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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) >  衝突事件一覧 >  事件





平成16年門審第6号
件名

漁船泰平丸漁船冨久洋丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年3月25日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(小寺俊秋、長谷川峯清、西村敏和)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:泰平丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 
B 職名:冨久洋丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
泰平丸・・・左舷側外板に擦過傷
冨久洋丸・・・右舷側外板に擦過傷及び操舵場所囲壁を倒壊、 船長が約3週間の加療を要する外傷性頚椎症等の負傷

原因
泰平丸・・・見張り不十分、追越し船の航法(避航動作)不遵守

主文

 本件衝突は、泰平丸が、見張り不十分で、冨久洋丸を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月22日05時00分
 山口県越ケ浜半島西岸沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船泰平丸 漁船冨久洋丸
総トン数 7.9トン 0.71トン
全長 16.15メートル  
登録長 13.27メートル 5.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 401キロワット  
漁船法馬力数   10

3 事実の経過
 泰平丸は、主として一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、平成11年11月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人が1人で乗り組み、帰航の目的で、船首0.65メートル船尾1.33メートルの喫水をもって、同15年8月22日04時30分山口県萩漁港中小畑地区を発し、同県大島漁港に向かった。
 A受審人は、航行中の動力船の灯火を表示して発航したのち、船首の形状によって船首方の両舷約15度にわたり死角を生じていたので、しばらくの間、船首を左右に振って船首死角を補う見張りを行いながら北上し、04時57分少し前、虎ケ埼灯台から166.5度(真方位、以下同じ。)1.25海里の地点で、針路を320度に定め、機関を回転数1,300(毎分のもの、以下同じ。)にかけ、12.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、越ケ浜半島とその南西沖合の九島との間の水道(以下「九島水道」という。)に向けて、手動操舵により進行した。
 ところで、九島水道は、幅約250メートルで、その中央部に南東方から北西方に向けて可航幅約60メートル長さ約90メートルのほぼ平行四辺形の水路(以下「可航水路」という。)が設定され、各隅に灯標が設置されていた。可航水路は、両岸から同水路の外側近くまで浅礁が存在していることから、水路内で、2隻の船が行き会う態勢や追い越す態勢になった際、互いが造る波の影響を考慮すると、針路を転じて水路側端に寄ることが危険な狭い水路であった。
 04時58分A受審人は、虎ケ埼灯台から172.5度1.03海里の地点に達したとき、正船首530メートルのところに冨久洋丸が表示する白1灯を視認することができ、その後、同船に向首したまま衝突のおそれのある態勢で接近する状況であったが、0.5海里レンジとしていたレーダーを一見して前路に他船はいないと思い、可航水路を示す南東側入口の灯標を注視していて、船首を左右に振るなどの船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので、冨久洋丸に気付かないまま続航した。
 04時59分半わずか前A受審人は、虎ケ埼灯台から183度1,520メートルの地点で、可航水路の南東側入口まで約60メートルとなったとき、正船首約150メートルの冨久洋丸に急速に接近する状況であったものの、同水路の通航に備えて、機関の回転数を1,200として11.0ノットに減速しただけで、大幅に減速しなかった。
 A受審人は、可航水路の南東側入口を通過したのち、北西側の両灯標を注視しながら九島水道のほぼ中央部をこれに沿って北上し、05時00分少し前虎ケ埼灯台から187度1,420メートルの地点で、同水路の北西側出口を通り抜けたとき、転針によって前路の他船を避航することが可能となり、冨久洋丸が正船首45メートルのところまで接近してそのまま進行すると衝突の危険があったが、依然として船首死角を補う見張りが不十分で、同船に気付かず、大幅に減速するなり、転針するなりして同船を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けずに続航中、05時00分虎ケ埼灯台から189度1,360メートルの地点において、泰平丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首が、冨久洋丸の右舷船尾に後方から平行に衝突した。
 当時、天候は晴で、風力2の南東風が吹き、日出は05時39分で視界は良好であった。
 また、冨久洋丸は、操舵室がなく、操舵場所囲壁を備えた音響信号装置を装備していないFRP製漁船で、平成15年8月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するB受審人が1人で乗り組み、一本つり漁の目的で、船首0.4メートル船尾0.9メートルの喫水をもって、同月22日04時30分萩漁港越ケ浜地区を発し、白色全周灯及び両色灯各1個を表示して、虎ケ埼北方沖合の漁場に向かった。
 B受審人は、発航後、越ケ浜半島南岸沖合を西行して九島水道に向かい、04時55分半少し前虎ケ埼灯台から177度1,720メートルの地点で、針路を同水道に向首する320度に定め、機関を全速力前進の回転数2,000にかけ、4.0ノットの速力として、手動操舵により進行した。
 定針したころ、B受審人は、自船の船尾約1,000メートルのところに、九島水道に向けて北上してくる泰平丸の白、紅、緑3灯を認め、その後、同船の接近模様から、自船が先に可航水路を通過できるものと判断して続航した。
 B受審人は、04時56分半わずか前虎ケ埼灯台から180度1,620メートルの地点で、可航水路の南東側入口まで約180メートルとなったとき、機関の回転数を1,500として3.0ノットに減速し、同水路の通航に備えた。
 04時58分B受審人は、虎ケ埼灯台から183.5度1,510メートルの地点に達し、可航水路南東側入口まで約20メートルとなったとき、正船尾530メートルのところに泰平丸がおり、その後、同船の機関音を聴いて接近してくる気配を感じながら、左右両舷側の可航水路を示す灯標を注視して進行した。
 B受審人は、可航水路の南東側入口を通過したのち、九島水道のほぼ中央をこれに沿って北上し、04時59分半少し前虎ケ埼灯台から187度1,420メートルの地点で、同水路の北西側出口を通り抜けて続航中、冨久洋丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、泰平丸は、左舷側外板に擦過傷を生じ、冨久洋丸は右舷側外板に擦過傷と操舵場所囲壁に倒壊とを生じたが、のち、いずれも修理され、B受審人が約3週間の加療を要する外傷性頚椎症等を負った。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、山口県越ケ浜半島西岸沖合の九島水道付近において、冨久洋丸を追い越す態勢の泰平丸が、船首死角を補う見張りが不十分で、冨久洋丸を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、山口県大島漁港に帰航のため、同県越ケ浜半島西岸沖合の九島水道付近において、狭い可航水路に向けて北上する場合、船首の形状によって船首死角が生じていたのだから、前路の他船を見落とすことのないよう、船首を左右に振るなど、船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、レーダーを一見しただけで前路に他船はいないものと思い、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船より遅い速力で前路を同航する冨久洋丸に気付かず、大幅に減速するなり、可航水路を通り抜けてから針路を転じるなりして同船を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく進行して衝突を招き、泰平丸の左舷側外板に擦過傷を、冨久洋丸の右舷側外板に擦過傷と操舵場所囲壁に倒壊とをそれぞれ生じさせ、B受審人に、約3週間の加療を要する外傷性頚椎症等を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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