(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年8月4日15時22分
玄界島北北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船福成丸 |
プレジャーボートアンクルトムII |
総トン数 |
4.8トン |
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登録長 |
10.70メートル |
6.93メートル |
機関の種類 |
ディーゼル |
電気点火機関 |
出力 |
169キロワット |
84キロワット |
3 事実の経過
福成丸は、主に一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、平成13年3月に交付された一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人ほか1人が乗り組み、ひらめ漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成15年8月4日04時30分福岡県西浦漁港を発し、同港沖合から栗ノ上礁にかけての漁場へ向かった。
出港後、A受審人は、まず西浦漁港に近い長埼沖で操業を始め、次いで長間礁付近及び栗ノ上礁付近と順次漁場を移動して操業を行ったのち、15時15分玄界島灯台から347度(真方位、以下同じ。)2.9海里の地点で、再び長間礁付近の漁場まで移動するため、針路を240度に定め、機関を回転数毎分1,000の半速力前進にかけ、7.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、手動操舵によって進行した。
ところで、平素、A受審人は、自船が7.0ノットの速力で航行すると船首が浮上して水平線が隠れ、船首部両舷に渡って約20度の範囲に死角が生じることから、適宜、操縦室の天窓から顔を出すなどして、船首死角を補う見張りを行っていたものであった。
そして、15時17分半A受審人は、玄界島灯台から342度2.9海里の地点に達したとき、正船首方1,000メートルのところに、アンクルトムII(以下「ア号」という。)を視認することができ、しばらくして、その行きあしがないことや、船尾甲板上の人物が竿を使用して釣りをしている様子などから、同船が漂泊していると判断できる状況となったが、移動を開始する前に周囲を見渡した際、付近に他船を見掛けなかったことから航行の支障となるような船はいないものと思い、定針後、前示船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので、同死角内で漂泊していたア号に気付かなかった。
こうして、15時21分A受審人は、正船首方のア号から約200メートルの地点まで接近し、衝突のおそれがある状況となったが、依然として、船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船を避航することなく続航中、15時22分玄界島灯台から331度2.8海里の地点において、福成丸は、原針路、原速力で、その右舷船首が、ア号の左舷船首に後方から60度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はなく、視界は良好であった。
また、ア号は、モーターホーンを装備したFRP製プレジャーボートで、平成14年10月に交付された四級小型船舶操縦士免状を有するB受審人が1人で乗り組み、釣りの目的で、船首尾とも0.5メートルの等喫水をもって、同15年8月4日09時20分博多港西福岡マリーナを発し、同港沖合から長間礁付近にかけての釣り場へ向かった。
出港後、B受審人は、まず能古島西方沖の象瀬で釣りを始め、次いで喝石埼沖及び長間礁付近の釣り場へと順次移動したのち、14時00分玄界島北北西方約2.5海里に在る小曽根付近の釣り場に至り、機関を停止して、再び釣りを始めた。
そして、B受審人は、船尾甲板中央部のいすに腰を掛け、右舷側から竿を出して、たいやかさごを釣っていたところ、潮流によりゆっくりと北東方へ流されたので、約500メートル流されたならば機関を使用して元の地点へ戻るという船位修正(以下「潮のぼり」という。)を繰り返し、15時17分半前示衝突地点付近にて3回目の潮のぼりを終え、船首を南東方へ向けていたとき、左舷船首75度1,000メートルのところに、自船に向首して接近する福成丸を視認したものの、自船が機関を停止した行きあしのない状態であったことから、やがて、航行中の福成丸が避航してくれるもの思い、その後、釣りに熱中する余り、釣り竿を操作することなどに気を奪われ、同船の動静監視を十分に行うことなく漂泊を続けた。
こうして、15時21分B受審人は、福成丸が、自船から約200メートルの地点まで接近し、衝突のおそれがある状況となったが、依然として、動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、注意喚起信号を行うことも、機関を始動して前進するなどの衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊中、同時22分少し前全く避航する気配のないまま至近に迫った同船を認めて、衝突の危険を感じ、急きょ機関を後進にかけたが、及ばず、ア号は、少しばかり後退して船首が180度まで振れたとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、福成丸に損傷はなく、ア号は左舷船首部を損壊したが、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、玄界島北北西方沖合において、漁場を移動中の福成丸が、見張り不十分で、漂泊中のア号を避けなかったことによって発生したが、ア号が、動静監視不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、玄界島北北西方沖合において、漁場を移動する場合、船首浮上によって前方に死角が生じていたのであるから、死角内の他船を見落とすことがないよう、適宜、操縦室の天窓から顔を出すなどして、船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、移動を開始する前に周囲を見渡した際、付近に他船を見掛けなかったことから航行の支障となるような船はいないものと思い、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同死角内で漂泊していたア号に気付かず、同船を避航することなく進行して衝突を招き、自船に損傷はなかったものの、ア号の船首部を損壊させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、玄界島北北西方沖合において、釣りを行うために漂泊中、自船に向首して接近する福成丸を認めた場合、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船が機関を停止した行きあしのない状態であったことから、航行中の福成丸が避航してくれるものと思い、その後、釣りに熱中する余り、釣り竿を操作することなどに気を奪われ、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、福成丸が、衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず、注意喚起信号を行うことも、機関を始動して前進するなどの衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けて衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。