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平成15年広審第129号
件名

漁船第八幸徳丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年2月23日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(高橋昭雄)

副理事官
園田 薫

受審人
A 職名:第八幸徳丸船長 海技免許:五級海技士(航海)

損害
船首船底外板に凹損及び推進器等に損傷

原因
居眠り運航防止措置不十分

裁決主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年6月16日01時45分
 瀬戸内海中部 愛媛県大島東岸沖
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八幸徳丸
総トン数 151トン
全長 38.45メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 617キロワット

3 事実の経過
 第八幸徳丸は、鋼製活魚運搬船で、A受審人ほか3人が乗り組み、活魚を載せ、平成15年6月14日14時愛媛県宇和島港を出航し、その後山口県岩国港及び広島県広島港さらに兵庫県家島港そして岡山県岡山港及び下津井港に寄港して活魚の荷揚げを終え、空倉のまま、船首1.20メートル船尾3.30メートルの喫水をもって、翌15日21時20分下津井港を発して宇和島港に向かって帰途に就いた。
 ところで、当時の運航状況は、宇和島港を基地として九州東岸及び四国西岸の各養殖場から活魚或いは稚魚を広島県から岡山県及び香川県等の瀬戸内海各地へ、またときには神奈川県三崎港への運搬も行い、総勢5名が乗り組んでいたところ、今般宇和島港出航時に1名が病気通院のため下船していた。
 A受審人は、船橋当直の運営にあたって、各乗組員がそれまでの数多くの航海経験から2人直による4時間2直制を採り、自らは出入港時の操船及び狭い水道等を含む区間の当直を行うようにしていた。しかし、乗組員にとって昼夜を問わない活魚の積込陸揚げにより、寄港地が近いので休息特に睡眠を十分にとれず、休息及び睡眠不足から疲労が容易に解消されない厳しい運航状況であった。とりわけこの度の航海では、部下が家島港から下津井港に至るまでの水路状況に不慣れであったことから自らがその間の当直にあたり、同15日14時半家島港入港から休息をとらない状況が続いていた。
 さらに、A受審人は、下津井港の出航操船に続く当直に就いて備讃瀬戸北航路を西行する予定で水島航路を南下し、22時過ぎ備讃瀬戸北航路に入って牛島付近に達したところで、出港作業等を終えて昇橋してきた甲板員と一時交替し、出航後のシャワーや食事を摂るために下橋した。しかし、食事中に予定の相当直者から発熱による体調不良の訴えを聞いて同人を休ませることにして、23時過ぎ備讃瀬戸北航路西口付近で再昇橋し、その後単独で当直にあたって備後灘を西行した。そして、当直に就いた時点ではシャワーを浴びたことですっきりした気分であったものの次第に疲労を感じ、立った姿勢からいすに腰掛けた姿勢で当直を行うようになった。
 翌16日01時00分A受審人は、高井神島灯台から324度(真方位、以下同じ。)1.4海里の地点で、宮ノ窪瀬戸を通航する予定で針路を同瀬戸東口に向かう250度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけたまま10.0ノットの速力で進行した。
 ところが、A受審人は、定針後もいすに腰掛けた姿勢で当直を続けていたところ、やがて眠気を催すようになったが、居眠り運航に陥ることのないよう、まずは立ったり身体を動かすなりなどして種々努力したうえで眠気を払拭できない状態であれば次直を呼んで一時仮眠をとるなど居眠り運航の防止措置を十分にとることなく、1時間足らずで宮ノ窪瀬戸を通航して当直を交替する予定であったので、それまで当直を続けようとし、引き続き眠気を催しながらいすに腰掛けた姿勢のまま当直を続けた。
 こうして、A受審人は、その後居眠りに陥り、宮ノ窪瀬戸東口での予定転針地点に達したことに気付かず、大島東岸に向首したまま進行し、01時45分六ッ瀬灯標から215度1.66海里の地点において、第八幸徳丸は、原針路、原速力のまま大島北東岸沖の暗礁に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 乗揚の結果、第八幸徳丸は、船首船底外板に凹損及び推進器等にそれぞれ損傷を生じた。 

(原因)
 本件乗揚は、夜間、備後灘を西行して宮ノ窪瀬戸に向かう際、居眠り運航の防止措置が不十分で、愛媛県大島東岸に向首したまま進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、備後灘を西行して宮ノ窪瀬戸に向かう際、単独で船橋当直中に眠気を催すようになった場合、いすに腰掛けた姿勢のまま当直を続けると居眠りに陥るおそれがあるから、まずは立ったり身体を動かすなりなどして種々自助努力したうえで眠気を払拭できない状態であれば次直を呼ぶなり一時仮眠をとるなど居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかし、同人は、1時間足らずで宮ノ窪瀬戸を通航して当直を交替する予定であったので、それまで当直を続けようとし、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、引き続き眠気を催しながらいすに腰掛けた姿勢のまま当直を続けて居眠りに陥り、宮ノ窪瀬戸東口での予定転針地点に達したことに気付かず、大島東岸に向首したまま進行して、同島沖の暗礁への乗揚を招き、船底外板に凹損及び推進器等に損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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