(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年11月21日08時15分
青森県久六島東方沖
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船開漁丸 |
総トン数 |
3.0トン |
登録長 |
10.32メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
70 |
3 事実の経過
(1)開漁丸
開漁丸は、昭和58年3月にFRP製漁船として竣工したのち、平成6年3月にA受審人が購入して再登録されたもので、上甲板下の船体前半部に、船首から順に空倉、錨及び同索等を格納した倉庫、漁獲物格納用魚倉が2倉及び機関室並びに後半部に推進器覗き窓と操舵機室をそれぞれ設置していたほか、上甲板上の船首及び船尾部にそれぞれ三角マスト、中央よりやや後方に操舵室を及びその前機関室天井頂部に航海灯を取り付けたマストを備え、ブルワークの高さは50センチメートルであった。
(2)久六島付近の状況
久六島は、青森県艫作埼の西南西方17海里沖合の日本海にあって、東西に横たわる3個の水上岩からなり、中央に久六島灯台が設置されていた。
(3)受審人A
A受審人は、昭和59年5月一級小型船舶操縦士の免許を取得し、平成6年に開漁丸を購入後、艫作埼沖合や久六島周辺において、毎年2月から5月までやりいか棒受網漁業に、6月から12月までをまぐろ等の一本釣り漁業に、冬場はたら刺網船に甲板員として乗り組み漁労に従事していた。
また、同人は、久六島の周囲が、水深200メートル辺りから急に深くなり、この付近に潮目ができ、荒天時に船幅を超す高波が発生することがあることを知っていた。
(4)本件発生に至る経緯
開漁丸は、A受審人が1人で乗り組み、強風・波浪注意報が発令されている状況下、救命胴衣を着用し、まぐろ一本釣りの目的で、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成14年11月21日04時30分青森県艫作漁港月屋地区を発し、僚船とともに久六島西方の漁場に向かった。
A受審人は、操舵室両舷に、長さ約100メートルのナイロン製道糸先端に擬似餌を付けた竿2本を設置し、同室後方の甲板上で遠隔操舵装置で操船にあたり、同仕掛けを引きながら航行し、05時30分久六島西方の漁場に至り、その後同島付近を南北方向に一本釣りを繰返し、小型のまぐろ等3本を獲たのち、07時25分同島の南側を同釣りを続けながら東行した。
07時55分A受審人は、久六島灯台から180度(真方位、以下同じ。)0.3海里の地点で、針路を090度に定め、機関を一本釣りに合う4.0ノットの対地速力に調整して進行し、このころ漁模様も思わしくなく波浪も高くなってきたので、僚船と無線電話で相談して早めに切り上げることとし、一本釣りを続けながら帰航した。
08時00分A受審人は、久六島灯台から117度0.6海里の地点に達したとき、針路を073度に転じたところ、折からの北西季節風と波高2メートル前後の波浪を左舷船尾方向から受け、横揺れしながら続航した。
08時14分A受審人は、横揺れが続くので一本釣りの仕掛けを取り込み、間もなく水深200メートルの、高波の発生が予測される水域に達したが、このままの針路と速力で艫作漁港に向かっても大丈夫と思い、同水域を過ぎるまで高波の出現に備え、同波を真後ろから受ける針路に変更し、さらに減速するなどして大角度の横傾斜を避けるための適切な操船を行うことなく、斜め追波の態勢のまま同一針路、速力で進行した。
08時14分半A受審人は、左舷船尾方向から来襲した船幅を超える高さ約4メートルの高波に船体をたたかれ、右舷側に大傾斜しながら波間に進入し、大量の海水が右舷側ブルワークを越え船内に浸入して更に傾斜が増大し、僚船に「このままではひっくり返る。」と無線電話で連絡したのち、08時15分久六島灯台から090度1.5海里の地点において、開漁丸は、復原力を喪失し、原針路、原速力のまま転覆した。
当時、天候は曇で風力6の北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、北西方向から波高4メートルの高波があり、青森県には強風・波浪注意報が発令されていた。
転覆の結果、A受審人は、来援した僚船に救助されたが、開漁丸は、天候が悪化して曳航することができず、翌日僚船により転覆したまま艫作漁港に向けて曳航中に沈没した。
(原因)
本件転覆は、荒天下、船幅を超える高波の発生が予測される青森県久六島付近水域を、追波の態勢下帰航する際、高波による横傾斜を避けるための操船が不適切で、左舷船尾方向から高波を受け、右舷側に大傾斜して大量の海水が船内に浸入し、復原力を喪失したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、荒天下、船幅を超える高波の発生が予測される青森県久六島付近水域を、追波の態勢下帰航する場合、高波の出現に備え、同水域を過ぎるまで、同波を真後ろから受ける針路に変更し、さらに減速するなどして大角度の横傾斜を避けるための適切な操船を行うべき注意義務があった。しかるに同人は、このままの針路と速力で艫作漁港に向かっても大丈夫と思い、大角度の横傾斜を避けるための適切な操船を行わなかった職務上の過失により、同一針路、速力で進行し、左舷船尾方向から高波を受け、右舷側に大傾斜しながら波間に入って大量の海水が船内に浸入し、復原力を喪失して転覆を招き、のち同漁港に向け曳航中に船体が沈没するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
|