排気管は、呼び径200ミリメートル(以下「ミリ」という。)の鋼管が用いられ、過給機から左舷コンパニオン内に設けられた消音器を経て化粧煙突に至り、同煙突よりわずか上方に突き出て、正船尾方よりやや外側に向いて水平に折れ曲がり、その開口部に蓋(以下「排気口蓋」という。)を備えていた。
排気口蓋は、ヒンジを備えた開閉自在式のもので、ヒンジを上にして垂直にぶら下がる格好で排気管に取り付けられており、ヒンジのピンとして呼び径10ミリ長さ75ミリのボルトが用いられ、同蓋を開または閉状態で係止するため、同蓋にアイ及び排気管にフックが備えられていた。
ところで、補機排気管の開口部は、海面からの高さが約5メートルの位置にあり、補機の休止中は雨水やしぶき混じりの海水が排気管内に浸入するおそれがあって排気口蓋を閉める必要があったが、運転中は排気圧があるのでそのおそれがなかった。
A受審人は、平成元年12月に一等機関士として乗り組み、翌2年3月に機関長に昇職して機関部の職員2人及び部員2人を指揮しながら機関の運転管理に従事し、1、2号補機については、約5日間隔で交互に単独運転とし、始動に当たり、排気口蓋の係止用のフックを閉状態から開状態に掛け替えて始動するようにしていた。
海洋丸は、平成14年10月20日釧路港を発し、28日ベーリング海域の漁場で操業を始め、連日の操業を繰り返していた。
越えて12月26日A受審人は、発電機の切替え後、2号補機の排気口蓋を閉めるため甲板上に出たとき、同蓋のヒンジのピンが経年劣化により錆びて細くなっているのを認めたが、同蓋が外れることはあるまいと思い、速やかに同ピンを新替えするなど、同蓋のヒンジの整備を十分に行わなかった。
翌27日海洋丸は、操業を切り上げて漁場を発進し、ロシア連邦の漁業監督官を下船させるため、ロシア連邦ペトロパブロフスク カムチャツスキー港に寄港することとして帰途に就いた。
海洋丸は、A受審人ほか17人が乗り組み、約300トンのたら等の漁獲物を積載し、船首3.80メートル船尾6.60メートルの喫水をもって、平成14年12月28日夜ペトロパブロフスク
カムチャツスキー港を発し、1号補機を運転して南下していたところ、翌29日夕方から荒天模様となり、強い北北西風と波の打ち込みを受けて航行中、2号補機の排気口蓋が動揺や打ち込んだ海水により叩かれ、ヒンジのピンが折れて排気管から外れ落ち、海水が排気管に浸入するようになって、過給機、排気マニホルド、排気弁、シリンダ及び吸気弁を順に経て給気管に達する状況となった。
A受審人は、天候が回復した平成15年1月1日補機を切り替えることとし、2号補機の排気口蓋を開けるため甲板上に出たところ、同蓋がなくなっていることに気付いたものの特段気にも留めず、13時00分北緯43度05分東経146度15分の地点において、機関室に戻って始動操作を行ったところ、同機が回らず、海水が過給機の空気吸込み口から噴出するのを認めた。
当時、天候は晴で、風力4の南西風が吹き、波高が約3メートルであった。
そこで、A受審人は、海水が排気管から浸入したことに思い至り、2号補機に滞留していた海水の排除に努め、海洋丸は、釧路港において、同機の開放調査が行われた結果、ピストン、シリンダライナ、シリンダヘッド及び過給機等が濡損していることが判明し、のち修理された。
(原因)
本件機関損傷は、補機排気口蓋のヒンジの整備が不十分で、補機の休止中、経年劣化によりヒンジのピンが折れて同蓋が外れ落ち、海水が排気管に浸入したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、補機排気口蓋のヒンジのピンが経年劣化により錆びて細くなっているのを認めた場合、補機の休止中、同蓋が外れると海水が排気管に浸入するおそれがあったから、速やかにピンを新替えするなど、同蓋のヒンジの整備を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同蓋が外れることはあるまいと思い、同蓋のヒンジの整備を十分に行わなかった職務上の過失により、補機の休止中、ピンが折れて同蓋が外れ落ち、海水が排気管に浸入する事態を招き、ピストン、シリンダライナ、シリンダヘッド及び過給機等が濡損するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。