日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) >  乗揚事件一覧 >  事件





平成15年横審第108号
件名

貨物船冨士福丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年3月4日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(西山烝一、大本直宏、吉川 進)

理事官
釜谷奬一

受審人
A 職名:冨士福丸船長 海技免許:五級海技士(航海)

損害
船首部から船尾部までの船底外板に亀裂を伴う凹損を生じて浸水

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月15日停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月6日23時00分
 伊豆半島爪木埼
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船冨士福丸
総トン数 499トン
全長 70.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
 冨士福丸は、主として砂利運搬に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首1.20メートル船尾3.80メートルの喫水をもって、平成15年8月6日17時10分京浜港横浜区を発し、愛知県三河港に向かった。
 A受審人は、22時00分稲取岬灯台から055度(真方位、以下同じ。)6.0海里の地点で昇橋し、一等航海士と交代して単独の船橋当直に就き、針路を215度に定め、機関を全速力前進にかけて12.7ノットの対地速力とし、自動操舵により進行した。
 これより先、A受審人は、当日10時00分京浜港横浜区山下ふ頭に着岸して山砂の揚荷役に従事し、14時ごろ終了してから補油作業にかかり、そのあと引き続いて出航操船を行い、17時40分降橋して夕食を取ったが、朝からの連続した船内作業による疲労と、甲板長に代わり22時から船橋当直に就くことになっていたことから、休息時間を長く取る必要があったものの、お茶代わりに500ミリリットルの缶ビール2本を飲みながら食事をしていたので、夕食時間が長くなり、19時に自室に戻って22時ごろまで、3時間ばかりの睡眠をとった。
 ところで、冨士福丸には、居眠り防止装置として、ネムランと称する航海当直安全確認装置がテレグラフの右側に設置されており、作動スイッチを入れると、15分毎にチャイムが鳴り、停止ボタンを押さないとチャイムを止めることができず、そのまま放置しておくと船内に警報が鳴り響き、居眠りなどしている船橋当直者の注意を促す仕組みになっていたが、A受審人は、いつも同スイッチを切ったまま当直を行っていた。
 船橋当直交代後、A受審人は、レーダーを作動させ船橋内を左右に移動しながら見張りに当たっていたところ、船首方1.5海里に4隻ばかりの操業中の漁船の灯火を認めたので、22時40分爪木埼灯台から045度4.4海里の地点に至ったとき、同漁船を避航するため針路を225度に転じ、間もなく左舷側近距離に替わし、安心して緊張から解放された状態で、コーヒーをカップ半分ほど飲んだあと、操舵輪後方のスツール代わりの木箱に腰掛けて同当直を続けた。
 しかし、A受審人は、間もなく元の針路に戻すことになるので、まさか居眠りすることはないと思い、夕食時の飲酒と船橋当直前の短い睡眠時間による体調に加え、前示のような状態で腰掛けたままでいると、眠気を催しやすいから、居眠り運航にならないよう、立った姿勢で船橋内での当直位置を移動するなど、居眠り運航の防止措置をとることなく、木箱に腰掛けたままでいるうち居眠りに陥った。
 こうして、A受審人は、爪木埼に向首したまま続航中、23時00分爪木埼灯台から026度300メートルの浅所に、冨士福丸は、原針路、原速力のまま乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力1の西風が吹き、潮候はほぼ高潮期であった。
 乗揚の結果、船首部から船尾部までの船底外板に亀裂を伴う凹損を生じて浸水したが、サルベージによって引き下ろされ、のち修理された。 

(原因)
 本件乗揚は、夜間、伊豆半島東岸に沿って南下中、居眠り運航の防止措置が不十分で、静岡県爪木埼に向首したまま進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、伊豆半島東岸に沿って南下中、船首方で操業中の漁船を替わした緊張感から解放され、単独で船橋当直にあたる場合、夕食時の飲酒と同当直前の短い睡眠時間による体調で、木箱に腰掛けたままでいると、眠気を催しやすいから、居眠り運航にならないよう、立った姿勢で船橋内での当直位置を移動するなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、間もなく元の針路に戻すことになるので、まさか居眠りすることはないと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥って元の針路に戻すことができず、爪木埼に向首したまま進行して浅所への乗り揚げを招き、船底外板に亀裂を伴う凹損を生じて浸水させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月15日停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION