(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年1月10日12時30分
沖縄県金武中城港
2 船舶の要目
船種船名 |
引船みつ丸 |
起重機船301光海号 |
総トン数 |
4.9トン |
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全長 |
11.72メートル |
31.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
205キロワット |
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船種船名 |
引船第二十八室生丸 |
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総トン数 |
19トン |
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全長 |
17.61メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
1,203キロワット |
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3 事実の経過
みつ丸は、昭和58年2月に進水し、専ら港内での台船の曳航作業などに従事する鋼製平甲板型引船兼作業船で、平成3年9月に一級小型船舶操縦士免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、沖縄県中城湾金武中城港南西部にあたる西原与那原地区の防波堤(以下、防波堤については「西原与那原地区」を省略する。)築造工事現場沖合で引船第二十八室生丸(以下「室生丸」という。)から起重機船301光海号(以下「台船」という。)の曳航を引き継ぐ目的で、船首0.2メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、同15年1月10日10時00分同湾北部の同港中城新港地区の係留地を室生丸とともに発し、金武中城港中城新港東防波堤西灯台から350度(真方位、以下同じ。)700メートルの地点に錨泊中の台船に向かった。
ところで、みつ丸は、甲板上の船体中央部に操舵室が配置され、その後方に機関室囲壁があり、同室両舷に引き戸付きの出入口、同囲壁天井前部中央に1個の通風筒及び同天井中央部に煙突がそれぞれ設けられていた。同室前方の前部甲板上にウインチ1台、船首両舷にはビット各1個が設けられており、同囲壁後端の船体中心線上で、船尾端から前方3.0メートル甲板上0.9メートルのところに正船尾から左右約90度まで旋回できる曳航フックが備えられていた。また、甲板下には、船首から順にボイドスペース、船倉、機関室、燃料庫及び操舵機室がそれぞれ設けられていた。
また、台船は、箱型の鋼製非自航船で、船尾部に居住区が設けられ、船首部に50トン吊りの起重機、居住区左舷側にはウインチ4台がそれぞれ備えられており、船首尾とも0.8メートルの喫水となっていた。
同船は平成10年ごろから金武中城港西原与那原地区で埋立て工事、防波堤の築造工事等に従事していたところ、築造中の防波堤のケーソン据付け作業を行うため、出力の大きい室生丸に防波堤築造工事現場沖合まで曳航されたのち、みつ丸に同地区内まで曳航されることになった。
一方、室生丸は、平成12年10月に進水し、船尾部にウインチ1台を備えた鋼製引船で、船長Bが1人で乗り組み、作業員2人を乗せ、船首1.0メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、台船を防波堤築造工事現場沖合まで曳航する目的で、前示のとおり発航した。
10時20分A受審人は、室生丸とともに台船に到着し、室生丸から作業員2人が台船に乗り移って室生丸の曳航索をとり、揚錨を終えたところで同船が曳航を開始したので、同時30分錨地を発して台船の後を追った。
10時45分A受審人は、金武中城港中城新港東防波堤を通過したころ台船の左舷船尾部にある2台のウインチからローラーを介し、船首両舷から繰り出された長さ30メートル直径32ミリメートル(以下「ミリ」という。)の合成繊維製の曳航索を自船の船首両舷のビットにとり、室生丸のウインチから船尾に繰り出した長さ50メートル直径60ミリの合成繊維製の曳航索を台船の船尾中央にとった室生丸によって、全長約140メートルの引船列となり、室生丸が機関を全速力前進にかけて台船を船尾引きしたので、同船に追従する形で防波堤築造工事現場沖合に向かった。
その後、B船長は、全速力の6.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で金武中城港内を南下して与那原湾に入り、12時13分当添港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から052度2.0海里の地点に達したとき、針路を築造中の防波堤先端付近に向く249度に定め、同一速力で手動操舵によって進行した。
12時24分わずか過ぎB船長は、北防波堤灯台から028度1,650メートルの地点に達したとき、機関を半速力の5.0ノットに減じ、同時26分少し過ぎ防波堤の手前800メートルの地点で、微速力の3.0ノットに減じて続航した。そして、同時29分防波堤の手前550メートルの、北防波堤灯台から011度1,270メートルの地点に達したとき、みつ丸が台船を曳航し易いよう船首を反方位に向けることとし、右舵10度をとってゆっくりと右回頭を始め、180度回頭して台船の船首が249度に向いたところで機関を停止し、台船の船尾からとっていた曳航索を放し、同索の回収にあたった。
A受審人は、室生丸が曳航してきた台船の曳航を引き継ぐため、室生丸が回頭中、操舵室両舷の引き戸を開放していたので、そこから出て船首に向かい、左舷船首のビットにとっていた曳航索を自ら放したあと操舵室に戻り、機関を前進にかけたり停止したりして、1ないし2ノットの惰力で、069度の方向に後進中の台船とほぼ同じ方向に移動して同船に接近し、12時29分半ごろ台船の左舷船首角に船首を着けて機関を停止し、作業員1人を乗り移らせた。
その後、A受審人は、機関をわずかに後進にかけ、船首が台船から少し離れたあと機関を停止し、その間、作業員が右舷船首のビットにとっていた曳航索を船体後部の曳航フックに取り直したところ、船首が台船から3メートルほど離れて右偏し、台船の船側線と少し角度がついて台船の内側に位置する体勢となった。
次いで12時30分少し前A受審人は、いったん台船に収容した左舷船首の曳航索を曳航フックに取り直す作業を行うことととしたが、台船の行きあしが弱いので大丈夫と思い、同船の動きに合わせ、その行きあしが止まるのを待つなど、台船の行きあしに対する配慮を十分に行わないで、そのころ風力4の北東風を左舷船首方から受けていたので、船首がもう少し右偏し、船尾が台船に接近してから曳航索を受け取り、これを曳航フックにとるつもりでいたところ、船首がその風に落とされるとともに曳航索が緊張し、台船に横引きされて一瞬のうちに左舷側に大傾斜し、12時30分北防波堤灯台から009度1,300メートルの地点において、船首が165度を向いて左舷側に転覆した。
当時、天候は曇で風力4の北東風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、付近には高さ約1メートルの波があった。
転覆の結果、みつ丸は機関等に濡れ損を生じたが、台船の起重機によって同船上に引き揚げられ、のち修理された。また、A受審人と作業員は海上に投げ出されたが、台船により救助された。
(原因)
本件転覆は、沖縄県金武中城港西原与那原地区沖合において、他船が曳航してきた台船の曳航を引き継ぐため、曳航索を取り直す作業を行う際、台船の行きあしに対する配慮が不十分で、同船に横引きされたことよって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、沖縄県金武中城港西原与那原地区沖合において、他船が曳航してきた台船の曳航を引き継ぐため、曳航索を取り直す作業を行う場合、台船に横引きされないよう、同船の動きに合わせ、その行きあしが止まるのを待つなど、同船の行きあしに対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、台船の行きあしが弱いので大丈夫と思い、同船の行きあしに対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、台船に横引きされて転覆を招き、みつ丸の機関等に濡れ損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。