(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年5月22日04時10分
長崎県対馬下島東岸
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第二福嘉丸 |
総トン数 |
4.94トン |
登録長 |
10.20メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
80 |
3 事実の経過
第二福嘉丸(以下「福嘉丸」という。)は、一本釣り漁業に従事する、レーダーを装備していないFRP製漁船で、平成14年8月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人が1人で乗り組み、よこわ釣り漁の目的で、船首0.4メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成15年5月22日03時56分長崎県厳原港の久田浦を発し、対馬下島神埼付近の漁場に向かった。
ところで、A受審人は、平素、夜間には厳原港入口南側に築造中の防波堤やその工事区域を示す灯付浮標との距離を目測して同防波堤北端の約130メートル東方で187度(真方位、以下同じ。)の針路とし、自動操舵により、下穴浦南岸の東端から東方に拡延する岩礁(以下「下穴浦東端の岩礁」という。)に約120メートル、大埼に約50メートルそれぞれ近寄って無難に航過しながら南下していた。
こうして04時04分半A受審人は、耶良埼灯台から167度600メートルの地点で、前回出港時と違って築造中の防波堤北端に明るく照明された作業船が停泊しているのを初めて認め、同船の照明等を目測して187度に定針したところ、定針地点が平素より陸寄りとなっていて、同針路では下穴浦東端の岩礁に接近する状況であったが、このことに気付かないまま、機関を全速力前進にかけて11.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵として進行した。
A受審人は、折からの東風によって定針したときから1度ほど右方に圧流されていることにも気付かないまま続航し、04時06分少し前操舵室の室内灯を点じ、舵輪の右後方に立った姿勢で、物入れからテグスや釣り針を出して漁具の仕掛けを作る準備を始めた。
04時08分少し過ぎA受審人は、耶良埼灯台から181度1,800メートルの地点に達したとき、下穴浦東端の岩礁に近寄る針路としていたものの、平素同岩礁沖合を無難に航過していたことから、大埼に近づくまで陸岸に著しく接近することはあるまいと思い、漁具の仕掛けを準備することに熱中していて、同岩礁に著しく接近しないよう、月明かりのもとで右舷前方の下穴浦の陸岸までの距離を目測するなどして船位の確認を十分に行わなかったので、同岩礁に向首していることに気付かなかった。
A受審人は、漁具の仕掛けの準備を続け、依然、船位確認不十分のまま続航し、04時10分耶良埼灯台から183度2,420メートルの地点で、原針路、原速力のまま、下穴浦東端の岩礁に乗り揚げた。
当時、天候は晴で、風力2の東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、月齢20.6の月出時刻が00時43分であった。
乗揚の結果、左舷中央部船底に破口を生じ、のち僚船によって厳原町小浦の造船所に引きつけられ、廃船処分とされた。
(原因)
本件乗揚は、夜間、対馬下島東岸沖合において、同島に沿って南下する際、船位の確認が不十分で、同島下穴浦東端の岩礁に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、対馬下島東岸沖合において、同島に沿って南下する場合、下穴浦東端の岩礁に近寄る針路としていたのであるから、同岩礁に著しく接近しないよう、月明かりのもとで右舷前方の下穴浦の陸岸までの距離を目測するなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、平素、同岩礁沖合を無難に航過していたことから、大埼に近づくまで陸岸に著しく接近することはあるまいと思い、漁具の仕掛けを準備することに熱中していて、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、同岩礁へ向首進行して乗揚を招き、左舷中央部船底に破口を生じさせ、のち廃船処分とさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。