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平成15年門審第124号
件名

押船新成丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成16年2月27日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(安藤周二、長谷川峯清、千葉 廣)

理事官
大山繁樹

受審人
A 職名:新成丸機関長 海技免許:三級海技士(機関)(機関限定)

損害
主機左舷機の燃料噴射ポンプ、給気マニホルド、排気管及び機関室天井の電線等が焼損

原因
主機燃料噴射ポンプ周りの点検不十分、排気管の防熱措置不十分

主文

 本件火災は、主機燃料噴射ポンプ周りの点検及び排気管の防熱措置がいずれも不十分で、燃料油が排気管の高温部に降りかかって発火したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年7月19日20時50分
 山口県宇部港南方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 押船新成丸
総トン数 498トン
全長 49.90メートル
機関の種類 過給機付4サイクル8シリンダ・ディーゼル機関
出力 3,530キロワット
回転数 毎分720

3 事実の経過
 新成丸は、昭和58年10月に進水した、2機2軸を有する船首船橋型の鋼製押船で、A受審人ほか9人が乗り組み、船首2.50メートル船尾2.00メートルの喫水をもって、山口県蓋井島北西方沖合海底から採取した海砂約4,000立方メートルを積載して船首尾とも7.50メートルの等喫水となったバージしんせいの船尾中央凹部に船首部を嵌合(かんごう)し、一等機関士が1人で機関当直に就き、平成15年7月19日19時00分同県六連島東方錨地を発し、関門海峡を航過したのち同県乙小(おいと)島の海砂集積地に向かった。
 ところで、新成丸の機関室は、船体中央部上甲板下の長さ18.50メートル幅10.80メートル高さ4.50メートルの区画で、右舷船首側に監視室、その上部に主機及び発電機原動機用のA重油サービスタンクが置かれ、左右両舷に主機、同機船首側に原動機駆動発電機が設置され、上甲板の左右両舷の煙突ケーシング船首側に通風装置用電動送風機が装備され、同ケーシング中央部に出入口があり、右舷出入口付近には主機非常停止、同タンクの燃料油非常遮断弁及び同送風機非常停止の各遠隔操作スイッチが取り付けられていた。
 主機は、左舷機及び右舷機がB社製造の8DSM-28SL型及び8DSM-28S型と呼称されるディーゼル機関で、各シリンダに船首側を1番とする順番号が付され、架構左舷側に各シリンダのボッシュ式の燃料噴射ポンプ、同ポンプ上方に円筒形の給気マニホルド、架構右舷側にシリンダへッドと過給機とを接続した排気管2本がそれぞれ設けられており、排気管の外周部にはロックウール保温材、ガラス繊維布及び鋼製薄板による防熱被覆が施されていた。
 主機の燃料油系統は、A重油サービスタンクから電動式燃料油供給ポンプに吸引されて2.0ないし3.0キログラム毎平方センチメートルに加圧された燃料油が、燃料油こし器、燃料油主管を通って各シリンダの燃料噴射ポンプに分岐し、同ポンプで270キログラム毎平方センチメートルに昇圧されて燃料噴射弁へ送られるようになっていた。
 また、主機の燃料噴射ポンプは、燃料油入口側のエア抜き用の目的で、ねじの呼び径6ミリメートル長さ21ミリメートルの六角ボルト(以下「エア抜きボルト」という。)が接合面にアルミニウム製のパッキンを挿入のうえ標準締付けトルク0.4ないし0.6キログラムメートルで装着されていた。
 A受審人は、平成14年6月に新成丸の機関長として乗り組み、主機の運転保守にあたり、乗船前に定期検査受検整備工事が行われていて、特に支障がなかったことから、燃料噴射ポンプ及び燃料噴射弁を整備しないまま、月間450時間ばかりの運転を続けていた。
 ところが、主機左舷機は、いつしか4番シリンダの燃料噴射ポンプのエア抜きボルトが振動によるパッキンの平坦化などで少しずつ緩み、また、就航以来、シリンダヘッド等の整備工事が繰り返され、排気管の取外しが行われているうちに防熱被覆がはがれる状況になっていた。
 しかし、A受審人は、機関室の見回りを行っていたものの、主機左舷機の燃料噴射ポンプのエア抜きボルトを増し締めするなどして同ポンプ周りを十分に点検しなかったので、同ボルトの緩みに気付かず、また、排気管の防熱被覆がはがれて裸出箇所があることを認めたが、次回入渠時に整備するまでまさか火災にはならないものと思い、速やかに排気管の防熱措置をとらず、裸出箇所をそのまま放置した。
 こうして、新成丸は、主機左舷機及び右舷機を全速力前進の回転数毎分620にかけて10.0ノットの対地速力で山口県宇部港南方沖合を航行中、同15年7月19日20時ごろ一等機関士が機関室の見回りを行った後、同左舷機4番シリンダの燃料噴射ポンプのエア抜きボルトが緩みにより脱落し、燃料油が漏洩して噴き上げ、給気マニホルドに当たって隣接するシリンダヘッドの間から右舷側へ飛散した同油が排気管の裸出していた高温部に降りかかって発火したのち燃え上がり、20時50分宇部岬港沖防波堤東灯台から真方位216度5.2海里の地点において、機関室が火災になった。
 当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、海上は穏やかであった。
 一等機関士は、監視室にいたところ、同室船尾側のガラス窓越しに主機左舷機4番シリンダのシリンダヘッド付近で立ち上っている炎に気付き、持運び式泡消火器による初期消火を試みたものの煙に妨げられて果せないまま、直通電話で船橋当直者に機関室の火災を連絡するとともに主機遠隔操縦装置による減速を要請した後、右舷出入口へ脱出して燃料油非常遮断弁の遠隔操作スイッチを入れ、船橋下部居住区機関長室で休息していたA受審人に火災を報告した。
 その後、A受審人は、機関室の右舷出入口に急行したが、煙のために入室を断念し、主機非常停止及び通風装置用電動送風機非常停止の両遠隔操作スイッチを入れた後、機関室の密閉消火及び放水による冷却などの措置をとり、22時30分鎮火を確認した。
 火災の結果、新成丸は、主機左舷機の燃料噴射ポンプ、給気マニホルド、排気管及び機関室天井の電線等が焼損したほか、発電機等の絶縁抵抗が低下し、航行不能となって引船の来援を求め、関門港田野浦区に曳航された後、各焼損部等が修理された。 

(原因)
 本件火災は、主機燃料噴射ポンプ周りの点検が不十分で、エア抜きボルトが脱落して燃料油が漏洩したこと及び排気管の防熱措置が不十分で、飛散した同油が排気管の高温部に降りかかって発火したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、主機の運転保守にあたり排気管の防熱被覆がはがれて裸出箇所があることを認めた場合、同箇所が高温部であったから、不測の漏油時に発火しないよう、速やかに排気管の防熱措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、次回入渠時に整備するまでまさか火災にはならないものと思い、速やかに排気管の防熱措置をとらなかった職務上の過失により、燃料噴射ポンプのエア抜きボルトが脱落して燃料油が漏洩した際に飛散した同油が排気管の高温部に降りかかって発火し、機関室の火災を招き、主機の燃料噴射ポンプ、給気マニホルド、排気管及び機関室天井の電線等を焼損させたほか、発電機等の絶縁抵抗を低下させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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