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平成15年門審第120号
件名

貨物船勇聖丸押船第三明神丸被押バージ1タキ衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年3月10日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長浜義昭、長谷川峯清、西村敏和)

理事官
島 友二郎

受審人
A 職名:勇聖丸二等航海士 海技免許:三級海技士(航海)
B 職名:第三明神丸船長 海技免許:五級海技士(航海)

損害
勇聖丸・・・球状船首及び左舷側後部ブルワーク等に凹損
第三明神丸押船列・・・1タキの右舷側前部外板及び右舷後部サイドポストに凹損

原因
勇聖丸・・・狭視界時の航法(信号、速力、見張り)不遵守
第三明神丸被押バージ1タキ・・・狭視界時の航法(信号、速力、見張り)不遵守

主文

 本件衝突は、勇聖丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、第三明神丸被押バージ1タキが、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年4月25日00時25分
 豊後水道
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船勇聖丸  
総トン数 699トン  
全長 69.51メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 1,176キロワット  
船種船名 押船第三明神丸 バージ1タキ
総トン数 99トン  
全長 27.51メートル 71.49メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 735キロワット  

3 事実の経過
 勇聖丸は、船尾船橋型のセメント運搬船で、A受審人、船長Cほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首1.80メートル船尾3.60メートルの喫水をもって、平成15年4月24日10時00分鹿児島港を発し、福岡県苅田港に向かった。
 翌25日00時00分A受審人は、沖黒島灯台から194度(真方位、以下同じ。)7.3海里の地点で、大分県下に濃霧注意報が発表されている状況下、霧で視界制限状態となったら報告するようC船長から指示されて船橋当直につき、針路を032度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの弱い北東流に乗じて12.2ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、法定の灯火を表示し、狭視界となることが予想されていたことから機関当直中の機関長を昇橋させて見張りにつけ、自動操舵によって進行した。
 A受審人は、船橋当直を交替したとき、12海里レンジとしたレーダーで左舷船首1度8.3海里のところに、結合した第三明神丸被押バージ1タキ(以下、「明神丸押船列」という。)のレーダー映像を初めて探知した。
 00時10分A受審人は、沖黒島灯台から188度5.4海里の地点で、霧のため視程が約300メートルに狭められたが、霧中信号を行わず、安全な速力とせず、また、狭視界となったことをC船長に報告しないまま、原速力で続航した。
 A受審人は、レンジを適宜切り換えてレーダー監視を続けたところ、明神丸押船列が豊後水道を芹埼に沿って南下していることを知り、00時18分半わずか過ぎ沖黒島灯台から177度3.9海里の地点に達したとき、同押船列が右舷船首4度2.0海里に接近し、その後同押船列と著しく接近することを避けることができない状況になったことを認めたが、南下船なので近づいてのちに右転し、左舷を対して航過すればよいものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、必要に応じて行きあしを停止することもなく進行した。
 A受審人は、00時23分少し前沖黒島灯台から169度3.2海里の地点で、3海里レンジとしたレーダーで明神丸押船列の映像を右舷船首20度1,150メートルに認め、左舷を対して航過するつもりで針路を040度としたものの、同時23分半わずか過ぎ同押船列が右舷船首22度700メートルに近づいたので針路を060度に転じ、その後機関長から同押船列の灯火が見えたとの報告を受けて自らは視認できなかったことから不安になり、自動操舵のまま小刻みに右転を繰り返しながら続航した。
 A受審人は、00時25分少し前116度に向首して左舷船首20度100メートルに明神丸押船列の緑灯を視認し、急ぎ手動操舵に切り替えて右舵一杯、汽笛により短音1回を吹鳴したが及ばず、00時25分沖黒島灯台から162度3.2海里の地点において、勇聖丸は、146度に向首したとき、原速力のまま、その船首が、1タキの右舷前部に後方から55度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で風はほとんどなく、視程は約300メートルで、潮候は上げ潮の中央期にあたり、衝突地点付近には北東方へ流れる約0.5ノットの潮流があった。
 C船長は、霧のため視界制限状態となった旨の報告を受けなかったことから、自ら操船指揮をとらずに自室で休息していたところ、衝突の衝撃を感じて直ちに昇橋し、事後の措置にあたった。
