(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年8月24日09時35分
福島県相馬港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第五恵永丸 |
総トン数 |
6.4トン |
全長 |
16.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
422キロワット |
3 事実の経過
第五恵永丸(以下「恵永丸」という。)は、しらす引き網漁業に従事するFRP製漁船で、昭和55年9月取得の一級小型船舶操縦士免許を有するA受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、平成15年8月24日05時30分福島県相馬港内の松川浦漁港を発し、相馬港内から鵜ノ尾埼周辺まで魚群探知器を作動させてしらすを探しながら操業を行ったのち、09時00分ごろ同港の南防波堤沿いの角部に至って4回目の操業を開始することとした。
ところで、しらす引き網漁は、魚群探知器でしらすの魚群を見つけ、それを引き網で囲って取る方法で、同網の構成は、ボンデンに50メートルのロープを付け、その先端に長さ120メートル高さ8メートルからなる袖網を取り付け、次に漁捕部用網を繋ぎ、さらに同じ長さの袖網及びロープを取り付けて作製されており、その引き網を2から3分かけて左旋回しながら円弧状に投網し、最初に投入したボンデンに至ってそれを船内に引き揚げ、約10分間曳網したのち8分ほどで揚網するもので、一連の作業に20分ほど要していた。
A受審人は、毎年8月中旬から10月中旬までの期間に岸沿いと沖合10海里付近の間でしらす引き網漁を行っており、岸沿いに施網するときは、波打ち際まで近づくので、施網の範囲を狭め、魚群探知器で水深を測定し、船底が海底に接触しないようにしながら操業していた。
09時34分半A受審人は、魚群探知器でしらすを探し終え、相馬港松川浦南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から151度(真方位、以下同じ。)690メートルの、南防波堤から140メートル沖合の地点で、ボンデンを投入し、機関を微速力前進の6.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)にかけ、手動操舵で左舵を取り、同防波堤に向け左旋回して投網を始め、同時35分わずか前水深が魚群探知器で測定されていたが、操業に夢中になって波打ち際に近いことを忘れ、同器に表示された水深を見て船位を確認することなく、既に2メートル等深線より岸寄りになっていることに気付かずに進行した。
A受審人は、同一速力で続航中、09時35分南防波堤灯台から157度680メートルの地点において、恵永丸は、船首が158度を向いたとき、原速力のまま、その船尾が砂質の海底に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
乗揚の結果、船底に擦過傷を生じ、右舷側に横倒しとなって右舷側外板が損傷し、海水が船内に浸入して主機、発電機及び他の諸機器に濡損を生じ、僚船により沖合に引き出されたものの転覆し、のち相馬港内の造船所に引き付けられ、修理された。
(原因)
本件乗揚は、福島県相馬港において、南防波堤の岸沿いで岸に向かってしらす引き網漁を行う際、船位の確認が不十分で、波打ち際に接近して投網しながら進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、福島県相馬港において、南防波堤の岸沿いで岸に向かってしらす引き網漁を行う場合、魚群探知器を作動していて水深を測定できる状況にあったのであるから、同器に表示される水深を調べるなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、水深が2メートル等深線より岸寄りになっていたものの、操業に夢中になって波打ち際に近いことを忘れ、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、南防波堤沖合の砂質の浅瀬に向首進行して乗揚を招き、恵永丸の船底に擦過傷を生じさせ、右舷側に横倒しとなって右舷側外板が損傷したのち、海水が船内に浸入して主機、発電機及び他の諸機器に濡損を生じさせ、僚船により沖合に引き出されたものの転覆するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。