(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年7月16日19時08分
山口県羽島南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船和福丸 |
漁船幾榮丸 |
総トン数 |
4.7トン |
1.49トン |
全長 |
14.80メートル |
9.42メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
301キロワット |
35キロワット |
3 事実の経過
和福丸は、主に一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、平成14年12月に交付された一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人が1人で乗り組み、知人4人を乗せ、いか漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同15年7月16日18時55分山口県萩港を発し、同県相島南岸近くの漁場へ向かった。
18時58分半A受審人は、虎ケ埼灯台から192度(真方位、以下同じ。)2.0海里の地点で、針路を310度に定め、燃料節約のため機関を回転数毎分1,500の経済速力にかけ、15.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、操縦室右舷側のいすに背中をもたれ掛けた姿勢を保ち、手動操舵によって進行した。
ところで、A受審人は、自船が15.0ノットの速力で航走する際、前示姿勢で操舵操船に当たると、船首浮上により水平線が隠れて船首部両舷に渡って約20度の範囲に死角が生じることから、平素は、適宜、レーダーを監視するなり、船首を左右に振って蛇行するなりして、船首死角を補う見張りを行っていたものであった。
19時05分少し前A受審人は、虎ケ埼灯台から241度1.9海里の地点に達したとき、観音喰合瀬西灯浮標が右舷に並んだ辺りから漁船などを全く見掛けなくなったので、最早、付近に航行の支障となるような他船はいないものと思い、その後、同じ姿勢のまま、船首死角を補う見張りを十分に行うことなく続航した。
そして、19時06分A受審人は、虎ケ埼灯台から249度2.0海里の地点に至ったとき、正船首方0.5海里のところに、幾榮丸を視認でき、しばらくして、その行きあしがないことや船首から錨索が延びている様子などから、錨泊していると判断できる状況となったが、前示船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので、死角内の同船に気付かなかった。
こうして、19時07分半A受審人は、正船首方で錨泊中の幾榮丸から約250メートルのところまで接近して、衝突のおそれがある状況となったが、依然として、船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船を避けることなく進行中、19時08分虎ケ埼灯台から260度2.3海里の地点において、和福丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、幾榮丸の右舷中央部に直角に衝突した。
当時、天候は晴で、風力3の北北東風が吹き、視界は良好であった。
また、幾榮丸は、音響信号装置を装備していないFRP製漁船で、平成13年6月に交付された二級小型船舶操縦士免状を有するB受審人が1人で乗り組み、いか漁の目的で、船首0.45メートル船尾1.45メートルの喫水をもって、同15年7月16日18時10分山口県橋本川河口の係留地を発し、羽島南西方1.5海里付近の漁場へ向かった。
B受審人は、18時40分漁場に到着し、同時45分水深約40メートルの前示衝突地点において、船首から錨を投下して錨索を約60メートル延出したのち、機関を中立運転として錨泊を行い、いか漁の準備に取り掛かった。
そして、19時06分B受審人は、船首が北東方を向いていたとき、右舷正横0.5海里のところに、和福丸を視認することができ、その後、同船が自船に向首して接近する状況となったが、航行中の他船が、錨泊中の自船を避けてくれるものと思い、いか漁の準備をすることに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、同船が接近することに気付かなかった。
こうして、19時07分半B受審人は、和福丸が、自船に向首したまま約250メートルのところまで接近して、衝突のおそれがある状況となったが、依然として、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、中立運転としていた機関のクラッチを入れて前方へ移動するなどの衝突を避けるための措置をとることなく錨泊中、19時08分少し前至近に接近した同船を認めて衝突の危険を感じ、手を振って避航を促したものの、効なく、幾榮丸は、船首を040度に向けた態勢で、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、和福丸は、右舷船首外板に破口及び船首船底に擦過傷を生じ、幾榮丸は、右舷中央部外板を大破して転覆するとともに、機関に濡損を生じた。
(原因)
本件衝突は、山口県羽島南西方沖合において、漁場へ向けて航行中の和福丸が、見張り不十分で、錨泊中の幾榮丸を避けなかったことによって発生したが、幾榮丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、山口県羽島南西方沖合において、萩港から漁場へ向けて航行する場合、船首浮上により水平線が隠れて船首部に死角が生じていたのであるから、死角内の他船を見落とすことがないよう、適宜、レーダーを監視するなり、船首を左右に振って蛇行するなりして、船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、観音喰合瀬西灯浮標が右舷に並んだ辺りから漁船などを全く見掛けなくなったので、付近に航行の支障となるような他船はいないものと思い、操縦室右舷側のいすに背中をもたれ掛けた姿勢のまま、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同死角内で錨泊中の幾榮丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、自船の右舷船首外板に破口及び船首船底に擦過傷を生じさせ、幾榮丸の右舷中央部外板を大破して転覆させるとともに、同船の機関に濡損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、山口県羽島南西方沖合において、いか漁を行うために錨泊する場合、接近する他船を見落とすことがないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、航行中の他船が、錨泊中の自船を避けてくれるものと思い、いか漁の準備をすることに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する和福丸に気付かず、中立運転としていた機関のクラッチを入れて前方へ移動するなどの衝突を避けるための措置をとることなく錨泊を続けて衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。