 また、第三明神丸は、1タキを押航して内地各港間の木材輸送に従事する鋼製押船で、B受審人ほか3人が乗り組み、その船首部を、木材約1,000立方メートルを積載して船首尾2.65メートルの等喫水となった1タキの船尾に嵌合し、左右両舷及び正船首に備えた3基の油圧式プッシャーバージ連結装置で両船を結合し、全長91メートルの明神丸押船列とし、船首3.00メートル船尾4.00メートルの喫水をもって、同月24日19時00分大分県大分港を発し、宮崎県細島港に向かった。
 翌25日00時00分B受審人は、沖黒島灯台から091度2.4海里の地点で、昇橋して単独の船橋当直についたところ、霧のため視程が約300メートルに狭められていたが、霧中信号を行わず、安全な速力とせず、針路を206度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの弱い北東流に抗して8.0ノットの速力で、法定の灯火を表示し、自動操舵によって進行した。
 B受審人は、00時18分半わずか過ぎ沖黒島灯台から150度2.7海里の地点に達したとき、3海里レンジとしてオフセンターにより中心を後方に1.5海里移動したレーダーで、右舷船首10度2.0海里のところに勇聖丸の映像を初めて探知してレーダー監視を続けたところ、その後豊後水道を芹埼に沿って北上する同船と著しく接近することを避けることができない状況になったことを認めたが、勇聖丸の約1海里前方を先航する北上船と右舷を対して航過できそうであったことから、勇聖丸とも右舷を対して航過できるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、必要に応じて行きあしを停止することもなく続航した。
 00時23分半B受審人は、沖黒島灯台から160度3.1海里の地点で、勇聖丸のレーダー映像を右舷船首35度770メートルに認めたとき、航過距離が同船に先航する北上船と航過したときより近いようなので、同距離を広げるつもりで自動操舵のまま針路を201度に転じ、機関を半速力前進に減じて7.0ノットの速力で進行した。
 00時24分半わずか前B受審人は、勇聖丸の紅、緑2灯を右舷船首65度300メートルに視認し、同船が大きく右転していることに気付いて衝突の危険を感じ、サーチライトを1回点滅し、手動操舵に切り替えて機関中立としたものの、明神丸押船列は、原針路のまま、3.5ノットの前進行きあしで、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、勇聖丸は球状船首及び左舷側後部ブルワーク等に凹損を生じ、明神丸押船列は、1タキの右舷側前部外板及び右舷後部サイドポストに凹損を生じたが、のちいずれも修理された。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、霧のため視界制限状態となった豊後水道において、北上する勇聖丸が、霧中信号を行わず、安全な速力とせず、レーダーで前路に認めた明神丸押船列と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを停止しなかったことと、南下する明神丸押船列が、霧中信号を行わず、安全な速力とせず、レーダーで前路に認めた勇聖丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを停止しなかったこととによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、霧で視界制限状態となった豊後水道を北上中、レーダーで前路に明神丸押船列の映像を探知し、芹埼に沿って南下する同押船列と著しく接近することを避けることができない状況となったことを認めた場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、また、必要に応じて行きあしを停止するべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、南下船なので近づいてのちに右転し、左舷を対して航過すればよいものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、必要に応じて行きあしを停止することもしなかった職務上の過失により、同押船列との衝突を招き、勇聖丸の球状船首及び左舷側後部ブルワーク等に凹損を、1タキの右舷側前部外板及び右舷後部サイドポストに凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、霧で視界制限状態となった豊後水道を南下中、レーダーで前路に勇聖丸の映像を探知し、芹埼に沿って北上する同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことを認めた場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、また、必要に応じて行きあしを停止するべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、勇聖丸に先航する北上船と右舷を対して航過できそうであったことから、勇聖丸とも右舷を対して航過できるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、必要に応じて行きあしを停止することもしなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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