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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) >  乗揚事件一覧 >  事件





平成15年長審第44号
件名

貨物船栄伸丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年3月18日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(清重隆彦、原 清澄、寺戸和夫)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:栄伸丸船長 海技免許:三級海技士(航海)

損害
船首船底に亀裂を伴う凹損

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年4月18日22時47分
 兵庫県淡路島門埼
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船栄伸丸
総トン数 499トン
全長 74.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット

3 事実の経過
 栄伸丸は、主に鋼材輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、鋼材1,527トンを積載し、船首3.56メートル船尾4.56メートルの喫水をもって、平成15年4月18日15時15分広島県福山港を発し、名古屋港に向かった。
 ところで、A受審人は、船橋当直を一等航海士との単独6時間交替の2直制とし、同受審人は午前と午後の5時から11時までの間同当直に就くこととしていた。そして、前日の17日10時00分水島港に入港し、揚荷の後、同時30分同港を出港して12時00分福山港に着き、同日は荷役がなかったので公共埠頭で待機した。
 A受審人は、日中にほとんど睡眠をとる習慣がなく、夕食後テレビジョンを見ながら休息をとり、翌18日01時ごろ代理店から荷役岸壁に着岸するようにとの連絡を受け、同時30分着岸して03時30分から積荷役を開始した。その後、10時45分から11時15分までの間、岸壁を移動して荷役を続行し、14時55分荷役を終えて15時15分前示のとおり出港したもので、荷役作業には従事しなかったものの、荷主との連絡などの船務を行っていて、断続的な睡眠しかとることができず、睡眠不足気味であった。
 A受審人は、出港操船後、船橋当直を一等航海士に委ねて自室で休息をとり、17時15分備讃瀬戸南航路西口付近で、昇橋して同当直に就き、鳴門海峡通峡が憩流時に当たるよう機関を減速調整して東行し、20時30分地蔵埼灯台から212度(真方位、以下同じ。)1.3海里の地点で、針路を112度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進に戻して10.5ノットの対地速力で、鳴門海峡北口に向かって進行した。
 A受審人は、22時32分半孫埼灯台から328度2.0海里の地点に達して同灯台と鳴門飛島灯台とを重視するようになったとき、手動操舵で大鳴門橋橋梁灯(C1灯)付近に向首するよう、ゆっくりと右転を開始し、同時37分20度ばかり右転したとき、このまま同灯に向く針路とすると、左舷側を同航する貨物船と鳴門海峡最峡部で著しく接近する状況となるおそれがあったので、同船の船尾を替わしてその左舷側に出ることとし、左舵10度をとって針路を左に転じた。
 22時40分A受審人は、前記貨物船の船尾を航過したとき、睡眠不足気味であったうえ、航海当直に就いてから5時間以上経過して疲労し、折しも同海峡は転流時で視界もよく、行会い船もなく、同航船を無難に替わしたことで気が緩み、居眠りに陥るおそれがあったが、それほど眠気を自覚していなかったので、まさか、居眠りすることはあるまいと思い、手足を動かしてストレッチ運動をするなどして、居眠り運航の防止措置をとることなく、立ったまま操舵スタンドに左肘をついてうつむき、右手で舵輪を持って針路を戻すつもりで続航中、いつしか居眠りに陥った。
 栄伸丸は、舵がわずかに左にとられていたことから、徐々に左転を続け、22時47分孫埼灯台から068度1.25海里の淡路島門埼の海岸に097度を向首して同じ速力のまま乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期にあたり、潮流はほぼ転流時であった。
 乗揚の結果、船首船底に亀裂を伴う凹損を生じたが、引船の来援を得て引き降ろされ、のち修理された。 

(原因)
 本件乗揚は、夜間、鳴門海峡に向けて南下する際、居眠り運航の防止措置が不十分で、淡路島門埼海岸に向かって進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、鳴門海峡に向けて南下する場合、荷主との連絡等で、断続的な睡眠しかとれず、睡眠不足気味であったうえ、長時間の船橋当直で疲労し、折しも同海峡は転流時で視界もよく、行会い船もなく、同航船を無難に替わしたことで気が緩み、居眠りに陥りやすい状況であったから、居眠り運航とならないよう、手足を動かしてストレッチ運動をするなどして、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、それほど眠気を自覚していなかったので、まさか、居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、立ったまま操舵スタンドに左肘をついてうつむき、右手で舵輪を持っているうちに居眠りに陥り、淡路島門埼海岸に向首進行して乗揚を招き、船首船底に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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