(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年5月1日06時55分
千葉県木更津港
2 船舶の要目
船種船名 |
押船海燕三号 |
被押はしけCB601 |
総トン数 |
19トン |
約379トン |
全長 |
12.85メートル |
36.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
|
出力 |
809キロワット |
|
3 事実の経過
海燕三号(以下「海燕」という。)は、2機2軸を有し、風速計を備えた鋼製押船で、A受審人(平成7年5月一級小型船舶操縦士免状取得)ほか2人が乗り組み、船首尾2.3メートルの等喫水をもって、その船首部を、鋼材483.183トンを積載し、船首2.6メートル船尾2.8メートルの喫水となった非自航型鋼製はしけCB601(以下「はしけ」という。)の船尾凹部に嵌合(かんごう)させ(以下「海燕押船列」という。)、油圧ピン3本とロープ3本とにより結合され、平成15年5月1日06時10分千葉県木更津港のD社西岸壁を発し、京浜港横浜区に向かった。
指定海難関係人B社は、作業部長のCが統括責任者で、主としてE社が運航する船舶の荷役作業を行っており、同社の方針に基づき、安全衛生作業標準書において、鋼製切板(以下「切板」という。)を積み付ける作業方法を定め、外洋を航行する小型鋼船に対しては積荷の移動防止措置をとることとし、東京湾内だけを航行するはしけなどに対しては同措置をとらないこととしており、これまで荷崩れなどの事故を起こしたことがなかった。
発航に先立つ同年4月29日、Bの船積班長は、D社構内において、作業員とともにはしけに切板の積み付け作業を行い、長さ約18.00メートル幅約6.50メートルの船倉に、長さ約2メートル幅約80センチメートル(以下「センチ」という。)高さ約30センチの大きさに積み重ねられた重量約2トンのロット203個を、4ないし6段積みの山とし、船幅方向に8列、各列に2ないし6個の山を40ないし80センチ間隔で均等になるよう、安全衛生作業標準書に従って積載し、ハッチカバーを閉鎖したのち、海燕により発航地に移動させたものであった。
A受審人は、荷役作業には立ち会わず、海燕の運航のみに携わっており、積荷の状態を確認しないまま発航し、乗組員を休ませて1人で操舵と見張りに当たり、D社西岸壁沿いに西行し、同年5月1日06時38分木更津港防波堤西灯台(以下「西灯台」という。)から252度(真方位、以下同じ。)1.6海里の地点において、針路を319度に定め、沖合に白波を認めたことから機関を減速して7.2ノットの対地速力とし、手動操舵で進行した。
定針したときA受審人は、D社の構内をかわし、折からの北風を直接受けるようになっていたので、風速が毎秒約13メートル、波高が約1.5メートルになり、これらによる船体の横揺れ角度が5ないし15度あることを認めたものの、波の打ち込みはなく、荒天は午前中だけで、午後には回復すると判断し、そのまま続航した。
ところで、E社は、運航管理基準により、運航している船舶ごとに運航停止基準を定め、海燕などにおいては、平均風速毎秒14メートル、波高1.8メートル及び視程0.5海里のいずれかに該当した場合に、運航を停止するよう定め、各船長などに周知していた。
06時46分A受審人は、西灯台から276度2.2海里の地点に達したとき、風速が毎秒17ないし18メートル、波高が2.0メートルに達し、運航停止基準を超えているのを認めたが、減速して航行しているので大丈夫と思い、発航地に戻るなど、荒天避難の措置をとることなく、約5秒の周期で激しく横揺れしながら、同じ針路、速力で進行した。
やがて、A受審人は、波高と船体の横揺れが更に増加したことを認め、06時55分少し前海燕押船列は、右方からの大波を受けた反動で右舷に大きく傾斜し、06時55分西灯台から290度3.1海里の地点において、はしけの積荷が右方に移動し、右舷に約30度大傾斜して航行不能となる事態を生じた。
当時、天候は曇で風力8の北風が吹き、潮侯は下げ潮の中央期で、波高は2メートルであった。
A受審人は、船体が復原しなかったのでE社に救助を要請し、機関と舵を使用して船体を波に立て続け、やがて来援した引船に乗組員とともに移乗したが、海燕押船列は、南方に圧流され、08時48分西灯台から258度5.2海里の地点において水没した。
海燕押船列は、引き揚げ作業中に積荷が落下して自然浮上し、その後、海燕は修理された。
(原因)
本件遭難は、千葉県木更津港を京浜港横浜区に向け出航中、風速と波高が運航停止基準を超えた際、荒天避難の措置がとられず、強風と波浪により、はしけの積荷が移動し、海燕押船列が右舷に大傾斜したことによって発生したものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、千葉県木更津港を京浜港横浜区に向け出航中、風速と波高が運航停止基準を超えているのを認めた場合、発航地に戻るなど、荒天避難の措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、減速して航行しているので大丈夫と思い、荒天避難の措置をとらなかった職務上の過失により、強風と波浪により、はしけの積荷が移動し、海燕押船列が右舷に大傾斜して航行不能となる事態を招き、海燕とはしけを水没させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
Bの所為は、E社の方針に従って積み付け作業を行っており、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。