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平成14年神審第69号
件名

プレジャーボートイズミ アンド マリン沈没事件

事件区分
沈没事件
言渡年月日
平成16年1月8日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(相田尚武、中井 勤、小金沢重充)

理事官
杉崎忠志

受審人
A 職名:イズミ アンド マリン船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
全損

原因
船尾船底外板に破口を生じて浸水したこと、破口を生じた経過を明らかにすることができない

主文

 本件沈没は、船尾船底外板に破口を生じて浸水したことによって発生したものであるが、破口を生じた経過を明らかにすることができない。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年5月26日10時40分
 兵庫県神戸市須磨海岸沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートイズミ アンド マリン
全長 7.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 84キロワット
回転数 毎分2,700

3 事実の経過
 イズミ アンド マリン(以下「イズミマリン」という。)は、昭和54年5月に進水した、B社製のFS800NHT型と称する、船内機を備えたFRP製クルーザーで、船首部に船首甲板及びその下方に錨庫とキャビンが配置され、船体中央部に操舵室が設けられ、同室下方は機関室となっており、後部甲板下には、機関室後方中央の船尾管点検区画及びいけすを挟み、左舷側に燃料タンクが、右舷側に物入れが配置され、最後部は舵取機を設置した船尾区画となっていた。
 船尾区画は、長さ0.75メートル幅2.1メートルで、その前端下部の厚さ15ミリメートル(以下「ミリ」という。)の船底外板にシャフトブラケットが、後端に舵軸がそれぞれ取り付けられていた。
 軸系装置は、軸径36ミリのステンレス鋼製プロペラ軸が、前方からスラスト、船尾管及びシャフトブラケット各軸受により支持され、同軸後端のコーンパートに、高力黄銅鋳物製で直径及びピッチがいずれも460ミリの3翼一体形プロペラが挿入され、緩み防止の目的で二重ナットにより結合されていた。
 ところで、機関室から船尾区画に至る各区画の間には、隔壁が設置されていたが、隔壁を貫通するビルジ通路が設けられていたほか、排気管及び電線各通路にシールが施されておらず、水密となっていなかったので、いずれかの区画に海水が流入すると、機関室に浸入するおそれがあった。
 A受審人は、昭和57年12月に四級小型船舶操縦士の免許を取得し、翌58年の夏ごろ中古のイズミマリンを購入し、神戸市長田区の新湊川河口を係留地として、専ら同市須磨区須磨海岸沖合における釣りの目的で、冬期を除いて月あたり3回程度日帰りで同船を使用していた。
 イズミマリンは、年間あたり1ないし2回上架され、船底掃除及び外板塗装が行われていたものの、プロペラは購入時以来取り替えられなかったので、長期間の使用によりプロペラの翼先端部や翼表面の腐食・侵食が進行して、次第に衰耗する状況となった。
 A受審人は、平成12年5月ごろ上架した際、船底掃除と修理を依頼した業者から衰耗したプロペラの取替えを勧められたが、費用の都合がつかなかったので取り替えないまま運航を続け、越えて14年5月2ないし4日に上架した際、同修理業者からプロペラ翼根元付近に微細亀裂が多数生じているので、機関の常用回転数を減じて運転するようにとの助言を受け、その後、回転数をそれまでの毎分2,500(以下毎分を省略する。)から2,000に減じて使用していた。
 イズミマリンは、A受審人が1人で乗り組み、同人の親類にあたるC(四級小型船舶操縦士免状を受有し、受審人に指定されていたが、死亡により受審人指定が取り消された。)ほか1人を同乗させ、船首0.4メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、かさご釣りの目的で、平成14年5月26日08時00分前示係留地を発し、須磨海岸沖合の釣り場に向かった。
 A受審人は、係留地の沖合で増速したところ、船尾付近で連続した異常な船体振動が生じたことから、プロペラまわりにロープなどが絡んだ可能性を考慮し、いったん須磨海岸東寄りの防波堤に着け、同乗者に船べりから海中に顔をつけさせてプロペラまわりの点検を行わせたが、異状が認められなかったので、船体振動が続いたまま釣り場への航行を再開した。
 A受審人は、08時30分ごろ前示釣り場に至って機関を停止し、その後、30分程漂泊して5分程潮のぼりする方法で釣りを行い、機関を回転数1,500にかけて潮のぼりを数回繰り返していたとき、依然として船体振動が継続していたものの、そのまま釣りを続けていた。
 こうして、イズミマリンは、10時30分釣り場移動のため、機関を回転数1,500にかけ、毎時10キロメートルの対地速力で須磨海岸沖合を南下中、10時34分ごろ突然船尾船底部で大音響を発して破口を生じ、海水が流入し始め、異音に気付いたA受審人が機関を停止して程なく、船尾が沈下して船尾区画及びいけす付近から海水が後部甲板にあふれ、同区画から後部甲板下の各区画を伝って機関室などへの浸水が続き、やがて水船状態となり、10時40分神戸港外須磨海釣公園塔灯から真方位114度1,260メートルの地点において、浮力を喪失して船尾部から沈没した。
 当時、天候は晴で風力2の南東風が吹き、付近海域にはわずかな東南東流があった。
 沈没の結果、A受審人と同乗者2人は、漂流していたところ、付近を航行中の遊漁船に救助されたが、イズミマリンは、引き揚げられず全損となった。

