(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年5月10日17時30分
鹿児島港北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十五寿代丸 |
プレジャーボート(船名なし) |
総トン数 |
17トン |
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全長 |
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2.8メートル |
登録長 |
14.88メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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漁船法馬力数 |
120 |
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3 事実の経過
第十五寿代丸(以下「寿代丸」という。)は、専ら養殖漁業に従事するFRP製漁船で、平成13年3月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人ほか1人が乗り組み、生け簀の養殖魚に給餌する目的で、餌4.5トンを載せ、船首0.6メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、同15年5月10日09時00分鹿児島港本港区の浜町船溜まりを発し、同港区北方約3海里の養殖場へ向かった。
A受審人は、09時20分生け簀に着いて給餌作業を行い、17時25分同作業を終えて帰途に就き、操舵室左舷側のいすに座って低速で生け簀の間を通り抜けたのち増速を開始し、同時28分半少し前桜島港西防波堤灯台(以下「桜島灯台」という。)から008度(真方位、以下同じ。)2.9海里の地点で、針路を176度に定め、機関を回転数毎分1,800にかけ、15.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)として、手動操舵により進行した。
ところで、寿代丸は、航行中、船首が浮上して眼高より高くなり、水平線が隠れて、船首部の両舷にわたり約10度の船首死角を生じていた。
A受審人は、平素から付近海域でプレジャーボート等が釣りを行っていることを知っており、定針したとき、正船首780メートルのところに、プレジャーボート(船名なし)(以下「山之内号」という。)を視認できる状況であったが、右舷船首方の三船埼沖合で鹿児島港に向けて右転する予定であったことから、転針地点を確認するため右舷側の離岸距離を目測することや、同埼を注視することなどに気をとられ、船首を左右に振るなど、船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので、同船の存在に気付かなかった。
こうして、A受審人は、山之内号が、錨泊中であることを示す形象物を表示していなかったものの、船首を南方に向けたまま移動しないことや、船上の人影が釣りをしている様子などから停留していることが判別でき、その後、同船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、依然として、船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、右転するなどして同船を避けずに進行中、17時30分桜島灯台から010度2.5海里の地点において、寿代丸は、原針路、原速力のまま、その船首が山之内号の右舷船尾に後方から45度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期で、視界は良好であった。
A受審人は、衝突に気付かないまま帰港して自宅に帰ったところ、鹿児島海上保安部からの知らせにより、衝突の事実を知った。
また、山之内号は、手漕ぎの和船型FRP製プレジャーボートで、乗組員Bほか家族2人が乗り組み、釣りの目的で、船首尾とも0.2メートルの等喫水をもって、同日17時10分鹿児島県鹿児島市吉野町三船の船着場を発し、三船埼と桜島との間を、北東方から南西方へ通じる可航幅約1.3海里の水路西側海岸近傍にあたる、同埼東方沖合約200メートルの釣り場に向かった。
B乗組員は、17時20分水深約60メートルの衝突地点付近に至り、重さ20キログラムの錨を投入して船尾から錨索を80メートル繰り出し、一端を船尾横方向に取り付けた板材に係止して、一般の船舶が常用とする航路から十分に離れた地点に錨泊を行い、同時25分ころ左舷船尾方を向いて、周囲の見張りを行いながら釣りを始めた。
17時28分半少し前B乗組員は、船首がほぼ南方を向いていたとき、正船尾780メートルのところに寿代丸を認め得る状況で、釣りを行っていて同船を認めなかったものの、同時28分半少し過ぎ正船尾600メートルのところに寿代丸を初認したので、その動静を十分に監視していたところ、同船の船首が浮上し操舵室が見えない状態で、衝突のおそれのある態勢で接近することを認めた。
B乗組員は、自船が寿代丸の船首死角に入っているものと判断し、一旦(いったん)錨索を解いて移動しようとしたものの、錨索を放してからオールで移動する時間的余裕がなかったことから、右舷後部に立ち大声を発しながらオールを振って合図をしたが、依然、寿代丸が避航する様子のないまま接近するので、17時30分わずか前同乗者に海中に飛び込むように指示するとともに、衝撃を軽減しようとしてオールを使用して漕いだが、効なく、山之内号は、その場で船首が131度を向いたとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、寿代丸は、船首に山之内号の塗料が付着しただけで損傷を生じなかったが、山之内号は、右舷船尾の板材が折損し、右舷前部が再度接触して外板に亀裂を生じた。
(原因に対する考察)
本件は、鹿児島港北方沖合において、生け簀で養殖魚への給餌作業を終えて鹿児島港に帰航のため南下中の漁船が、前路で錨泊して釣りをしていた手漕ぎプレジャーボートに衝突したもので、以下その原因について考察する。
1 A受審人は、事実の経過で認定したとおり、船首死角が生じている状況であったが、転針地点を確認するため右舷側の離岸距離を目測することや、転針予定の三船埼を注視することに気をとられ、船首を左右に振るなどして、船首死角を補う見張りを行わなかったことは原因となる。
2 B乗組員は、ホイッスルを備え付けてなく、立ち上がって大声を発し、オールを振って注意を喚起しただけで、有効な音響による信号を行わなかったことは遺憾であるが、A受審人に対する質問調書中、「本船のエンジン音と振動ではホイッスル音は聞こえない。」旨の供述記載及びホイッスルより大音量の音響信号装置等の設置を手漕ぎプレジャーボートに求めることは適当でないので、有効な音響による信号を行わなかったことは原因としない。
3 B乗組員は、錨泊中を示す球形形象物を表示していなかったが、山之内号の錨地が通常の航路から十分離れていたこと、適切な見張りを行っていれば、同船が錨泊中であることは即断できなくとも、船首を南に向けたままで移動しないので停留していることが容易に判別できること、付近に視認を紛らわす他船が存在しなかったこと及び山之内号に同形象物を掲げるマスト等がなく、長さ2.8メートルの手漕ぎプレジャーボートに、その設置を求めることが適当でないことから、錨泊中を示す球形形象物を表示していなかったことは原因としない。
4 B乗組員は、衝突の1分少し前に寿代丸を初認しており、その時、直ちに錨索を放し移動するなどして衝突を避けるための措置をとらなかったが、寿代丸の定針時刻が衝突の1分半わずか前であって、仮に同乗組員が寿代丸の定針時に同船を初認していたとしても、同船に対する動静監視を行い、同船が自船を認めていない様子のまま衝突の危険がある態勢で接近する状況であることを判断するために要する時間を考慮すると、時間的に余裕のないことから、寿代丸を初認したとき直ちに錨索を放し移動するなどの衝突を避けるための措置をとらなかったことは原因としない。