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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) >  衝突事件一覧 >  事件





平成16年門審第3号
件名

漁船興亜丸漁船若宮丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年3月25日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長谷川峯清、橋本 學、千葉 廣)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:興亜丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 
B 職名:若宮丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
興亜丸・・・左舷船首に擦過傷
若宮丸・・・左舷船尾外板に破口、曳航後、クレーンで陸揚時船内に浸入した海水の重量で船底が破損、修理不能とされて全損、 船長が頸部、腰部及び背部等に1週間の入院を要する打撲傷

原因
興亜丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
若宮丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、興亜丸が、見張り不十分で、漂泊中の若宮丸を避けなかったことによって発生したが、若宮丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月3日04時47分
 福岡県玄界島東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船興亜丸 漁船若宮丸
総トン数 14.33トン 1.48トン
登録長 14.66メートル 7.25メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 433キロワット 17キロワット

3 事実の経過
 興亜丸は、漁撈機械が装備されて漁具を搭載したほぼ同船型で同船名の主船(以下「主船」という。)と2隻でひき網漁業に従事するFRP製漁船で、昭和51年1月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、主としてマダイを漁獲対象とする2そうごち網漁の目的で、船首0.5メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成15年8月3日04時30分福岡県唐泊漁港を基地とする主船を含む同業種5箇統の僚船9隻とともに同漁港を発し、法定灯火を表示して同県沖ノ島東方沖合の漁場に向かった。
 ところで、興亜丸は、船体中央船尾寄りに操舵室が配置され、船首甲板下の魚倉に魚箱等、船尾甲板下の魚倉に予備漁具等及び同甲板上に長さ850メートルの曳き綱をそれぞれ積み、操業時には、曳き綱の繰り出し及びこぎ締めと称する同綱の引き寄せ両作業に当たるだけで、操業の指揮を執る漁撈長のほかに4人が乗り組む主船が、投揚網、曳き綱の繰り出し、こぎ締め及び漁獲物整理各作業等に当たっていた。また、興亜丸は、漁場への往復航時など機関を半速力前進以上にかけて航行すると船首が浮上して死角が生じるため、平素、船首方に航行の支障となる他船などの存在を知ったときには、舵輪の船首側に設置されたレーダー画面を監視するとともに、船首を左右に振るなどして前路の確認を行いながら航行していた。
 こうして、A受審人は、発航後唐泊漁港港外で主船の出港を待ち、同船を右舷船首12度400メートルに見る態勢で、福岡市西区正田鼻を約70メートル離して北上したのち、04時36分半玄界島灯台から176.5度(真方位、以下同じ。)2.6海里の地点で、針路を014度に定め、機関を半速力前進にかけ、14.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、操舵室の船体中心線から約1メートル右舷側に設けられた舵輪の後部に固定したいすに前方を向いて腰を掛け、船首浮上によって生じた左舷船首方に14度、右舷船首方に3度の死角を補うため、レーダーを0.75海里レンジとして監視に当たるとともに、左舷船首方に2隻、右舷船首方に主船を含む6隻の僚船が表示する法定灯火を見ながら、一斉に出漁した僚船の後ろから2隻目に位置した状態で、自動操舵によって進行した。
 04時44分A受審人は、玄界島灯台から145度1,900メートルの地点に至ったとき、正船首方1,350メートルのところに、底刺網漁具の投網を終えて漂泊中の若宮丸が表示する白1灯及び同漁具の片端の存在を示すためのボンデンに取り付けたポイポイ灯と称する点滅式小型標識灯(以下「標識灯」という。)1個の明かりを、並びに左舷船首26度1,070メートルに同漁具の反対の片端を示す標識灯1個の明かりをそれぞれ視認してその付近に漁船がいることを推認でき、かつ、レーダー画面を十分に監視すれば、複数の僚船の映像に混じって若宮丸の映像が表示されており、自船と同方向に移動している僚船の映像と、相対的に自船に接近してくる若宮丸の映像とを見分けることができ、その後、衝突のおそれがある態勢で同船に接近することを認め得る状況であったが、複数の僚船が前方を左右に広がって先航していることから、前路に航行の支障となる他船はいないものと思い、船首輝線の輝度を落としてレーダー映像をよく監視するなり、死角を補うために船首を左右に振るなりして周囲の見張りを十分に行うことなく、このことに気付かず、少し前に主船がわずかに右転したものの、同船の船尾灯の動きからは右転したことを判別できないまま、同船尾灯や先航する僚船の灯火を見ながら、同じ針路、速力で続航した。
 04時46分A受審人は、玄界島灯台から118度1,500メートルの地点に達したとき、正船首方450メートルのところに若宮丸が漂泊していたが、依然、死角を補う見張り不十分で、同船が表示する灯火とその手前の標識灯にも、左舷船首80度500メートルのところの標識灯にも気付かず、同船を避けないまま進行中、04時47分玄界島灯台から100度1,450メートルの地点において、興亜丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、若宮丸の左舷船尾に前方から50度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の南東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期に当たり、視界は良好で、日出時刻は05時31分であった。
