(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年3月21日04時30分
北海道紋別港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三佐治丸 |
総トン数 |
160トン |
登録長 |
31.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,029キロワット |
3 事実の経過
第三佐治丸(以下「佐治丸」という。)は、右回りの可変ピッチプロペラを装備した沖合底びき網漁業に従事する船首船橋型鋼製漁船で、A受審人ほか14人が乗り組み、操業の目的で、平成14年3月20日北海道紋別港を出港し、同港沖合の漁場に至ってずわいがになど約4.5トンを漁獲し、翌21日01時00分船首2.5メートル船尾4.3メートルの喫水をもって、紋別港北北東方約45海里の地点を発し、同港に向けて帰途に就いた。
ところで佐治丸の船橋には、中央に操舵スタンドが、左舷側に機関操縦盤及び遠隔操舵装置操作盤が、右舷側にレーダー及び魚群探知機がそれぞれ設置されていた。
A受審人は、昭和55年1月乙種二等航海士の海技免許を取得し、可変ピッチプロペラを装備した漁船の船長経験を有しており、平成14年1月から佐治丸の船長として乗り組んでいた。
A受審人は、漁場発進時から単独の船橋当直に就き、04時24分紋別港北副防波堤灯台(以下「北副防波堤灯台」という。)の北東方1海里ばかりの地点で、乗組員を船首及び船尾の入港配置にそれぞれ就け、自らは機関操縦盤と遠隔操舵装置操作盤の間に立ち、紋別港第1ふ頭東岸壁に着岸するため、紅灯標識が設置された北防波堤南端と第1防波堤北端とで形成された可航幅約70メートルの防波堤入口(以下「防波堤入口」という。)に向けて航行した。
04時26分少し過ぎA受審人は、北副防波堤灯台から102度(真方位、以下同じ。)620メートルの地点に達したとき、針路を271度に定め、防波堤入口への入航態勢をとり、機関をプロペラ翼角(以下「翼角」という。)前進17度の全速力前進にかけ、13.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)として遠隔操舵装置による手動操舵で進行し、同時27分少し過ぎ同灯台から116.5度270メートルの地点に至り、針路を277度に転じ、翼角を前進12度に下げて続航した。
04時28分少し前A受審人は、北副防波堤灯台から163度100メートルの地点に達し、速力が9ノットばかりとなったころ、更に減速するため、翼角を前進6度に下げたところ、しばらく前から在橋していた漁ろう長から速力が過大である旨の進言を受けた。
A受審人は、前進中に翼角を後進に操作すると保針不能に陥るおそれがあることを承知していたが、04時28分少し過ぎ北副防波堤灯台から214度100メートルの防波堤入口手前150メートルの地点に至ったとき、徐々に翼角を下げるなど、速力制御を適切に行わずに、直ちに速力を大幅に減じることとして翼角を後進に操作したところ、保針不能となって左転し始めた。
04時28分半A受審人は、南西方の第1防波堤北端に60メートルまで向首接近したことから危険を感じ、前進行きあしを止めるため更に翼角を後進12.5度まで急激に操作したところ、同時29分北副防波堤灯台から245度210メートルの防波堤入口手前30メートルの地点において、南東方に向首した態勢で行きあしが停止したので、翼角をほぼ0度の停止翼角とした。
このとき、A受審人は、正船尾わずか左方に北防波堤先端を目視し、このままの態勢で後進により入航すると、船尾が北防波堤先端の消波ブロックに接近して底触するおそれがあったが、漁ろう長から後進入航するように進言され、また2海里ほど後方に後続していた僚船より先に水揚げをしたかったことなどから、前進して防波堤の外の安全な水域に戻り、同水域で反転して入航態勢の立て直しを行わず、04時29分半少し前舵を中央として翼角を後進7度にとって発進した。
佐治丸は、船尾が北防波堤先端至近に向く態勢のまま後進中、04時30分北副防波堤灯台から261.5度230メートルの北防波堤先端消波ブロックに、125度を向首し、後進約3ノットの速力で、船尾部が乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力1の北西風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、日出時刻は05時29分であった。
乗揚の結果、佐治丸は、プロペラ翼に欠損を伴う曲損、同軸に損傷及び船尾船底部に擦過傷を生じたが、自力で離礁し、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、北海道紋別港の防波堤入口に向けて航行中、速力制御が不適切で、後進操作がとられて保針不能となったばかりか、同入口手前で反転停止したのち入航する際、入航態勢の立て直しを行わなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、北海道紋別港の防波堤入口に向けて航行中、保針不能となり、同入口手前で船尾が防波堤入口の北防波堤先端付近に向いた態勢で停止したのち入航する場合、このままの態勢で後進により入航すると、船尾が北防波堤先端の消波ブロックに接近して底触するおそれがあったから、安全に入航できるよう、一旦安全な水域に戻り、入航態勢の立て直しを行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、後続する僚船より先に水揚げをしたかったことなどから、入航態勢の立て直しを行わなかった職務上の過失により、船尾が北防波堤先端至近に向く態勢のまま後進入航して乗揚を招き、プロペラ翼に欠損を伴う曲損、同軸に損傷及び船尾船底部に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。