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平成15年門審第129号
件名

漁船芳栄丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年3月17日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和)

副理事官
小俣幸伸

受審人
A 職名:芳栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
シューピース、推進軸及び推進器翼などが損傷

原因
守錨当直を行わなかったこと

裁決主文

 本件乗揚は、守錨当直を行わなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年6月23日23時30分
 鹿児島県吐喇群島口之島
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船芳栄丸
総トン数 19.91トン
登録長 16.55メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 360キロワット

3 事実の経過
 芳栄丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、平成13年8月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人ほか4人が乗り組み、操業の目的で、船首1.20メートル船尾2.00メートルの喫水をもって、平成15年6月21日09時00分鹿児島県今和泉漁港を発し、同県吐喇(とから)群島口之島東南東方の漁場に向かった。
 ところで、A受審人は、毎年6月から9月かけての台風シーズンには奄美群島、吐喇群島及び大隅群島の各周辺海域、及び10月から5月にかけては沖縄群島から先島群島に至る海域のいずれも水深100ないし300メートルの深海において、あおだいなどの漁獲を目的とした一本釣り漁業に従事しており、毎日早朝から夕刻まで操業し、夜間は漁場で漂泊したり、島影で錨泊したりして休息をとっていた。
 A受審人は、22日01時00分ごろ口之島東南東方約20海里の屋久新曽根周辺の漁場に至り、漂泊して休息をとった後、06時00分ごろから操業を始め、18時00分ごろ操業を終えて、そのまま同漁場で漂泊して休息をとった。
 A受審人は、23日06時00分ごろから再び屋久新曽根周辺の漁場で操業していたところ、16時50分鹿児島漁業無線局から、今後、風が強くなって海上は荒天が予想される旨の気象情報を入手したので、荒天避泊のため、18時00分同漁場を発進して口之島北東方の錨地に向かった。
 A受審人は、これまで吐喇群島周辺海域での操業に際し、夜間及び荒天避泊時に口之島北東方の錨地で何度も錨泊したことがあったので、同錨地の底質が岩で起伏が大きいことなどを良く知っており、同錨地に到着して魚群探知機で水深や海底の起伏の状態を確認したうえで、20時00分西之浜港南防波堤灯台から110度(真方位、以下同じ。)1.7海里の、水深約40メートル及び底質が岩のところに、重さ約80キログラムの五爪錨を投入し、錨索を約150メートル繰り出して錨泊した。
 A受審人は、南西風によって船体が大きく振れ回るのを認めたが、直径24ミリメートルの合成繊維索の先端部分に、直径8ミリメートル長さ約8メートルのワイヤロープを繋いだ(つないだ)錨索を使用しているので、船体が振れ回って、錨索の先端部分が岩で擦れても切断することはないものと思い、錨索の切断などの不測の事態に迅速に対処できるよう、守錨当直を行うことなく、21時30分ごろ乗組員全員に休息をとらせ、自らも操舵室後部の寝台で就寝した。
 こうして、A受審人は、強風で船体が大きく振れ回るうち、緊張した錨索のワイヤロープと合成繊維索との繋ぎ目部分が岩で擦れ、22時30分ごろ繋ぎ目部分の合成繊維索が切断し、南西風と口之島北東岸に沿って流れる潮流により、徐々に同島北東岸に向けて圧流され始めたが、守錨当直を行っていなかったので、このことに気付かず、機関を使用して沖出しするなどの措置をとることができないまま圧流され、23時30分西之浜港南防波堤灯台から068度1,000メートルの地点において、芳栄丸は、船首を南西方に向けて口之島北東岸に乗り揚げた。
 当時、天候は曇で風力5の南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、口之島北東岸に沿って北西に流れる潮流があった。
 芳栄丸は、付近で錨泊中の僚船に引き下ろされ、曳航されて今和泉漁港に帰港した。
 乗揚の結果、芳栄丸は、シューピース、推進軸及び推進器翼などに損傷を生じたが、のち修理された。
 

(原因)
 本件乗揚は、夜間、荒天避泊のため、鹿児島県口之島北東方の底質が岩のところに錨泊した際、守錨当直を行わず、強風による船体の振れ回りにより、錨索が岩で擦れて切断し、口之島北東岸に圧流されたことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、荒天避泊のため、鹿児島県口之島北東方の底質が岩のところに錨泊中、強風によって船体が大きく振れ回るのを認めた場合、錨索が岩で擦れて切断するおそれがあったから、錨索の切断などの不測の事態に迅速に対処できるよう、守錨当直を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、合成繊維索の先端にワイヤロープを繋いだ錨索を使用しているので、船体が振れ回って錨索の先端部分が岩で擦れても切断することはないものと思い、守錨当直を行わなかった職務上の過失により、合成繊維索とワイヤロープとの繋ぎ目部分が岩で擦れて、同繋ぎ目部分の合成繊維索が切断し、口之島に向けて圧流されていることに気付かず、機関を使用して沖出しするなどの措置をとることができないまま圧流されて同島北東岸に乗り揚げ、シューピース、推進器軸及び推進器翼などに損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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