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平成15年函審第37号
件名

漁船第十一萬漁丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成16年3月17日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(岸 良彬、黒岩 貢、野村昌志、鈴木孝司、冨田幸雄)

理事官
河本和夫

受審人
A 職名:第十一萬漁丸機関長 海技免許:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
コンパニオン内の構造物及び電気機器、漁網、コンパニオン上方のデリックブームなどが焼損、バッテリー及び電気溶接機などを濡損

原因
アセチレン容器の容器弁接続部の漏洩検査不十分

主文

 本件火災は、アセチレン容器を取り替えた際、容器弁接続部の漏洩検査が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年9月14日11時30分
 北海道追直漁港
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十一萬漁丸
総トン数 145トン
全長 34.92メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 956キロワット

3 事実の経過
 第十一萬漁丸(以下「萬漁丸」という。)は、昭和54年1月に進水した、沖合底びき網漁業に従事する船首船橋全通二層甲板型鋼製漁船で、上甲板の下方が第二甲板となり、上甲板には、船首から順に、船首甲板、操舵室、トロールウインチ、漁労甲板及びスリップウエイを配列し、漁労甲板の後部両舷にインナーブルワークで囲われた作業甲板を設け、第二甲板には、甲板長倉庫、居住区、漁獲物処理場、機関室囲壁、食堂、賄室及び漁具庫を配列し、機関室囲壁の左舷側に通路、バッテリー庫、電気溶接機置場及び階段室を設け、第二甲板下には、船首タンク、魚倉、機関室、居住区及び燃料タンクをそれぞれ配列していた。
 作業甲板は、船体のほぼ中央部から船尾端にかけての両舷側沿いに設けられ、いずれも長さ15.5メートル幅2.3メートルで、船首寄りの舷側沿いにコンパニオンが各1個設置されていた。
 左舷コンパニオン(以下「コンパニオン」という。)は、長さ5.2メートル幅1.0メートル高さ約1.9メートルで、前部に便所、後部に第二甲板に通じる階段室を配し、階段が後部下方に傾斜して設置され、上部踊場の出入口扉が右舷側に設けられていた。また、右舷コンパニオンは、前部に煙突室、後部に通風機室を配していた。
 コンパニオン内の階段は、高低差が1.8メートルあり、下部踊場の出入口が右舷側に向けて設けられ、第二甲板の漁獲物処理場と食堂とを結ぶ通路に通じていた。また、コンパニオン内には、天井に20ワット直管式蛍光灯と白熱灯各1個、便所に白熱灯1個、上段に連絡合図用押しボタン、ベル及び上甲板作業灯スイッチ、中段に陸電接続箱、ホイスト始動器箱及びレセプタクルがそれぞれ設置され、陸電接続箱には電圧220ボルトのノーヒューズブレーカーと陸電ケーブル用コネクタ、ホイスト始動器箱にはマグネットコンタクタとコントローラ用コネクタが装備されていた。
 萬漁丸は、アセチレンガス切断設備として、前示階段室の下部踊場の左舷壁に沿って、アセチレン容器1個を船首側、酸素容器1個を船尾側にして立てかけて並べ置き、各容器に接続しホースバンドで固定された長さ30メートルのゴムホースが、2本束ねて輪状に巻かれ、切断器とともに容器上方のフックに掛けられていた。
 アセチレン容器は、容積が41.0リットルあり、高さ940ミリメートル(以下「ミリ」という。)外径259ミリの円筒状をなし、頂部に容器弁及び保護キャップ、本体肩部に105度(摂氏、以下同じ。)で溶融する穴径4ミリの可溶栓を備え、容器内のアセチレンは、充填初期で重量が7.0キログラム、圧力が約15キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)あり、多孔物質に浸潤した溶剤に溶け込んでいて、容器弁に接続する圧力調整器で減圧されたうえ、切断器からの火炎の逆流を防ぐための逆火防止器を通過し、ゴムホースに至るようになっていた。
