(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年4月25日08時05分
鳴門海峡
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第弐拾八盛漁丸 |
総トン数 |
98トン |
全長 |
36.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
736キロワット |
3 事実の経過
第弐拾八盛漁丸は、専ら大分県南海部郡蒲江町から瀬戸内海沿岸各地に活魚を運搬するFRP製の漁船で、A受審人ほか5人が乗り組み、活魚3トンを乗せ、船首1.8メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、平成15年4月25日07時30分兵庫県福良港を発し、同県明石港に向かった。
A受審人は、長年B社が運航する活魚運搬船の甲板員として乗り組み、平成13年11月に船長となり、瀬戸内海の航行経験が豊富で鳴門海峡を幾度も通航し、大鳴門橋南方に航行に危険な一ツ碆の浅礁が存在することを熟知していたが、鳴門海峡の通航にあたり、大縮尺海図W112(鳴門海峡)を使用しないで、小縮尺海図W106(大阪湾及び播磨灘)を使用していた。そして、備付けのGPSプロッタに表示される鳴門海峡の海岸線図中、一ツ碆の周囲に赤線を入力して避険線とし、そこに近づかないように注意していた。
発航時A受審人は、潮汐表を見て鳴門海峡が約5ノットの南流と推測し、逆潮流ではあるものの何とか通航できると考え、折から霧のため視程が約0.5海里に狭められていたことから、警戒のため部下3人を船首に、甲板員1人を船橋にそれぞれ配置して見張りにあたらせ、甲板員とともにときどきレーダーを見ながら、自ら手動操舵にあたった。
07時42分A受審人は、鳴門飛島灯台(以下「飛島灯台」という。)から080度(真方位、以下同じ。)2.4海里の地点で、針路を260度に定め、機関を全速力より50回転ほど下げて回転数毎分800の前進にかけ、8.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行し、飛島から大鳴門橋に至る鳴門海峡最狭部の南口に向かった。
A受審人は、霧中に鳴門海峡を通航するのは初めてで、それまで福良港から播磨灘に向かう際、肉眼で飛島までの距離を目測し、約500メートルに接近したら右転し、大鳴門橋の右側端灯に向首して北上していたが、このときもほぼ同じように航行するつもりで、ときどきレーダーを見ながら操舵にあたった。
A受審人は、飛島に近づくうち、更に霧が濃くなったことを認めたが、周囲に何も視認することができず、正確な視程を把握できないまま、1.5海里レンジとしたレーダーを見て他船の映像を認めなかったことから、そのまま大鳴門橋に向かって続航することとし、07時57分半飛島灯台から080度650メートルの地点に達したとき、飛島を視認できなかったものの、1.5海里レンジのレーダーに映った飛島や大鳴門橋の映像を見てほぼ予定の転針地点に達したものと推測し、大鳴門橋の右側端灯に向けるつもりで右舵5度をとってゆっくり回頭を始め、同時58分半同灯台から071度570メートルの地点で針路を353度に転じたところ、一ツ碆の浅礁に向首する状況となった。
転針後A受審人は、レーダー映像をいちべつしただけでほぼ予定針路上にいるものと思い、レーダーで大鳴門橋及び飛島までの距離を測定して船位を海図に記入するとか、GPSプロッタを注意深く見て、自船の航跡が赤線で示した浅礁に向かっていないかどうか確かめるなど、船位の確認を十分に行わなかったので、予定針路より200メートルほど東に寄り、一ツ碆の浅礁に接近していることに気付かず、折からの潮流に抗して2.0ノットの速力で北上した。
A受審人は、その後も濃い霧のため大鳴門橋や付近の陸岸を視認することができないにも関わらず、使用中のレーダーを十分に監視せずに肉眼で前方を見張りながら進行した。
こうして第弐拾八盛漁丸は、一ツ碆に向首したまま続航中、08時05分飛島灯台から039度800メートルの地点において、原針路、原速力のまま、海図上の最小水深が0.8メートルの一ツ碆の浅礁に乗り揚げた。
当時、天候は霧で風はなく、視程は約200メートルで、潮候は下げ潮の初期にあたり、大鳴門橋中央部の潮流は、南流最強時の35分前で、約6.3ノットであった。
乗揚の結果、球状船首に亀裂を生じたが、間もなく自力で離礁し、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、霧のため視界が制限された鳴門海峡において、兵庫県福良港を出航後、飛島東方で転針して同海峡最狭部を北上する際、転針後の船位の確認が不十分で、大鳴門橋南方の一ツ碆の浅礁に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、霧のため視界が制限された鳴門海峡において、兵庫県福良港を出航後、飛島東方で転針して同海峡最狭部を北上する場合、予定針路の東側に一ツ碆の浅礁があることを知っていたのであるから、同浅礁に接近しないよう、転針後に船位を十分に確認すべき注意義務があった。しかし、同人は、レーダー映像をいちべつしただけで、ほぼ予定針路上を航行しているものと思い、レーダーで大鳴門橋及び飛島までの距離を測定して船位を海図に記入するとか、GPSプロッタを注意深く見て、自船の航跡が赤線で示した浅礁に向かっていないかどうか確かめるなど、転針後に船位を十分に確認しなかった職務上の過失により、予定針路より200メートルほど東に寄り、一ツ碆の浅礁に接近していることに気付かずに進行して乗揚を招き、球状船首に亀裂を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。