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平成15年門審第126号
件名

貨物船第七にちあす丸貨物船第五大黒丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年3月17日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和、長谷川峯清、橋本 學)

理事官
島 友二郎

受審人
A 職名:第七にちあす丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
B 職名:第五大黒丸船長 海技免許:三級海技士(航海)

損害
第七にちあす丸・・・左舷船首部に凹損
第五大黒丸・・・船首部に凹損

原因
第五大黒丸・・・港則法の航法不遵守、船員の常務(前路進出)不遵守

主文

 本件衝突は、両船が防波堤の入口付近で出会う際、入航する第五大黒丸が、防波堤の外で出航する第七にちあす丸の進路を避けなかったばかりか、同船の前路に進出したことによって発生したものである。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年5月23日18時52分
 博多港中央航路
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第七にちあす丸 貨物船第五大黒丸
総トン数 749トン 496トン
全長 69.09メートル
登録長 63.09メートル 72.21メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット 735キロワット

3 事実の経過
 第七にちあす丸(以下「にちあす丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製アスファルトタンク船で、A受審人ほか5人が乗り組み、空倉のまま、船首1.50メートル船尾4.00メートルの喫水をもって、平成15年5月23日18時40分博多港第1区(以下「第1区」という。)荒津石油センター岸壁を発し、坂出港に向かった。
 A受審人は、自ら手動操舵に当たり、機関長を機関の操作に当たらせ、法定の灯火を表示し、機関回転数毎分120の極微速力前進として博多港中央航路東口に向かい、18時43分博多港西防波堤北灯台(以下「西防波堤北灯台」という。)から189度(真方位、以下同じ。)1,360メートルの地点において、針路を030度に定め、機関回転数毎分140の微速力前進とし、6.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
 ところで、博多港には、中央航路及びこれと接続する東航路があり、中央航路(以下「航路」という。)は、長さ5,010メートル及び航路法線117度で、航路東口が博多港西防波堤(以下、防波堤の名称については「博多港」を省略する。)北端と東防波堤西端との間の460メートルある開口部(以下「防波堤の入口」という。)に設定されており、東口と博多港中央航路第5号灯標(以下、博多港中央航路各号灯標の名称については「博多港中央航路」を省略する。)との間の航路の幅員は250メートルであるが、航路北側部分の水深が浅いため、第5号及び第7号両灯標が航路北側境界線から少し南側の掘り下げられた位置にそれぞれ設置され、西防波堤北灯台を通る航路南側境界線と第7号灯標との間は230メートルとなっていた。
 A受審人は、平成8年からにちあす丸の船長又は一等航海士として乗り組み、主として東京湾から東北及び北海道へのアスファルトの運搬に従事しており、船長として博多港への入港は初めてであったが、それまで2回入港したことがあったので、同港の水路事情などについては良く知っていた。
 18時44分少し過ぎA受審人は、西防波堤北灯台から184度1,140メートルの地点で、左舷船首66度2,550メートルのところに、航路を東行している第五大黒丸(以下「大黒丸」という。)を初めて視認し、同時47分同灯台から167度740メートルの地点に差し掛かったとき、同船が左舷船首67度1,560メートルとなり、防波堤の入口又はその付近(以下「防波堤の入口付近」という。)で出会うおそれがあることを認めたが、そのうち入航船である大黒丸が減速するなどして、防波堤の外で出航中の自船の進路を避けるものと思い、その動静を監視しながら続航した。
 18時49分半A受審人は、西防波堤北灯台から128度500メートルの地点に達したとき、左舷船首73度700メートルのところに接近した大黒丸が航路の中央寄りを東行しているのを認め、防波堤の外で左舷を対して通過することができるよう、航路の右側端から航路に入ることにして、一旦(いったん)、航路の入口から離すため、右舵20度をとって右回頭を始めた。
 こうして、A受審人は、大黒丸の動静を注視しながら右回頭し、18時50分西防波堤北灯台から113度540メートルの地点に至って、船首が北東方を向いたとき、今度は航路の右側端に向けるため、左舵一杯をとって左回頭を始めたところ、左舷正横付近570メートルに接近していた大黒丸が、自船の進路を避けないまま防波堤の入口に進入して左転し、左回頭を始めた自船の前路に進出したのを認めて衝突の危険を感じたものの、右舷前方近距離に東防波堤が存在していたので、右舵をとることができず、左舵一杯をとったまま機関を後進一杯とした後、右舷錨を投じたが、及ばず、18時52分西防波堤北灯台から083度460メートルの地点において、にちあす丸は、航路の右側端に入った直後に、船首が037度を向いて行きあしが止まったとき、その左舷船首に、大黒丸の船首が後方から80度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風はほとんどなく、視界は良好で、潮候は下げ潮の中央期に当たり、日没時刻は19時18分であった。