 圧力調整器は、減圧弁、一次圧力計及び二次圧力計を備え、入口側に接続金具を、出口側に逆火防止器をそれぞれ組み込み、逆火防止器の出口側にゴムホースを接続し、これらが一体となっていた。
 圧力調整器の接続金具は、楕円形の輪状をなし、短辺の一方の内側に同器の入口口金が、他辺にハンドル付き締付けボルトが組み込まれており、同金具を容器弁に取り付けるに当たっては、同口金を容器弁出口穴に、同ボルト先端を保護キャップにそれぞれ軽く当て、容器弁を中に挟むようにして同ボルトを手で締め付け、同口金を容器弁出口穴に引き寄せて密着させる仕組みとなっていた。また、容器弁出口穴にはゴムパッキンが挿入されていた。
 ところで、アセチレンの特性は、比重0.91の可燃性ガスで、爆発範囲が2.5ないし100パーセントと広範囲にわたり、比較的希薄な状態であっても爆発する危険性を有し、静電気のような着火エネルギーが低い火源であっても着火するおそれがあって、その取扱いには慎重を要し、アセチレン容器の取替えなど、配管接続部の開放を伴う作業を行ったときは、作業完了後に石鹸水を塗って接続部の漏洩検査を行う必要があった。また、アセチレンは、純粋状態で無色無臭であるが、アセチレン容器内の溶剤の臭いを有していた。
 A受審人は、昭和46年9月に乙種二等機関士の免許を取得し、同63年4月に一等機関士として萬漁丸に乗り組み、平成5年9月に機関長に昇職したもので、ガス切断装置の管理責任者でもあり、アセチレン容器の取替え作業を年間2回ばかり行っていた。
 萬漁丸は、操業を終えて平成14年9月14日03時30分北海道追直漁港に左舷付けで着岸し、陸電に切り替えて水揚げを終了後、機関室内の海水サービスポンプと雑用兼消防ポンプを運転した状態で、08時ごろからA受審人が岸壁倉庫でドラム缶入り作動油の小分け作業に、賄員が船内で食事の準備にそれぞれ従事し、他の乗組員11人全員が岸壁上で網の修理作業に掛かったところ、網を連結しているシャックルが固着していたため、08時40分甲板長がガス切断作業に取り掛かり、その後甲板員と交代して同作業が行われたが、10時ごろアセチレン及び酸素の両容器が空になったので、ガス切断作業を中断した。
 10時40分A受審人は、業者に注文して配送されたアセチレン容器と岸壁倉庫内に保管していた予備酸素容器を船内に搬入し、圧力調整器の接続金具を新しいアセチレン容器に付け替えて、容器弁を開弁した際、締付けボルトが締め付け不足であったか容器弁パッキンに異物を噛み込んだかして、容器弁接続部から異臭を感じるまでには至らない程の少量のアセチレンが漏れる状況であったが、漏れがあれば臭いで分かるだろうと思い、石鹸水を塗るなどして、容器弁接続部の漏洩検査を行わなかったので、このことに気付かないまま、二次圧力をアセチレン0.3キロ、酸素1.0キロに調整して、11時ごろ容器の取替えが完了したことを甲板長に伝えた。
 そこで、甲板長は、切断器に着火させようとしたところ、アセチレンが出てこないことを認めたが、これが火口と称するガス出口ノズルの詰まりによるものとは思わず、容器取替えに伴う不具合によるものと早合点し、A受審人にアセチレンが出てこないことを報告し、同人が二次圧力をアセチレン0.5キロ、酸素1.2キロに調整したものの、依然として切断器からアセチレンが出てこなかった。
 こうして、萬漁丸は、アセチレン容器から漏洩が続く状況下、A受審人と賄員1人が在船し、船首2.1メートル船尾4.0メートルの喫水をもって係留中、11時30分追直港島堤灯台から真方位059度360メートルの地点において、コンパニオン天井の蛍光灯の接点から発した火花が階段室に滞留したアセチレンに引火し、ボーンという音を発してコンパニオン内が火災となった。
 当時、天候は晴で風力2の南東風が吹き、海上は穏やかであった。
 折から、A受審人は、切断器を点検しようとタラップを降り始めたところであり、賄員は、食堂から漁獲物処理場に逃れ、いずれも無事で、萬漁丸は、アセチレン容器の可溶栓などから勢いよく噴き出たアセチレンが燃え続けたが、駆け付けた消防車の放水により、12時02分鎮火したものの、可溶栓から放出される小さな炎が消えず、20時ごろアセチレンが燃え尽きてようやく消火した。
 火災の結果、萬漁丸は、コンパニオン内の構造物及び電気機器、コンパニオン出入口付近に置かれていた漁網、コンパニオン上方のデリックブームなどが焼損したほか、バッテリー及び電気溶接機などを濡損したが、のち修理された。

