(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年6月13日06時40分
岩手県広田湾
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三十八恵漁丸 |
総トン数 |
115トン |
全長 |
37.20メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
323キロワット |
3 事実の経過
第三十八恵漁丸(以下「恵漁丸」という。)は、かつお一本釣り漁業に従事する、船尾船橋型のFRP製漁船で、A受審人ほかインドネシア共和国の研修生5人を含む20人が乗り組み、生えさを積み込む目的で、船首1.8メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、平成15年6月13日04時50分宮城県気仙沼港を発し、岩手県広田湾奥のえさ場に向かった。
ところで、広田湾には、湾奥岸から沖合350メートルのところに3基の潜堤が東西方向に設置され、その少し沖側にえさ場が散在していて、同潜堤については、平成13年5月第二管区海上保安本部発行の水路通報第17号に広田湾の潜堤完成が公示され、また、同年3月27日海上保安庁刊行海図W56に潜堤が記載されていた。
A受審人は、5年前に船長職に就いてから毎年3回ほど広田湾内を航行していたものの、湾奥のえさ場までの航行経験がなかったことから、岸寄りまで航行に十分な水深があるものと思い、発航に先立ち、最寄りの海上保安部や漁業協同組合に連絡して同えさ場付近に航行に支障をきたす障害物の存在を確認するなどしなかったので、水路調査が不十分となり、潜堤の存在に気付かなかった。
A受審人は、霧で視界が制限されるなかレーダーを監視して航行し、05時58分少し過ぎ陸前椿島灯台から203度(真方位、以下同じ。)2.8海里の地点で、針路を広田湾奥に向く338度に定め、機関回転数毎分670の全速力前進にかけ、12.0ノットの対地速力にし、自動操舵によって進行した。
06時15分半A受審人は、レーダーで右舷正横に岩手県広田港を認めたので、機関回転数毎分500の半速力前進として速力を10.0ノットに減じ、多数の養殖施設に注意しながら続航し、えさ場の作業船より陸岸から0.5海里のところで待機しているとの連絡があったので、同時35分陸岸から0.6海里の地点で、同回転数毎分460の微速力前進に下げて7.0ノットの速力で手動操舵とし進行していたところ、右舷至近にえさ場を示す黄青色の浮標を認めたので、機関を後進にかけたのち中立として惰力で前進中、船底に衝撃を受け、06時40分長部港北防波堤灯台から042度1,150メートルの地点において、原針路のまま、速力が5.0ノットに減じたとき、潜堤に乗り揚げた。
当時、天候は霧で風力1の南南東風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、視程は60メートルであった。
乗揚の結果、燃料タンクの船底外板に破口を、右舷前部コファーダムの船底外板及び両舷ビルジキールに損傷をそれぞれ生じ、燃料油が流出した。
(原因)
本件乗揚は、岩手県広田湾において、湾奥のえさ場に向かって航行する際、水路調査が不十分で、湾奥に設置された潜堤に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、岩手県広田湾において、経験のない湾奥のえさ場に向かって航行する場合、発航に先立ち、最寄りの海上保安部や漁業協同組合に連絡して同えさ場付近に航行の支障になる障害物の存在を確認するなどして水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、岸寄りまで航行に十分な水深があるものと思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、湾奥に設置された潜堤に向かって進行し、同潜堤に乗り揚げ、燃料タンクの船底外板に破口を、右舷前部コファーダムの船底外板及び両舷ビルジキールに損傷をそれぞれ生じさせ、燃料油を流出させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。