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平成15年神審第66号
件名

漁船住吉丸遭難事件

事件区分
遭難事件
言渡年月日
平成16年1月22日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(中井 勤、田邉行夫、相田尚武)

理事官
加藤昌平

受審人
A 職名:住吉丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
沈没し、後日引き揚げられたが廃船

原因
気象海象に対する配慮(風浪状態の確認)不十分

主文

 本件遭難は、収穫したのりの運搬船への移送作業中、風浪状態の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年1月7日11時00分
 兵庫県淡路島北西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船住吉丸
総トン数 3.2トン
登録長 8.90メートル
機関の種類 電気点火機関
漁船法馬力数 30

3 事実の経過
 住吉丸は、のり養殖施設において採介藻漁業に従事する一層甲板型のFRP製小型漁船で、昭和50年10月に二級小型船舶操縦士免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、のりの刈り取りを行う目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、のり運搬船住吉丸(以下「運搬船」という。)に曳航され、平成15年1月7日06時00分ごろ兵庫県室津港を発し、北西方沖合に設置されたのり養殖施設に向かった。
 住吉丸は、船首から2.23メートルの位置に水密隔壁を設けて船体を前後2区画とし、前部区画に油圧駆動のバウスラスタが設置され、後部区画の船体中央部には、収穫したのりを収納するための、長さ4.3メートル幅2.2メートル深さ0.75メートルののり槽が配置され、同槽上縁高さが甲板上約0.6メートルで、同槽の前後及び船側外板との間は共通の空所になっており、船尾舷縁の中央には、船外機を取り付けるための最大幅85センチメートル(以下「センチ」という。)深さ約30センチの切り込み部を設け、収穫したのりを満載すると、同部下縁の水面上高さが10センチ余りとなることがあり、風向によっては僅か(わずか)の波であっても同部から海水が打ち込むおそれがあった。
 操舵室は、のり槽の後部に配置され、同室右舷側に敷居の高さが甲板上13センチの出入口用引き戸、左舷及び船首尾側に開閉可能な窓が設けられており、同室内にバウスラスタ及び刈取機を駆動するための油圧ポンプ、海水ポンプ及びそれらの原動機である小型ディーゼル機関を設置し、同機関の排気が同室後部壁面を貫通する排気管から船尾方に排出されるようになっていたが、同機関を運転中、同室内への新気取り入れなどを目的として、出入口引き戸が開放されていた。そして、バウスラスタ用油圧管は、内張が施されていない同室右舷側下方の開口部を経てのり槽右舷側の空所から、水密隔壁を貫通してバウスラスタの油圧モーターに配管されていた。
 ところで、のり養殖施設は、長さ約18メートル幅約1.8メートルののり網10枚を連ねて1枠とし、それらを互いに連結して南北130メートル東西52メートルののり網セットとしたもので、その4隅には、同セット全体に浮力を与えるためのドーナツと呼ばれる直径約1メートルの浮きが取り付けられており、操業は、のり網を船首側から持ち上げながらその下を自船の船外機を使用して前進し、同時に操舵室前面上部に設置された刈取機を回転させながら、網に付着したのりをのり槽に払い落とす方式で行われ、1回の刈り取り及び刈り取ったのりの運搬船への移送に、それぞれ20分及び30分を要していた。
 06時40分ごろ住吉丸は、淡路室津港西防波堤灯台から291度(真方位、以下同じ。)7.6海里に敷設されたのり網セットに到着し、気象、海象共に平穏な状況の下、運搬船を同セット南西端に設置されたドーナツに、折からの西方に流れる潮流に抗し同船を東に向首させて左舷付けで係留したのち、直ちにのりの刈り取り作業を開始した。そして、のり槽が刈り取ったのりで満たされると、運搬船と同向きに向首させて左舷付けで横付けし、船首尾にそれぞれ係留索をとったうえ、収穫したのりを運搬船に移送し、これらの作業を次第に西風が強まる状況の下で2度繰り返したのち、3度目の刈り取り作業にとりかかった。
 10時40分ごろA受審人は、刈り取りを終え、住吉丸を前記係留状態として運搬船に乗り移り、同船の船長と共にのりの移送作業を始めたとき、徐々に西風が強まってきたことを感じていたものの、同作業に気を取られ、時折周囲を見渡すなど風浪状態の確認を十分に行わなかったので、住吉丸の船尾から波浪が打ち込み始めていることに気付かず、横付けの向きを変更して船首を風浪に立てるなどの措置をとらなかった。
 こうして、住吉丸は、前記状況のままのりの移送作業を続けているうち、甲板上に滞留する海水量の増加に伴い、打ち込む海水量もいっそう増加する事態となり、A受審人が、開放されていた操舵室右舷側出入口引き戸の敷居を越えて同室内に海水が浸入しているのを認め、作業の手を止め、運搬船の船長の協力を得て急ぎ排水に努めたが及ばず、その後も海水の打ち込みが続いて同室内右舷側下方の開口部からのり槽周囲の空所への浸水が進行し、11時00分淡路室津港西防波堤灯台から291度7.6海里の地点において、水面上に操舵室及び船首部のみを出した水船状態となった。
 当時、天候は晴で風力6の西風が吹き、付近には約2ノットの西流があった。
 その結果、住吉丸は、操業を中止し、運搬船などに曳航されて室津港に帰港することとしたが、その途次、更に浸水が進行して沈没し、後日引き揚げられたが廃船とされた。 

(原因)
 本件遭難は、兵庫県淡路島北西方沖合において、のり養殖施設に係留した運搬船に横付けし、収穫したのりの同船への移送作業中、船尾方から受ける風が次第に強くなった際、風浪状態の確認が不十分で、船尾舷縁を越えて甲板上に打ち込んだ多量の海水が操舵室などに浸入したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、兵庫県淡路島北西方沖合において、住吉丸をのり養殖施設に係留した運搬船に横付けし、収穫したのりの同船への移送作業中、船尾方から受ける風が次第に強くなった場合、住吉丸には船尾舷縁に船外機を取り付けるための低い乾舷部分があったから、波浪が船尾甲板に打ち込むことのないよう、時折周囲を見渡すなど風浪状態の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同作業に気を取られ、時折周囲を見渡すなど風浪状態の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、船尾から海水が打ち込んでいることに気付かず、横付けの向きを変更して船首を風浪に立てるなどの措置をとらないまま同作業を続けるうち、多量の海水が船尾舷縁を越えて流入し、甲板上に滞留した海水が操舵室及び甲板下空所に浸水する事態を招き、水船状態に至らしめた。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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