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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) >  乗揚事件一覧 >  事件





 
件名

漁船第八鳳陽丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年3月3日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(原 清澄、清重隆彦、寺戸和夫)

理事官
金城隆支

受審人
A 職名:第八鳳陽丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船底外板全般に破口、推進器翼及び同軸に曲損、舵に破損

原因
船位の修正が不十分

主文

 本件乗揚は、船位の修正が不十分で、浅礁に向けて進行したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年7月25日02時08分半
 長崎県福江島富江湾
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八鳳陽丸
総トン数 4.96トン
登録長 10.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 404キロワット

3 事実の経過
 第八鳳陽丸(以下「鳳陽丸」という。)は、はえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、一級小型船舶操縦士免許(昭和51年10月取得)を有するA受審人ほか1人が乗り組み、アカムツを獲る目的で、船首0.35メートル船尾0.50メートルの喫水をもって、平成15年7月25日02時05分霧のため、視程が約30メートルと狭められた状況の中、富江港灯台から161度(真方位、以下同じ。)1.5海里にある長崎県南松浦郡富江町女亀の係留地を発し、同県福江島南方沖合8海里付近の漁場に向かった。
 ところで、A受審人は、本件発生前、係留地から十分な水深のある安全な水域に出るまでの水路が狭いので、視界の良い日に同水路を航行した際、その航跡をGPSプロッターに記憶させ、また、周囲の灯火などを見て船位を求めた際、その船位とプロッターに記憶させた航跡との間に誤差がないことを確認していた。
 A受審人は、出漁するにあたり、レーダー、GPSプロッター及び魚群探知器をそれぞれ作動させたうえ、機関回転数を毎分500にかけて6.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、手動操舵により進行した。
 02時07分少し前A受審人は、係留地の東方沖合にほぼ南北方向に構築された防波堤の北端に達したとき、0.25海里レンジとして作動中のレーダー画面が周囲の岩やうねりで真っ白になっており、その調整方法も良く知らなかったので、GPSプロッターに記憶させた航跡に乗る進路として航行することとし、GPSプロッターの画面を注視しながら続航した。
 A受審人は、折からの南東風と上げ潮流の影響で、船位が左方に圧流され、徐々に前示航跡より左方に偏位し始めたが、この程度の偏位なら大丈夫と思い、速やかに右舵を取って同航跡に乗せるなどの船位を修正することなく進行した。
 こうして、鳳陽丸は、A受審人が速やかに船位を修正せず、風潮流に圧流されるままとして進行中、02時08分半富江港灯台から150度1.33海里の浅礁に乗り揚げた。
 当時、天候は霧で風力4の南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、約1.5メートルのうねりがあり、視程は約30メートルであった。
 乗揚の結果、船底外板全般に破口を、推進器翼及び同軸に曲損を、舵に破損をそれぞれ生じた。 

(原因)
 本件乗揚は、夜間、長崎県南松浦郡富江町女亀の係留地から狭い水路を漁場に向けて航行中、船位が左偏し始めたことに気付いた際、船位の修正が不十分で、浅礁に向けて進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、長崎県南松浦郡富江町女亀の係留地から狭い水路を漁場に向けて航行中、折からの風潮流によって船位が左偏し始めたことに気付いた場合、周囲に危険な浅礁が多数存在していたのであるから、同浅礁に向かって進行することがないよう、GPSプロッターに記憶させていた航跡に乗せるなどして速やかに船位を修正すべき注意義務があった。しかるに、同人は、この程度の偏位なら大丈夫と思い、速やかに船位を修正しなかった職務上の過失により、徐々に左方に偏位する状況を放置したまま進行して浅礁への乗揚を招き、船底外板全般に破口等を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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