(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年5月17日02時35分
瀬戸内海西部 祝島沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船竜良丸 |
貨物船第十一共同丸 |
総トン数 |
699トン |
198トン |
全長 |
70.00メートル |
54.12メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
478キロワット |
3 事実の経過
竜良丸は、船尾船橋型のスラグ微粉運搬船で、A及びB両受審人ほか3人が乗り組み、特殊高炉セメント1,086トンを積載し、船首3.18メートル船尾4.41メートルの喫水をもって、平成14年5月16日10時30分兵庫県東播磨港を出港し、福岡県苅田港に向かった。
A受審人は、船橋当直をB受審人と4時間ずつ単独で担い、夜間は法定灯火を表示して瀬戸内海を西行し、19時00分当直に就き、22時35分クダコ水道北口に差し掛かるころ、早めに昇橋したB受審人と交替するにあたり、同人の当直中に通航する伊予灘から周防灘に続く祝島沖合が季節的に霧の発生しやすいところであったが、自分が若いころ既に船長を務めていた同人から指導を受けていたので全てを任せることに問題はないものと思い、視界制限状態になったときには速やかに報告するよう十分に指示することなく、船位と機関を全速力前進にかけていることを引き継いで降橋した。
B受審人は、船橋当直に就き、クダコ及び平郡両水道を経て伊予灘北西部に至り、翌17日02時06分ホウジロ灯台から046度(真方位、以下同じ。)2.3海里の地点で、針路を自動操舵により263度に定め、10.6ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行し、同時23分祝島南岸沖合に差し掛かり、針路を同南岸に接航する275度に転じ、針路目標となる15海里前方の周防灘航路第5号灯浮標を捉えようとレーダー画面を見たところ、右舷船首8度4.0海里に第十一共同丸(以下「共同丸」という。)の映像を初めて探知し、同映像の接近模様により、同船が祝島南岸に接航する反航船であることを認めた。
02時26分少し過ぎB受審人は、左舷方を航行している船舶の灯火は明瞭に見える一方、ほぼ正船首4.0海里の同航船の船尾灯が見え隠れし、共同丸の映像が右舷船首9度2.9海里となったものの、同船の灯火を視認することができないことから、前方に霧堤が存在することを知り、視界制限状態となったが、船長よりも海上経験が長いので自分だけで無難に航行できるものと思い、同状態となったことをA受審人に報告しなかったばかりか、霧中信号を行うことも、安全な速力とすることもなく、もう少し近づけば共同丸の灯火も視認できるものと期待し、目視とレーダーとによる見張りにあたって続航した。
02時29分少し前B受審人は、ホウジロ灯台から300度2.6海里の地点に達したとき、共同丸の映像が右舷船首10度2.0海里となり、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、同映像がレーダーの船首輝線よりも右側にあるので近距離ながらも互いに右舷を対して航過できるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて行きあしを止めることもなく、折から霧堤に入って視程が500メートルに狭められ、機関回転数を若干下げて9.6ノットに減速し、なおも視程が減少するなか、間もなくレーダーを離れ、共同丸と航過するときには灯火を視認できるのではないかと右舷前方を注視して進行した。
02時34分半B受審人は、右舷前方230メートルに共同丸の白、緑2灯と居住区の舷窓から漏れる明かりを視認し、数秒もしないうち視程が100メートルとなって同船が再び霧に隠れたものの、右舷側を航過する態勢であったことに安心し、GPS画面の表示で船位を確認して視線を前方に戻した直後、同時35分わずか前船首至近に同船の紅灯が現れ、手動操舵に切り換えて右舵一杯を取ると共に機関を停止するも効なく、02時35分ホウジロ灯台から293度3.6海里の地点において、竜良丸は、原針路、原速力のまま、その船首が共同丸の左舷前部に前方から50度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、視程は100メートルであった。
A受審人は、自室で休息中に衝撃を感じ、昇橋して衝突したことを知り、事後の措置にあたった。
また、共同丸は、船尾船橋型の貨物船で、C受審人ほか1人が乗り組み、ステンレス屑364トンを積載し、船首2.4メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、同月16日20時10分関門港を出港し、法定灯火を表示して、愛知県衣浦港に向かった。
