(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年9月7日15時50分
沖縄県沖縄島西岸空寿埼沖
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートスローリー |
全長 |
6.45メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
18キロワット |
3 事実の経過
スローリーは、船外機を装備したFRP製クルーザー型ヨットで、平成13年11月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、友人1人を同乗させ、沖縄県慶伊瀬島付近での帆走を楽しむ目的で、最大1.5メートルの喫水をもって、平成15年9月7日15時00分同県宜野湾港の係留地を発し、同港の沖に向かった。
ところで、宜野湾港の沖には、宜野湾港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)の西南西方約1.0海里のところにある空寿埼から裾礁域が張り出していた(以下「空寿埼裾礁域」という。)うえに、同灯台の北西方約1,200メートルのところに浅所域が拡延していたため、同港に隣接する牧港漁港から両域の間を抜けて北西方に延びる水路(以下「牧港水路」という。)が設けられ、側面標識が敷設されていた。
また、A受審人は、宜野湾港の沖から慶伊瀬島周辺に至る海域において、スローリーで数多く帆走などを経験しており、単独でも約10分間でメインセールの取付け及び展帆作業を行うことができるうえに、空寿埼裾礁域の外縁が牧港水路の西南西方約600メートルのところに迫っていることも承知していた。
A受審人は、同乗者が無資格のうえに、帆走などの経験もないことから、牧港第6号灯浮標付近の牧港水路外で漂泊しながら単独でメインセールの取付け及び展帆作業を行うこととし、自ら船外機のスロットルレバーを握って宜野湾港の防波堤入口を航過したのち、2.0ノットの対地速力で西行し、15時24分半牧港第6号灯浮標の東方から同水路に入り、その後ゆっくりと右転しながら牧港水路を横断し、同時30分空寿埼裾礁域の風上で同域外縁から約540メートル離れた、北防波堤灯台から270度(真方位、以下同じ。)1,110メートルの地点に至ったことを目測で知り、一旦船首を風上に向けたのち、機関を中立運転とした。
A受審人は、折からの上げ潮期と穏やかな海面状態のため、空寿埼裾礁域の外縁付近に砕波なども認められない状況下、コックピットに同乗者を残したまま、単独でバウハッチからメインセールを取り出したのち、風上側となったマスト横の右舷サイドデッキに立ってブームに同セールのフットを取り付け、更にピークにハリヤードの一端を結んでメインセールの展帆作業に取り掛かったが、弱い風であったことから、同域の外縁近くまで圧流されることはないものと思い、その後陸標を用いるなどして船位の確認を十分に行わなかった。
A受審人は、15時47分空寿埼裾礁域の外縁まで約400メートルの地点となる、北防波堤灯台から268度1,240メートルの地点まで圧流されたころ、メインセールのリーチに破損を認めたため、同セールをはためかせて破損部を拡大させないよう、メインセールの様子を見ながら慎重に展帆することとしたため、展帆作業に手間取るうちに折からの風潮流により同裾礁域の外縁近くまで圧流され、乗り揚げるおそれがある状況となっていたものの、依然として船位の確認を十分に行わなかったので、この状況に気付かなかった。
A受審人は、15時50分少し前ようやくメインセールを展帆し終え、コックピットに戻って舵柄を握り、帆走を始めようとしたところ、スローリーは、15時50分北防波堤灯台から264度1,630メートルの地点において、空寿埼裾礁域の外縁部に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力3の東北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
A受審人は、船体の衝撃で空寿埼裾礁域の外縁部に乗り揚げたことを知り、直ちにメインセールを降ろしたのち、船外機を使用して離礁を試みたものの効なく、携帯電話で関係機関に救助を依頼した。
乗揚の結果、フィンキールに折損、左舷外板、マスト及び舵板などに損傷を生じ、その後廃船処理された。
(原因)
本件乗揚は、沖縄県沖縄島西岸空寿埼沖において、裾礁域の風上で漂泊して展帆作業を行う際、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、沖縄県沖縄島西岸空寿埼沖において、折からの上げ潮期と穏やかな海面状態のため、裾礁域の外縁付近に砕波などが認められない状況下、その風上で漂泊して展帆作業を行う場合、裾礁域外縁部に乗り揚げることのないよう、陸標を用いるなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、弱い風であったことから、空寿埼沖の裾礁域外縁近くまで圧流されることはないものと思い、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、展帆作業に手間取るうちに折からの風潮流により同裾礁域外縁近くまで圧流され、そこに乗り揚げるおそれがある状況となっていたことに気付かず、同作業終了時に空寿埼沖の裾礁域外縁部への乗揚を招き、フィンキールに折損、左舷外板、マスト及び舵板などに損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。