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平成15年神審第68号
件名

引船玄海丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成16年1月16日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(小金沢重充、竹内伸二、中井 勤)

理事官
前久保勝己

受審人
A 職名:玄海丸船長 海技免許:五級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
船首船底外板に亀裂を伴う凹損

原因
海象(強潮流)に対する配慮不十分

主文

 本件乗揚は、強潮流に対する配慮が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年11月6日04時40分
 鳴門海峡
 
2 船舶の要目
船種船名 引船玄海丸
総トン数 124.16トン
全長 24.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 514キロワット

3 事実の経過
 玄海丸は、船首船橋型鋼製引船で、A受審人ほか1人が乗り組み、回航の目的で、航行区域を平水区域から沿海区域へ臨時に変更し、船首1.8メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成14年11月5日14時10分山口県岩国港を発し、瀬戸内海及び鳴門海峡経由で名古屋港へ向かった。
 ところで、A受審人は、主機関の経年劣化や船底外板の汚損などにより、全速力前進時の対水速力が約8.0ノットであったことを勘案し、鳴門海峡最狭部を潮流が南流から北流への転流時刻に航過する予定で航海計画を立てていた。
 A受審人は、22時00分白石瀬戸を通過したころ昇橋して単独の船橋当直に就き、予定より約1時間遅れて備讃瀬戸及び播磨灘を東行し、翌6日03時22分丸山港西防波堤灯台から288度(真方位、以下同じ。)4.5海里の地点で、針路を140度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で手動操舵により進行した。
 04時21分A受審人は、孫埼灯台から069度450メートルの地点に達したとき、針路を159度に転じ、徐々に強まる北流により速力が3.0ノット以下となり、強い逆潮流によって著しく速力が低下したことを知り、同海峡最狭部へ近づくにつれて急速に逆潮流の影響が大きくなることを予想できる状況であったものの、何とか通航できるものと思い、船体が危険な状態に陥ることのないよう、西方の徳島県亀浦港近くの水域に移動して潮流が弱まるまで待機するなど、強潮流に対する配慮を十分に行うことなく南下を続けた。
 こうして、A受審人は、次第に増勢する北流によって速力を更に減じられながら進行し、04時28分大鳴門橋下の鳴門海峡最狭部に達したころ、前進困難な状況となった。
 A受審人は、しばらく潮流に抗して船首方向を維持していたものの、強まる北流に抗しきれず、04時37分孫埼灯台から087度450メートルのところまで押し戻されたので、強潮流の中央付近から離れようとして右へ舵をとり、潮流に抗しながら南西方へ進行中、04時40分孫埼灯台から121度350メートルの地点において、玄海丸は、その船首が216度に向いて、3.0ノットの速力で裸島付近の浅所に乗り揚げた。
 当時、天候は曇で風力3の西北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、月齢1.1の大潮の時期にあたり、鳴門海峡最狭部付近には約8.0ノットの北流があった。
 乗揚の結果、船首船底外板に亀裂を伴う凹損を生じたが、自力で離礁して北泊ノ瀬戸経由で兵庫県福良港に入港し、のち修理された。 

(原因)
 本件乗揚は、鳴門海峡に向け南下中、強い逆潮流によって著しく速力が低下した際、強潮流に対する配慮が不十分で、鳴門海峡最狭部で前進困難な状況に陥り、裸島付近の浅所に接近したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、鳴門海峡に向け南下中、強い逆潮流によって著しく速力が低下したことを知った場合、鳴門海峡最狭部に近づくにつれて急速に逆潮流の影響が大きくなることを予想できる状況であったから、船体が危険な状態に陥ることのないよう、西方の亀浦港近くの水域に移動して潮流が弱まるまで待機するなど、強潮流に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、何とか通航できるものと思い、強潮流に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、鳴門海峡最狭部で前進困難な状態に陥り、裸島付近の浅所への乗揚を招き、船首船底外板に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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