 また、若宮丸は、主として一本つり漁業に従事する、有効な音響による信号を行うことができる手段を講じていないFRP製漁船で、昭和51年4月に二級小型船舶操縦士(5トン限定)の免許を取得したB受審人が1人で乗り組み、キスを漁獲対象とする底刺網漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成15年8月3日04時05分福岡県玄界漁港を発し、法定灯火を表示して同漁港東方沖合約1キロメートルで水深約20メートルの漁場(以下「漁場」という。)に向かった。
 ところで、玄界島周辺において65年以上の漁業従事経験を有するB受審人は、漁場が朝晩ごち網漁船の通航する海域であることを知っており、1反が網長さ300メートル網丈1.5メートルの網地を2反連結した底刺網漁具(以下「漁具」という。)を破損されないように、漁具の両端に敷設水深より少し長めの瀬縄及び同縄先端に長さ1.8メートルのボンデンをそれぞれ接続してその存在を示していた。ボンデンには、その頂部に単一乾電池1個で作動する日光弁付き赤色発光ダイオード及び白色キセノン灯による灯質約3秒ごとに赤白同時の1閃光、光達距離約3キロメートルの標識灯をビニールテープで巻き付けたほか、同頂部から下方30センチメートルに40センチメートル角の赤色旗を結わえつけ、海面に直立するように下部に鉛錘を取り付け、標識灯が水面上高さ約1.2メートルになるように発泡スチロールの浮体取付位置を調整していた。また、同人は、5月からきす漁が解禁になるものの、長年の漁模様の経験から、夏場は日出前の暗いうちに漁具を敷設してボンデンの傍で漂泊待機し、日出後に揚網を行っていた。
 こうして、B受審人は、04時15分漁場に到着していったん漂泊し、標識灯に乾電池を入れてボンデンや瀬縄を漁具に接続するなどの投網準備を行ったのちに発進し、同時20分玄界島灯台から120度1,020メートルの地点で、針路をシタエ曽根灯浮標に向く066.5度に定め、機関を微速力前進にかけ、1.9ノットの速力で、長さを25メートルとした瀬縄に接続した漁具始端のボンデンから順に投網を開始した。
 04時30分B受審人は、玄界島灯台から100度1,450メートルの地点に達したとき、投網を終了して機関を中立運転とし、白色全周灯1灯を点灯したまま両色灯を消灯し、操舵室後部に立って舵柄を股に挟み、漁具が朝晩通航するごち網漁船や他船に切られることのないように、漁具終端のボンデンの傍で漂泊を開始した。
 04時35分B受審人は、ボンデンから離れないように適宜機関を使用して前後進を繰り返しているうちに、船首が右に回って南西方を向いたとき、左舷前方の正田鼻沖あたりに多数の灯火を認め、唐泊漁港から複数のごち網漁船が出漁したことを知り、その後、北上する同漁船が自船の船首方と船尾方とを次々に替わっていくのを見ながら、引き続きボンデンの傍で漂泊を続けた。
 04時44分B受審人は、漂泊開始地点で、船首が244度を向き、機関を中立運転として漂泊しているとき、左舷船首50度1,350メートルのところに、北上中の興亜丸が表示する白、紅、緑3灯を視認でき、その後、衝突のおそれがある態勢で接近することを認め得る状況であったが、ごち網漁船が自船の白色全周灯と標識灯の明かりとに気付いて避けてくれているものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、興亜丸に気付かず、機関を使用して移動するなど同船との衝突を避けるための措置をとらないまま、潮に流されているかどうかを確認するために前方の玄界漁港の明かりを見ながら、漂泊を続けた。
 04時47分わずか前B受審人は、ふと左舷側を見たところ、間近に覆い被さるように接近した興亜丸の船首を初めて認め、急いで機関のクラッチを入れたものの間に合わず、若宮丸は、船首が244度を向いて漂泊したまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、興亜丸は左舷船首に擦過傷を生じただけで、修理は行われなかったが、若宮丸は左舷船尾外板に破口を生じ、興亜丸の僚船によって唐泊漁港に引き付けられたが、クレーンで陸揚げする際に船内に浸入した海水の重量で船底が破損し、修理不能とされて全損になった。また、B受審人は衝突の衝撃により頸部、腰部及び背部等に1週間の入院を要する打撲傷を負った。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、福岡県玄界島東方沖合において、漁場に向けて北上する興亜丸が、見張り不十分で、底刺網の投網終了後に機関を中立運転として漂泊中の若宮丸を避けなかったことによって発生したが、若宮丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、福岡県玄界島東方沖合において、漁場に向けて複数の僚船とともに北上する場合、機関を半速力前進以上にかけて航行すると船首が浮上して船首死角が生じることを知っていたのであるから、前路で漂泊中の他船を見落とすことのないよう、レーダー映像をよく監視するなり、同死角を補うために船首を左右に振るなりして周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、複数の僚船が前方を左右に広がって先航していることから、前路に航行の支障となる他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中の若宮丸に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、興亜丸の左舷船首に擦過傷を、若宮丸の左舷船尾外板に破口をそれぞれ生じさせ、B受審人が頸部、腰部及び背部等に1週間の入院を要する打撲傷を負うに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、福岡県玄界島東方沖合において、底刺網の投網終了後に機関を中立運転として漂泊する場合、漁場が朝晩ごち網漁船の通航する海域であることを知っていたのであるから、自船に向首して接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、唐泊漁港から出漁して北上する複数のごち網漁船が自船の船首方と船尾方とを次々に替わっていくのを見て、自船の白色全周灯と標識灯の明かりとに気付いて避けてくれているものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する興亜丸に気付かず、機関を使用して移動するなど同船との衝突を避けるための措置をとらずに漂泊を続けて衝突を招き、前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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