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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) >  衝突事件一覧 >  事件





平成15年長審第54号
件名

旅客船フェリー五島貨物船第五フェリー美咲衝突事件
二審請求者〔補佐人 C〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年3月24日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(清重隆彦、原 清澄、寺戸和夫)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:フェリー五島船長 海技免許:三級海技士(航海)
B 職名:第五フェリー美咲船長 海技免許:三級海技士(航海)

損害
フェリー五島・・・船首に圧損、 旅客1人が右足打撲傷等の負傷
第五フェリー美咲・・・左舷船首部に凹損

原因
フェリー五島・・・港則法の航法(避航動作)不遵守、動静監視不十分(主因)
第五フェリー美咲・・・注意喚起信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、入航するフェリー五島が、防波堤の外で、出航する第五フェリー美咲の進路を避けなかったことによって発生したが、出航する第五フェリー美咲が、入航態勢にあるフェリー五島に対し、注意喚起を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月11日13時00分
 長崎県福江港
 
2 船舶の要目
船種船名 旅客船フェリー五島 貨物船第五フェリー美咲
総トン数 1,262.58トン 498トン
全長 73.56メートル 65.79メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,942キロワット 1,176キロワット

3 事実の経過
 フェリー五島(以下「五島」という。)は、繁忙期に臨時便として就航する2機2軸の鋼製旅客船兼自動車渡船で、A受審人ほか14人が乗り組み、旅客70人を乗せ、車両15台を搭載し、船首2.70メートル船尾3.83メートルの喫水をもって、平成15年8月11日09時07分長崎県長崎港を発し、同県福江港に向かった。
 ところで、福江港は、長崎県福江島東岸ほぼ中央部に造成され、北方に開いた港口を有し、その港口は、南東方に約650メートル延びる突端に福江港2号防波堤灯台(以下「2号防波堤灯台」という。)が設けられた2号防波堤と、北方に約1,000メートル延びる3号防波堤とで構成され、両防波堤間(以下「防波堤入口」という。)の可航幅が170メートルばかりで、両防波堤至近まで5.6メートル以上の水深が確保されていた。そして、防波堤の内側で、2号防波堤灯台の西方約350メートルのところにフェリー岸壁が築造されていた。
 A受審人は、長崎港と福江港との間の船橋当直を、一等航海士、二等航海士及び甲板長と甲板手1名とによる各直2名の3直制とし、発航操船後、同当直を一等航海士に委ねて降橋した。そして、12時20分福江港の北東方9海里ばかりの地点で昇橋して同時25分ごろ入港部署を発令し、同時45分昇橋した一等航海士を肉眼による見張りに、二等航海士をレーダー監視にそれぞれ当たらせ、甲板手を舵輪に就け、自ら操船指揮を執って全速力のまま南下し、同時50分少し前ごろ船首方1,700メートルばかりの福江港フェリー岸壁に船尾着けしている第五フェリー美咲(以下「美咲」という。)を2号防波堤越しに初めて認めるとともに、防波堤の内側から出航する第三船をも認めた。
 A受審人は、12時50分2号防波堤灯台から036度(真方位、以下同じ。)1,580メートルの地点で、針路を225度に定め、同時51分13.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)に減じ、同時52分防波堤の外で第三船の進路を避けるため、機関を極微速力前進に掛けて進行し、同時53分同灯台から020度520メートルの地点で、機関を停止して同じ針路のまま続航し、同時55分針路を左にとり、防波堤入口に向け、惰力で進行した。
 12時56分A受審人は、2号防波堤灯台から013度270メートルの地点に達したとき、出航する第三船が防波堤入口を通過して針路を東に向けたのを認め、入航することとしたが、初認時、美咲は係留中であったので出航することはあるまいと思い、その後、同船の動静監視を行わず、同船の船首部で一等航海士が揚錨作業を行っていることも、錨鎖を巻き上げるにつれて船首方位が変化して出航態勢となったことにも気付かず、機関を停止したまま防波堤の外で出航する美咲の進路を避けることなく、機関を極微速力前進に掛け、防波堤入口に向け、3.0ノットの速力で入航を再開した。
 A受審人は、12時58分2号防波堤灯台から039度140メートルの地点で、169度に向首して進行していたとき、右舷船首50度360メートルのところに、出航中の美咲を認め、直ちに機関を停止し、13時00分少し前衝突の危険を感じ、右舵一杯及び全速力後進を命じたが、及ばず、五島は、13時00分2号防波堤灯台から108度130メートルの地点において、同じ針路のまま、4.0ノットの速力で、その船首が美咲の左舷船首部に前方から30度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力3の南南西風が吹き、潮候は低潮時であった。
 また、美咲は、長崎県三重式見港と福江港との間を臨時に就航する、2機2軸の鋼製貨物フェリーで、B受審人ほか3人が乗り組み、車両3台を載せ、船首1.55メートル船尾3.35メートルの喫水をもって、同日12時54分福江港フェリー岸壁を発し、三重式見港に向かった。
 これより先、美咲は、船首を125度に向け、船尾をフェリー岸壁にほぼ直角に着けて船尾両舷から各1本の係留索をとり、右舷錨を2節2時方向に延出して係留し、ランプウェイを岸壁に降ろして着岸していた。
 B受審人は、船首部に一等航海士を、船尾左舷側の係船機及びランプウェイ昇降機操作台に機関長を、岸壁上に一等機関士をそれぞれ配置し、一等機関士が係留索を放して船内に戻ったところで、ランプウェイの揚収作業を命じ、約1メートル揚げたとき、発電機容量が不足して揚錨作業と揚収作業とを同時にすることができなかったことから、揚収作業を一旦停止し、揚錨作業を命じた。
 12時56分B受審人は、揚錨中、船首が徐々に右に向き、南南東方に向いていたとき、左舷正横後約30度480メートルばかりの2号防波堤の外に、防波堤入口付近に向首している五島を初めて認め、そのころ、第三船が出航中であったことから、同船の出航を待って停留しているものと判断し、同船に続いて出航することとして揚錨作業を続けた。
 12時57分B受審人は、2号防波堤灯台から237度270メートルの地点で揚錨作業を終え、船首が170度を向首していたとき、五島の船首方位が少し左に変わって防波堤の入口付近に向首していたが、依然、停留を続けて自船の進路を防波堤の外で避けてくれるものと思い、VHF無線電話設備を使用するなどして、自船が第三船に続いて出航する旨の注意喚起を行うことなく、舵と両舷機を適宜使用し、4.5ノットの速力で左転しながら防波堤入口に向かって進行した。
 B受審人は、12時58分、左舷ほぼ正横360メートルのところに五島が入航態勢で航行しているのを認め、互いに左舷を対して航過するつもりで、3号防波堤にできるだけ近づく針路をとってゆっくり左転し、同時59分少し過ぎ、針路を019度に定め、同じ速力で続航中、針路を右に転じないまま接近する五島と衝突の危険を感じ、汽笛を吹鳴して機関を停止し、引き続き全速力後進としたが、及ばず、美咲は、原針路のまま、1.0ノットの残速力で、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、五島は、船首に圧損を生じ、旅客1人が右足打撲傷等を負い、美咲は、左舷船首部に凹損を生じ、のちいずれも修理された。

