(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年7月16日12時35分00秒
熊本県緑川
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート |
プレジャーボート |
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プリシア |
ジュニアゼロ |
全長 |
2.93メートル |
2.89メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
電気点火機関 |
出力 |
114キロワット |
106キロワット |
3 事実の経過
プリシアジュニア(以下「プ号」という。)は、航行区域を限定沿海区域とする2人乗りのFRP製水上オートバイで、四級小型船舶操縦士免許(平成14年10月取得)を有するA受審人が1人で乗り組み、同乗者1人を乗せ、遊走の目的で、平成15年7月16日12時32分30秒、北緯32度43分53秒東経130度41分35秒に位置する釈迦堂三角点(以下「三角点」という。)から037度(真方位、以下同じ。)560メートルの地点(以下「発着地点」という。)を発進し、三角点から247度610メートルの地点に向かった。
A受審人は、発進すると機関を毎時80キロメートルの対地速力(以下「速力」という。)にかけ、川の流れに沿って下航し、12時33分22秒上記地点に至り、反転して再び発着地点に戻ることにした。
12時34分14秒A受審人は、発着地点に戻って上陸したが、バーベキューを始めるまで、まだ時間があったので、近くで再び遊走することにして同時34分29秒同地点を再び発進し、速力を毎時30キロメートルとして三角点から047度680メートルの地点に向かい、同分46秒右旋回を開始した。
12時34分54秒A受審人は、第1回目の旋回を終えて第2回目の旋回に入り、同分58秒船首が262度を向いたとき、右舷船首13度44メートルのところに、上航中のゼロを視認することができたが、右旋回することに気を取られ、前方の見張りを十分に行っていなかったので、衝突のおそれがある態勢で接近する同船に気付かず、同船の進路を避けることなく旋回を続けた。
プ号は、A受審人が衝突する直前にゼロに気付き、機関を停止したが、及ばず、12時35分00秒三角点から046.5度660メートルの地点において、その左舷船首部とゼロの船首とが直角に衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなかった。
また、ゼロは、航行区域を限定沿海区域とする2人乗りのFRP製水上オートバイで、四級小型船舶操縦士免許(平成15年3月取得)を有するB受審人が1人で乗り組み、同乗者1人を乗せ、遊走の目的で、平成15年7月16日12時32分30秒発着地点を発し、三角点から250度670メートルの地点に向かった。
B受審人は、発航すると機関を毎時60キロメートルの速力にかけ、川の流れに沿って下航し、12時33分41秒前示地点に至り、反転して発着地点に戻ることにした。
12時34分46秒B受審人は、三角点から032度495メートルの地点に達したとき、針路を082度に定めて進行し、同分49秒前路で右旋回を始めたプ号を視認したものの、いずれ自船を避けるため、下航するか上航するものと思い、同船から目を離して続航した。
12時34分58秒B受審人は、右舷船首13度44メートルのところに、2周目の旋回を行っているプ号を視認することができたが、動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船の進路を避けることなく進行した。
ゼロは、B受審人が衝突する直前に接近するプ号に気付き、直ちに機関を停止したが、及ばず、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、プ号は、左舷船首及び左舷後部外板に亀裂を、ゼロは、船首部に擦過傷を生じた。また、A受審人は、頭蓋骨を骨折して脳挫傷等を負った。
(原因)
本件衝突は、熊本県の緑川において、プリシアジュニアが、見張り不十分で、上航中のゼロの進路を避けないまま旋回を続けたことと、ゼロが、動静監視不十分で、旋回中のプリシアジュニアの進路を避けなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、熊本県の緑川において、水上オートバイで旋回しながら遊走する場合、上航するゼロを見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、旋回することに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で上航するゼロに気付かず、その進路を避けることなく旋回を続けて同船との衝突を招き、ゼロの船首部に擦過傷を、自船の左舷船首及び左舷後部外板に亀裂をそれぞれ生じさせ、自らは頭蓋骨を骨折して脳挫傷等を負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、熊本県の緑川において、水上オートバイで遊走中、プリシアジュニアが上流で右旋回しながら遊走しているのを認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、いずれプリシアジュニアがその進路を上航するか下航するかに転じるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、右方から衝突のおそれがある態勢で接近するプリシアジュニアに気付かず、その進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。