(原因の考察)
 本件火災は、アセチレン容器を空のものから新しいものに取り替えて間もなく、ボーンという音を発しながら瞬間的に燃え上がる現象を呈して火災となったもので、アセチレンの漏洩箇所及び着火源について考察する。
1 アセチレンの漏洩箇所
 アセチレン容器の取替え作業は、圧力調整器と付属機器とが一体となった接続金具を空の容器から新しい容器に付け替えるだけであり、配管接続部を開放した箇所は、同調整器の入口口金と容器弁の出口穴を接続する部分のみで、その他の箇所は一切開放されていない。したがって、この部分からの漏洩の可能性について検討する。
 接続部のパッキンは、B-806型バルブ取扱説明書写中の組立図によると、容器弁出口穴のインロー部に装着されており、しかも見え易い位置にある。A受審人に対する質問調書中、「圧力調整器を取り付ける前にパッキンを確認した。」旨の供述記載があり、パッキンが正規に装着されていたものと認められ、また、B証人の当廷における、「容器を出荷するときパッキンを交換している。」旨の供述から、パッキンは新品であり、その性状にも問題はなく、パッキンに起因する漏洩はなかったものと考える。
 圧力調整器の接続金具は、空の容器から外されて新しい容器に取り付けるまでの間、しばらく放置されているうち、入口口金に、接続金具の取り外しや容器の移動に伴って舞い上がった錆片などの異物が付着することがあり得る。異物の除去が不完全なまま接続金具が取り付けられた場合、漏洩することが考えられる。
 接続金具は、ハンドル付きの締付けボルトを手で締める方法で取り付けており、格別工具を使用していないので締め付け不足となることもあり、締め付け不足による漏洩の可能性を否定できない。
 また、圧力調整器などの状況についての検査調書中、入口口金が激しく焼損していることを示す写真があり、容器弁接続部でアセチレンが燃焼した痕跡を認めることができる。
 一方、アセチレンの漏洩量について検討すると、A受審人に対する質問調書中、「11時ごろアセチレン容器の取替えを完了したが、甲板長からガスが出ないという連絡があり、再度圧力を調整したが、同様であった。容器の取替えを完了して5分ぐらいの間に2回ほどアセチレン容器のところへ行ったが臭いは感じなかった。」旨の供述記載及び溶解アセチレンの製品安全データシート中、「アセチレンは、純粋状態で無色無臭であるが、溶剤の臭いがする。」旨の記載により、臭いを感じない程度の漏れであったこと及び狭い空間であったにもかかわらず、その濃度が爆発下限値である2.5パーセントに達するまで30分もの時間を要したものと考えられることから、少量の漏洩であったものと認められる。
 次に、配管の接続部以外の漏洩箇所として、ゴムホースからの漏洩の可能性について検討する。
 ゴムホースは、逆火防止器の出口側に接続され、接続箇所がホースバンドで固定されており、抜ける可能性は少ない。また、A受審人に対する質問調書中、「ゴムホースは、ひび割れもなく弾力があった。」旨の供述記載及びB証人の当廷における、「ゴムホースは、耐用年数の定めがなく、ひびが入ってきたら交換するのが一般的である。」旨の供述により、ゴムホースの劣化も考えられず、漏洩の可能性は少ない。
 以上のことから、アセチレンの漏洩箇所は、アセチレン容器の容器弁接続部であると認めるのが相当である。
2 着火源
 火災は、コンパニオン内のみに発生しており、区域が限定されている。そこで、コンパニオン内で着火源として考えられるものについて検討する。
 乾式安全器(DP-08)調査報告書写中、「逆火防止器の遮断弁が作動していないことから、切断器からの逆火はない。」旨の記載及び甲板長に対する質問調書中、「アセチレン容器を取り替えてから切断器に着火していない。切断器の火口を手と顔に当てガスが出るかどうか確かめたが出てこなかった。」旨の供述記載により、切断器の炎がアセチレン容器に達する逆火現象は起きておらず、逆火による着火はない。
 当時、コンパニオン内に装備されていた電気機器のうち、通電されていたものは、陸電接続箱及び照明器具なので、これらからの火花発生の可能性について検討する。
 A受審人に対する質問調書中、「毎日夕方の18時ごろから翌朝の04時半ごろまで陸電を使用している。3月ごろ陸上側の開閉器が落ちたことがあったので端子の緩みを点検した。」旨の供述記載により、陸電接続箱のノーヒューズブレーカーは頻繁に入、切を繰り返しており、接点表面が相当程度肌荒れしていたものと考えられる。しかしながら、接点表面に肌荒れ部分があっても、通電中の両接点間に電位差がないことから火花を生じることはない。
 また、端子の緩みが点検されてからの日も浅いことから、端子の緩みによる火花発生の可能性は小さい。
 照明器具のうち、蛍光灯は、ソケット部が差し込み式であるため、経年によりソケット部の張りが弱っていると、振動により接点が瞬間的に離れることが考えられ、その際小さな火花を発する可能性がある。一方、白熱灯は、ねじ込み式であり、緩みを生じづらい構造となっているので、火花が発生する可能性は小さい。
 また、当時、コンパニオン内は無人であったことから、着衣の帯電による人体からの静電気火花の発生もない。
 結局、コンパニオン内で他に考えられる火花の発生箇所が見当たらず、アセチレンは小さなエネルギーであっても着火することから、本件は、蛍光灯から発した火花により着火したものと認めるのが相当である。
3 漏洩検査
 アセチレン容器を取り替えるに当たり、取替え完了後に石鹸水を塗って容器弁接続部の漏洩検査を行っておれば、本件の発生を防止することができたものであり、漏洩検査を行っていなかったことは、本件発生の原因となる。

(原因)
 本件火災は、アセチレン容器を取り替えた際、容器弁接続部の漏洩検査が不十分で、同接続部から漏れたアセチレンがコンパニオン内に滞留し、蛍光灯から発せられた火花により着火したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、アセチレン容器を取り替えた場合、漏れの有無を確認できるよう、石鹸水を塗るなどして、容器弁接続部の漏洩検査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漏れがあれば臭いで分かるだろうと思い、同接続部の漏洩検査を十分に行わなかった職務上の過失により、同接続部から漏れたアセチレンがコンパニオン内に滞留し、蛍光灯から発せられた火花により着火して火災を招き、コンパニオン内の構造物及び電気機器などに焼損を生じさせたほか、バッテリー及び電気溶接機などを濡損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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