(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年8月30日04時00分
関門港若松区
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船優妃丸 |
総トン数 |
4.23トン |
全長 |
12.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
235キロワット |
3 事実の経過
優妃丸は、一本釣り漁業に従事する、GPSプロッターを備え、レーダーを装備していないFRP製漁船で、平成14年11月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人が1人で乗り組み、漁獲物水揚げの目的で、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同15年8月30日03時35分山口県下関漁港伊崎地区を発し、関門港小倉区(以下、関門港各港区の名称については「関門港」を省略する。)日明ふ頭の中央卸売市場に向かった。
A受審人は、若松区の洞海湾入口付近に旧友の乗船している貨物船が錨泊しているのを見かけ、魚を進呈するつもりで同船に立ち寄ったものの、乗組員がまだ睡眠中であったことからこれを果たせないまま、関門航路西外側の同区及び小倉区を南下して日明ふ頭に向かうこととし、03時56分若松洞海湾口防波堤灯台(以下「洞海湾口灯台」という。)から097度(真方位、以下同じ。)850メートルの地点で、針路を154度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの微弱な南東流に乗じて18.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、専ら周囲を目視しながら、手動操舵により進行した。
ところで、若松区の製鉄戸畑泊地入口の南側には、全長約300メートルの戸畑泊地防潮堤(以下「防潮堤」という。)が、同泊地の南東端から035度方向に築造され、防潮堤の頂部に約70メートル間隔で高さ3.2メートル出力3ワットの電球点滅式の防潮堤障害灯4基(以下「障害灯」という。)が設置されていたが、A受審人は、平素から日明ふ頭で水揚げをしていて、これらのことを知っていた。
こうしてA受審人は、03時59分わずか過ぎ洞海湾口灯台から136度2,300メートルの地点に達したとき、左舷船首間近に認めた戸畑航路第1号灯標との航過距離をとるために針路を180度に転じたところ、防潮堤に向首し、左舷船首5度から右舷船首6度の間450ないし600メートルに障害灯の灯火を視認することができる状況となったが、すぐに針路を元に戻すつもりであったことから大丈夫と思い、左舷前方の日明ふ頭の方を見ていて、前路の見張りを十分に行わず、同灯火に気付かなかった。
A受審人は、依然、針路を元に戻すべく、左舷前方を見ていて、防潮堤に向首接近していることに気付かないまま続航中、04時00分洞海湾口灯台から143度2,680メートルの地点で、原針路、原速力のまま、防潮堤の基部に乗り揚げた。
当時、天候は晴で、風はほとんどなく、潮候はほぼ干潮時で、約0.2ノットの南東流があった。
乗揚の結果、船底に破口を生じ、サルベージ船によって引き下ろされたが、のち廃船処分とされた。
(原因)
本件乗揚は、夜間、若松区において、関門航路の西外側を南下中、航路標識との航過距離をとるために右転した際、前路の見張りが不十分で、障害灯の点灯した防潮堤に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、若松区において、関門航路の西外側を南下中、航路標識との航過距離をとるために右転した場合、障害灯の点灯した防潮堤の存在を知っていたのであるから、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、すぐに針路を元に戻すつもりであったことから大丈夫と思い、左舷前方の元の針路方向を見ていて、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同灯火に気付かないまま、防潮堤へ向首進行してその基部への乗揚を招き、船底に破口を生じさせ、のち廃船処分とされるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。