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平成15年那審第32号
件名

旅客船ぱらだいす乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年2月19日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(坂爪 靖、小須田 敏、上原 直)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:ぱらだいす船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船体大破、全損

原因
船内を無人とし、守錨当直を行わなかったこと

主文

 本件乗揚は、船内を無人とし、守錨当直を行わなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年1月3日10時16分
 沖縄県伊良部島北西端
 
2 船舶の要目
船種船名 旅客船ぱらだいす
総トン数 4.8トン
登録長 11.91メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 139キロワット

3 事実の経過
 ぱらだいすは、船内機を備えた最大搭載人員30人のFRP製旅客船で、平成6年9月に一級小型船舶操縦士免許を取得したA受審人が父親所有の同船に船長として乗り組み、沖縄県伊良部島佐良浜漁港を基地として専ら同島と下地島周辺海域でダイビングの実施等に使用していたところ、同人が1人で乗り組み、ダイビング客22人とダイビングのインストラクター3人を乗せ、ダイビングを行う目的で、船首0.3メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、同15年1月3日09時10分佐良浜漁港を発し、伊良部島白鳥崎西方沖合のダイビングポイントに向かった。
 伊良部島は、宮古島の西方約3海里のところに位置し、伊良部島白鳥崎と、同島南西岸の数箇所から橋を介して約100メートル隔てたところにある下地島の北西端との間には、幅100ないし200メートルの弧状に拡延した干出さんご礁帯があった。そして、これと陸岸で囲まれたところが礁湖となっていて、同礁帯のところどころには外海に通じる切れ目があり、白鳥崎及び同崎西方の同切れ目付近と下地島南西岸付近などが両島のダイビングポイントとなっていた。
 ところで、同月3日09時00分発達中の低気圧が、九州南岸の北緯31度00分東経131度00分にあって時速28キロメートルで東に進み、そこから南西に延びる寒冷前線が伊良部島の北西方付近にあり、沖縄気象台は前日17時00分「明日は、先島諸島では前線の通過後、急に北風が強まり、海上ではしけてくる見込みである。」旨の天気概況を発表し、また、宮古島地方気象台では同2日20時10分宮古島地方に強風・波浪注意報を発表して注意を呼びかけていた。
 一方、A受審人は、発航前、朝のテレビと電話で、「午前中は南寄りの風が吹き、午後からは前線の通過で風向が北に変わり、風が強まる。」旨の気象情報を得ていて、白鳥崎西方沖合では昼前後に天候が悪化して風波とも強まると予測したものの、ともかく同沖合のダイビングポイントに近づき、風波の状況を見たうえで、ダイビングを行うことができるかどうかを判断することとして前示のとおり発航した。
 09時35分A受審人は、白鳥崎西方550メートルで、伊良部島46メートル頂から330度(真方位、以下同じ。)1.3海里の地点に至り、小雨模様でやや波があったものの、風速毎秒4メートルほどの南西風であったことから、ダイビングを行うつもりで、水深約7メートル、底質岩のところに、重さ12.5キログラムのステンレス製4爪錨を船首から投下し、同錨に取り付けた直径23ミリメートル全長100メートルの合成繊維製ロープの錨索のうち約25メートルを延出して錨泊した。
 A受審人は、ダイビングを行うため、そのまま錨泊を続けることとしたが、風向が北に変わるまで、まだ時間があるので大丈夫と思い、風向風力の変化や錨索切断などの事態に対処できるよう、自らがぱらだいすに残り、守錨当直を行わないで、船内を無人としたまま、09時45分乗船者全員でダイビングを開始した。
 こうして、ぱらだいすは、無人のまま錨泊中、風向が南西から北西に変わり、強く吹き始めたため、錨索が岩に擦れるかして、錨から約1.5メートルの箇所で切断し、風下の陸岸に向かって圧流されだし、ダイビング開始約30分後に乗船者全員が同船の真下付近に集合することにしていたことから、10時15分ごろ先に浮上したダイビングのインストラクターのうちの1人がこれに気付き、A受審人に知らせ、同人が急ぎ浮上したが、10時16分伊良部島46メートル頂から331度1.1海里の地点において、船首が東方を向いて、白鳥崎南西方の陸岸に乗り揚げた。
 当時、天候は小雨で風力5の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、強風・波浪注意報が発表されており、海上には高さ約2メートルの波があった。
 乗揚の結果、船体は波浪で大破し、全損となった。また、A受審人を含む乗船者全員は付近の僚船に救助されたり、自力で陸岸に泳ぎ着いたりして無事だった。 

(原因)
 本件乗揚は、沖縄県伊良部島白鳥崎西方沖合において、ダイビングを行うため錨泊する際、船内を無人とし、守錨当直を行わず、風向風力が変化して錨索が切断し、風下の陸岸に向かって圧流されたことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、沖縄県伊良部島白鳥崎西方沖合において、ダイビングを行うため錨泊する場合、前線の通過で天候が悪化することが予想されたから、風向風力の変化や錨索切断などの事態に対処できるよう、船内を無人としないで、自らがぱらだいすに残り、守錨当直を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、風向が北に変わるまで、まだ時間があるので大丈夫と思い、船内を無人とし、守錨当直を行わなかった職務上の過失により、風向風力が変化して錨索が切断し、風下の陸岸に向かって圧流されて乗揚を招き、ぱらだいすの船体を波浪で大破させ、同船を全損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって、主文のとおり裁決する。





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