 また、大黒丸は、専ら鋼材の輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、B受審人ほか4人が乗り組み、鋼材719トンを積載し、船首2.18メートル船尾3.20メートルの喫水をもって、平成15年5月23日14時45分関門港を発し、博多港に向かった。
 ところで、B受審人は、大黒丸では博多港に入港することがあまりなかったが、以前、アスファルトタンク船に乗船していた際、荒津石油センター岸壁に何度も着岸したことがあったので、同港の水路事情などについては良く知っていた。
 B受審人は、福岡湾口に差し掛かったところで、船橋当直中の一等航海士と交替して操船に当たり、自動操舵のまま湾内を東行し、航路西口付近に差し掛かったところで、乗組員を入港配置に就け、自ら手動操舵に当たり、機関長を機関の操作に当たらせ、18時30分博多港端島灯台から232度550メートルの地点において、針路を116度に定め、機関回転数毎分240の全速力前進とし、10.5ノットの速力で、進路信号を掲げずに第1区箱崎ふ頭に向けて進行した。
 18時31分B受審人は、航路西口に入り、航路の中央から少し右側をこれに沿って続航していたところ、同時42分半第6号灯標を右舷正横90メートルに見て通過したとき、航路内に行会い船を認めなかったものの、右舷後方の航路外を同航中の小型コンテナ船を認め、いずれ同船が航路に入ってくることから、少し左転して航路の中央に寄り、同時44分同灯台から300.5度1,920メートルの地点に達したとき、元の針路の116度に復し、航路の中央をこれに沿って進行した。
 B受審人は、その後も右舷後方の同航船に注意を払いながら続航し、18時46分少し過ぎ、西防波堤北灯台から303度1,160メートルの地点で、同航船との前後距離が十分に開いて接近するおそれがなくなったので、前方を確認したところ、右舷船首28度1,800メートルに、第1区須崎ふ頭沖を北上中のにちあす丸を初めて視認し、同船がアスファルトタンク船であったことから、荒津石油センターから航路に向かう出航船であることを知り、同船の動静監視を行いながら進行した。
 18時47分B受審人は、西防波堤北灯台から305度940メートルの地点に差し掛かったとき、にちあす丸が右舷船首27度1,560メートルのところとなり、同船と防波堤の入口付近で出会うおそれがあることを認めたが、同船が西防波堤北端寄りを小回りして航路に入るので、防波堤の入口付近で右舷を対して通過できるものと思い、大幅に減速するなどして、防波堤の外で出航する同船の進路を避けることなく続航した。
 18時48分B受審人は、西防波堤北灯台から309度640メートルの地点に差し掛かったとき、にちあす丸が右舷船首25度1,200メートルのところとなり、同船と防波堤の入口付近で出会うことが確実な状況となったのを認めたが、同船が西防波堤北端に寄って航路に入るものと思い込み、着岸に備えて機関回転数毎分220の半速力前進とし、10.0ノットの速力に減じただけで、防波堤の外で出航する同船の進路を避けないまま進行した。
 B受審人は、にちあす丸の動静に注意を払いながら航路の中央を続航し、18時49分少し前、西防波堤北灯台から316度400メートルの、防波堤の入口付近に達したとき、にちあす丸が右舷船首28度930メートルのところとなり、西防波堤北端に寄る気配がないまま引き続き北上しているのを認めたが、依然として行きあしを止めることなく、自船が航路の左側に寄れば、右舷を対して何とか通過できるものと思い、左転して針路を109度に転じ、航路の左側を進行した。
 こうして、B受審人は、防波堤の外で出航するにちあす丸の進路を避けずに防波堤の入口に進入し、18時50分第7号灯標を左舷正横50メートルに見て通過したとき、右舷船首27度570メートルのところに船首を北東方に向けたにちあす丸を認め、航路の右側から航路に入ることが予測できたが、なおも航路の左側端に寄ってにちあす丸と右舷を対して通過しようとし、更に左転して針路を098度に転じたところ、航路の右側端から航路に入ろうとして左回頭を始めた同船の前路に進出する態勢となったのを認めて衝突の危険を感じ、後進一杯とした後、右舵一杯をとったが、及ばず、大黒丸は、右回頭が始まって間もなく、船首が117度を向き、速力が約1ノットとなったとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、大黒丸は、船首部に凹損を、にちあす丸は、左舷船首部に凹損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。 

(原因)
 本件衝突は、博多港中央航路において、両船が防波堤の入口付近で出会う際、入航する第五大黒丸が、防波堤の外で出航する第七にちあす丸の進路を避けなかったばかりか、防波堤の入口に進入して針路を左に転じ、同航路の右側端から航路に入った第七にちあす丸の前路に進出したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 B受審人は、博多港中央航路において、同港第1区箱崎ふ頭に向けて入航中、出航する第七にちあす丸と防波堤の入口付近で出会うおそれがあることを認めた場合、同船と防波堤の入口付近で出会わないよう、大幅に減速するなどして、防波堤の外で出航する第七にちあす丸の進路を避けるべき注意義務があった。しかるに、同人は、第七にちあす丸が西防波堤北端寄りを小回りして航路に入るので、右舷を対して通過することができるものと思い、防波堤の外で出航する同船の進路を避けなかった職務上の過失により、防波堤の入口に進入して針路を左に転じ、中央航路の右側端から航路に入った第七にちあす丸の前路に進出して衝突を招き、第五大黒丸の船首部に凹損を、第七にちあす丸の左舷船首部に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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