(原因の考察)
 本件は、兵庫県神戸市須磨海岸沖合において、船尾船底外板に破口を生じ、沈没に至ったもので、以下、破口が生じた要因について考察する。
1 プロペラ翼の折損
 これまでの事実認定のとおり、本件前、衰耗していたプロペラ翼の根元付近に多数の微細亀裂を生じていたことが認められており、これが航行中の翼付根部に作用する繰返し応力により進展して同翼が折損するに至り、船尾船底外板に衝突し、亀裂破口を生じた可能性が考えられる。
 しかし、プロペラ翼の折損脱落が生じたとすれば、プロペラの急激な不釣合に伴い、主機の回転数上昇及び異常音発生、船体の著しい異常振動などの兆候が現れると考えられるが、A受審人及びC同乗者のいずれの供述からも大音響を発した直後、そのような兆候があったことはうかがえない。したがってプロペラ翼が折損し、船尾船底外板に衝突して破口を生じさせたと認定することはできない。
2 プロペラの釣合不良
 本件当日の出港後間もなく、船尾付近で振動の増大したことがA受審人及び同乗者に感知されている。
 本船プロペラは、平成12年5月ごろから翼先端部や翼表面の腐食・侵食が著しく進行しており、同14年5月に上架した際にも業者から指摘されていた。このことから、プロペラの静的及び動的釣合が不良状態で運転が継続され、遠心力による振動が増大し、シャフトブラケット取付部の船底外板に過大な応力が生じて亀裂破口を生じたことが考えられる。
 しかし、D証人は、同14年5月に上架した際、シャフトブラケット軸受や船尾管軸受に異常摩耗はなく、下架後の試運転時にも異状は認めなかったと述べており、そのような状況から振動が増大し、その後の4回目の使用で船尾船底外板を損傷に至らせることは考えにくいことから、プロペラの釣合不良が同外板に破口を生じさせたと認定することはできない。
3 水中浮遊物
 流木などの漂流物が船尾船底外板に衝突したりロープがプロペラに絡んだりしたことなどにより、同外板に衝撃力が作用して亀裂破口を生じたことも可能性として考えられる。
 しかし、本件発生当時、A受審人及び同乗者に衝撃は感知されていないことから、水中浮遊物との衝突等で船尾船底外板に破口が生じたと認定することはできない。
 以上、船尾船底外板に破口が生じた要因を特定することができず、したがって破口を生じた経過を明らかにすることができない。

(原因)
 本件沈没は、兵庫県神戸市須磨海岸沖合において、航行中、船尾船底外板に破口を生じて浸水したことによって発生したものであるが、破口を生じた経過を明らかにすることができない。
 
(受審人の所為)
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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