(主張に対する判断及び航法の適用)
 本件は、長崎県福江港において、入航する五島と出航する美咲とが、防波堤入口付近で衝突したものである。
 本件につき港則法15条の適用はなく、海上衝突予防法の船員の常務が適用になるとの主張があるので、この点について検討する。
 事実関係における両船の運航模様は以下のとおりである。
 五島は、出航する第三船の進路を避けるため、12時53分防波堤の外で機関を停止して同船の進路を避け、同時56分機関を極微速力前進に掛け、入航を再開した。
 一方、美咲は、12時54分船尾の係留索を放し、船尾のランプウェイを約1メートル揚げて揚錨作業にかかり、同時57分同作業を終え、両舷機及び舵を適宜使用して防波堤入口に向かった。
 五島は、衝突の約10分前に美咲が岸壁に係留しているのを認めていた。そして、12時53分出航する第三船の進路を避けるため、防波堤の外で機関を停止し、同船と安全に替わることを確認して再入航を始めたが、美咲の動静監視を行っていれば、同船の船首部に一等航海士を視認できた。また、同船は、当初岸壁にほぼ直角に係留して右舷錨を2時方向に2節延出しており、同時54分ごろから揚錨作業を始めたのであるから、同時56分ごろには船体が30度以上右転し、態勢の変化を容易に認識することができ、出航する態勢となったことを察知できた。
 しかし、五島は、美咲の動静監視を行っていなかったので、同船が出航する態勢となったことに気付かなかった。
 他方、美咲は、揚錨作業中、12時56分防波堤の外に、出航する第三船の進路を避けるため停留している五島を認め、同船に続いて出航するつもりで揚錨作業を続け、同時57分同作業を終えたのち、五島に明らかな変化が認められなかったので、防波堤入口に向かって航行を始めた。
 以上のことから、五島は、美咲の動静監視を十分に行っていれば、12時56分美咲が出航態勢となったことが容易に認識でき、第三船に続いて出航する同船と防波堤入口付近で出会うおそれが生じた。一方、美咲は、同時56分出航する第三船の進路を避けるため、防波堤の外で停留している五島を認め、その後明らかな変化が認められなかったので、防波堤入口に向かって航行を開始し、入航する五島と防波堤入口付近で出会うおそれが生じた。
 したがって、本件は、港則法第15条を適用して律すべき事案である。 

(原因)
 本件衝突は、長崎県福江港において、入航する五島と出航する美咲が、防波堤入口付近で出会うおそれがあった際、五島が、動静監視不十分で、防波堤の外で、出航する美咲の進路を避けなかったことによって発生したが、出航する美咲が、入航態勢にある五島に対し、防波堤の外で自船の進路を避けることを促すため、注意喚起を行わなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、長崎県福江港において、防波堤入口に向かって入航中、出航する第三船の進路を避けるため防波堤の外で停留して同船を避けたのち、再度、入航する場合、防波堤の内側に係留している美咲を認めていたのであるから、同船が出航態勢となったかどうかが分かるよう、引き続き動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、同船は係留したままで出航することはあるまいと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が出航態勢となったことに気付かず、防波堤の外で、同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、五島の船首に圧損を、美咲の左舷船首部に凹損をそれぞれ生じさせ、五島の旅客1人に右足打撲傷等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、長崎県福江港において、出航する第三船に続いて、防波堤入口に向かって出航中、出航する第三船の進路を避けるため防波堤の外で停留している五島を認めた場合、同船に対して防波堤の外で自船の進路を避けることを促すため、VHF無線電話設備を使用するなどして、自船が第三船に続いて出航する旨の注意喚起を行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、五島が、出航態勢にある自船を認め、防波堤の外で自船の進路を避けてくれるものと思い、注意喚起を行わなかった職務上の過失により、防波堤入口付近で五島との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、前示の負傷を負わせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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