(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年7月12日14時10分
瀬戸内海東部 小豆島沖
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートアルバトロス−5世 |
総トン数 |
19トン |
登録長 |
11.99メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
470キロワット |
3 事実の経過
アルバトロス−5世は、FRP製プレジャーボートで、A受審人(昭和56年3月一級小型船舶操縦士免許取得)及びB指定海難関係人の2人が乗り組み、招待客2人を同乗させ、香川県小豆島観光の目的で、船首0.6メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成15年7月12日08時10分岡山県和気郡日生港を発し、小豆島内海港に至って島内を観光したのち、13時30分同港を発進して日生港に向けて帰途に就いた。
ところで、A受審人は、会社の代表者として社員の福利厚生や取引先会社の招待などに利用する目的で本船を購入し、運航要員として自ら操船にあたり、四級小型船舶操縦士免許を受有する社員のB指定海難関係人を乗り込ませて操舵を行わせていた。年間の運航回数は10ないし15航海ほどで、主な航行範囲を日生港及び岡山港周辺水域としながら時には鳴門海峡或いは来島海峡付近まで航行することもあった。小豆島内海港にも何度か航行したことがあり、同島南東端とその沖合に位置する風ノ子島との間が水深の浅い暗礁域であることも知っていたが、今般往航時に自ら操船指揮を執ってB指定海難関係人に操舵を行わせた。同人に風ノ子島を船首目標に指示して時計回りに小豆島東岸沿いを南下中、風ノ子島北方1海里付近の小豆島南東岸沖に達したところで、たまたま右前方に拡がる同島湾奥に目指す内海港に近付いたと勘違いして、いったん同湾に向けさせたが気付いて針路を元に戻させたときには、すでに風ノ子島北西方水域に達し、前示暗礁域を失念したまま同島の西側を南下するように指示してほぼ高潮時でもあって同水域を無事に通航し得た。
一方、B指定海難関係人は、操舵しながら風ノ子島の西側を航行していたとき、回りの水深が浅いためか付近水域の色が異常であることに不審を抱きながらも側で操船指揮を執っていたA受審人にその旨を報告しなかった。
こうして、A受審人は、その後観光を終えて帰途に就き、往路に準じて小豆島南東端を反時計回りにつけ回して同島東岸沿いに北上する予定で自ら操舵操船して内海港を発進した。13時46分大角鼻灯台の西方3.3海里にあたる内海港港外権現鼻沖に至り、船首を東方に向けて機関を11.0ノットの速力にかけたところで、B指定海難関係人に単独でその後の操舵を行わせることにした。
ところが、A受審人は、それまでの経験から小豆島南東端をつけ回す際に同端とその沖合に位置する風ノ子島との間の水深の浅い暗礁域を避けて風ノ子島の東側を航行するようにしていたが、たまたま往航時同暗礁域を通航し得たこと及び両島間が暗礁域で通航することが危険であることを失念し、海図等によって針路の選定及び指示を適切に行うことなく、往航時同暗礁域を通航し得たことは高潮時であったことによるものでありそれに反して復航時が低潮時であることに思い至らないまま、B指定海難関係人に対して往航時と同様に航行するよう口頭で指示し、しばらくの間休息をとるつもりで操舵室下にあたる後部キャビンに降りた。
こうして、B指定海難関係人は、往路風ノ子島の西側を操舵中に航行水域の色が異常であったことを失念したまま単独で操舵にあたり、14時05分大角鼻灯台から170度(真方位、以下同じ。)0.9海里の地点に達し、針路を指示どおり往路に準じて小豆島南東端と風ノ子島との間に向かう011度に定め、11.0ノットの速力のまま進行し、14時10分大角鼻灯台から033度910メートルの地点において、アルバトロス−5世は、同じ針路速力のまま小豆島南東端とその沖合に位置する風ノ子島との間の暗礁に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候はほぼ低潮時で、視界は良好であった。
乗揚の結果、アルバトロス−5世は、キール及び推進器にそれぞれ損傷を生じたが、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、香川県小豆島観光を終えて内海港から反時計回りに同島南東端をつけ回して帰航する際、針路の選定及び指示が不適切で、同島南東端とその沖合に位置する風ノ子島との間の水深の浅い暗礁域を進行したことによって発生したものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、香川県小豆島観光を終えて内海港から反時計回りに同島南東端をつけ回して帰航する際、甲板員に単独で操舵操船を行わせる場合、同端とその沖合に位置する風ノ子島との間が水深の浅い暗礁域であったから、潮候等を考慮して同間を通航することのないよう、海図等によって針路の選定及び指示を適切に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、往航時同暗礁域を通航し得たことが高潮時であったこと及びそれに反して復航時が低潮時で往路と同じく通航することができないことに思い至らないまま、往航時甲板員に操舵させて無難に目的地まで航行し得たことで復路も往路と同様に航行しさえすれば問題を生ずることはあるまいと思い、海図等によって針路の選定及び指示を適切に行わなかった職務上の過失により、往航時と同様に航行するよう口頭で指示し、単独で操舵にあたった甲板員が同端と風ノ子島間を進行して、同間の暗礁への乗揚を招き、キール及び推進器にそれぞれ損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、往路風ノ子島の西側を操舵中に航行水域の色が異常であることに不審を抱きながら未報告のままであったことは遺憾であるが、往復路とも船長の針路指示によって同暗礁域を航行したものである点に徴し、原因とするまでもない。