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平成15年神審第87号
件名

プレジャーボート第二光治丸転覆事件(簡易)

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成16年3月24日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(竹内伸二)

副理事官
河野 守

受審人
A 職名:第二光治丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船外機に濡損

原因
気象・海象に対する判断不適切、航行に危険な高波が発生していた海岸沖合の航行を中止しなかったこと

裁決主文

 本件転覆は、うねりと海岸からの反射波とによって航行に危険な高波が発生していた海岸沖合の航行を中止しなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年4月27日12時30分
 福井県内外海半島若狭蘇洞門海岸沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート第二光治丸
全長 3.18メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 5キロワット

3 事実の経過
 第二光治丸(以下「光治丸」という。)は、3人乗りの船外機付きFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、知人1人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.15メートル船尾(船外機下端)0.70メートルの喫水をもって、平成15年4月27日07時30分福井県小浜港を発し、小浜湾内の釣り場に向かった。
 ところで、光治丸は、船体重量が約60キログラムで甲板と船底との間が気密構造の空所となっており、甲板前部に3箇所、同後部に2箇所の物入れがそれぞれ横に並んで設置され、平素はA受審人が自宅に保管していた。
 A受審人は、昭和51年7月に四級小型船舶操縦士の免許を取得し、それ以来、年に8回ほどプレジャーボートを運航して主に穏やかな湾内で魚釣りを行い、小浜湾では8回ほど魚釣りをしたことがあり、この日早朝自宅を出て、07時ごろ小浜港内の甲ケ埼付近に到着し、重量約25キログラムの船外機を船尾中央に取り付けて釣り場に向かった。
 A受審人は、小浜湾内で釣り場を変えながら主に底魚をねらって魚釣りをしたものの、釣果が思わしくなかったので同湾から外に出ることとし、11時45分松ケ埼付近の釣り場を発進し、小山ノ鼻をう回して同鼻北東方200ないし600メートルの入江でしばらく釣りを試みたのち、若狭蘇洞門海岸(わかさそともかいがん)の長崎東方に移動することとし、12時18分鋸埼灯台から078度(真方位、以下同じ。)1.7海里の地点で、針路を038度に定め、機関の回転を10.8ノットの全速力より少し下げ、7.0ノットの対地速力で、内外海半島(うちとみはんとう)北岸に沿って進行した。
 そのころ若狭湾は、前日に日本海を北東進した低気圧のため、波高1ないし2メートルのうねりが残っており、若狭蘇洞門海岸では、北方からのうねりが断崖状の海岸や岩礁に当たって反射し、この地方の漁業関係者が「壁返し」と呼んでいる急峻な高波がときどき発生しており、光治丸のような船幅の小さい小型プレジャーボートが、このような高波に遭遇すると大傾斜して転覆するおそれがあった。
 A受審人は、知人を前部中央にある物入れのFRP製カバーの上に座らせ、自身は後部右舷側物入れの同カバー上に腰掛け、左手で船外機のスロットルグリップ付きチラーハンドルを操作し、海岸から100ないし200メートル離れて続航した。
 定針して間もなくA受審人は、左舷船首方からの波高約1メートルのうねりと海岸からの反射波とにより船体が大きく動揺するようになったが、この程度の波なら転覆には至らないと思い、速やかに航行に危険な高波が発生していた若狭蘇洞門海岸沖合の航行を中止しなかった。
 こうして、光治丸は、長崎北方に達し、原針路、原速力のまま進行していたとき、12時30分鋸埼灯台から060度2.9海里の地点において、折からのうねりと反射波とによって波高約1.5メートルに高起した波を左舷側から受けて右舷側に大傾斜し、復原力を喪失して一瞬のうちに転覆した。
 当時、天候は晴で風力3の西北西風が吹き、潮候は上げ潮の末期にあたり、波高1メートルのうねりがあった。
 A受審人と知人は、救命胴衣を着用していなかったが、転覆した船体を復原したあと、物入れに収納してあった救命胴衣を着用して海岸に向かって泳いでいたところ、付近を通りかかった漁船に救助され、船体は小浜港に引きつけられた。
 転覆の結果、船外機に濡損を生じたが、のち修理された。  

(原因)
 本件転覆は、福井県内外海半島北岸において、釣り場を移動する際、北方からのうねりと海岸からの反射波とによって航行に危険な高波が発生していた若狭蘇洞門海岸沖合の航行を中止せず、高起した波のため大傾斜し、復原力を喪失したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、福井県内外海半島北岸において、釣り場を移動するため、若狭蘇洞門海岸沖合を航行中、うねりと海岸からの反射波とにより船体が大きく動揺するようになった場合、そのまま航行を続けると、ときどき発生していた高波のため船体が大傾斜して転覆するおそれがあったから、速やかに同海岸付近の航行を中止すべき注意義務があった。しかし、同人は、この程度の波なら転覆には至らないと思い、速やかに同海岸沖合の航行を中止しなかった職務上の過失により、高起した波のため船体が大傾斜して転覆を招き、船外機に濡損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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