C受審人は、出港操船に続いて船橋当直に就いたのち、翌17日00時00分周防灘を東行中、機関長に同当直を交替し、懇意にしている船長から出港前に祝島付近の霧情報を得ていたので視界の悪化に備えて操舵室内の寝台で仮眠をとっていたところ、01時30分同島の西方11海里沖合にあたる、姫島灯台から022度4.3海里の地点に達したとき、機関長から視界が悪化した旨の報告を受け、霧により視程が100メートルに狭められて視界制限状態となっていることを知り、針路が祝島南岸に接航する100度で自動操舵を使用していることと速力が全速力前進の10.5ノットであることを引き継ぎ、機関長を在橋させて自ら操船にあたったものの、霧中信号を行うことも、安全な速力とすることもなく、レーダーによる見張りを行って進行した。
02時17分C受審人は、ホウジロ灯台から291度6.6海里の地点で、祝島の西方3海里沖合に至ったころ、ほぼ正船首6.0海里に竜良丸の映像を初めて探知し、同映像の接近模様により、同船が同島南岸に接航する反航船でこれと著しく接近することとなる状況であることを認めたが、周防灘から伊予灘に続く南方の広い海域に向けて速やかに大角度の右転をするなど著しく接近することとなる事態を避けるための動作をとらず、竜良丸の映像がレーダーの船首輝線の左側になるよう、5度右転して針路を105度とし、同時27分同映像が2.6海里に近づいて再び同輝線に寄ってきたことから、小刻みな右転を繰り返し、針路を110度に転じて続航した。
02時29分少し前C受審人は、ホウジロ灯台から293.5度4.6海里の地点に達したとき、竜良丸の映像が左舷船首4度2.0海里となり、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、そのうち竜良丸も自船同様に右転して互いに左舷を対して航過できるようになるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて行きあしを止めることもなく、同時30分少し過ぎ同映像が左舷船首3度1.5海里となったところで、針路を115度に転じ、全速力のまま進行した。
02時34分C受審人は、竜良丸の映像がなおもレーダーの船首輝線に寄って左舷船首少し左500メートルに近づいたとき、手動操舵に切り換えると共に機関を停止し、機関長共々左舷方を注視して同船の灯火を探すうち、同船が左舷方から右舷方に替わったことに気付かないまま、同時34分半霧が一瞬薄らいで再び視程100メートルとなり、今までと同様に右転するつもりで右舵10度を取って右回頭中、同時35分わずか前船首至近に竜良丸の船首部と白灯が現れ、右舵一杯に続いて機関を半速力後進とするも効なく、共同丸は、145度に向首し、ほぼ5.0ノットの行きあしをもって、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、竜良丸は船首及び球状船首両外板に、共同丸は左舷前部の舷側及び船底両外板にそれぞれ破口を伴う凹損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、霧による視界制限状態の祝島沖合において、東行する共同丸が、霧中信号を行うことも、安全な速力とすることもせず、レーダーで前路に探知した竜良丸と著しく接近することとなる状況となった際、十分に余裕のある時期に大角度の右転をするなど著しく接近することとなる事態を避けるための動作をとらず、その前路に向けて小刻みな右転を繰り返し、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかったことによって発生したが、西行する竜良丸が、霧中信号を行うことも、安全な速力とすることもせず、レーダーで前路に探知した共同丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかったことも一因をなすものである。
竜良丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対して視界制限状態となったときの報告について十分に指示しなかったことと、船橋当直者が、同報告を行わなかったこと及び視界制限状態における措置を適切にとらなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
C受審人は、夜間、霧による視界制限状態の祝島沖合を東行中、レーダーで前路に探知した竜良丸と著しく接近することを避けることができない状況となった場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、また、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかし、同人は、そのうち竜良丸も自船同様に右転して互いに左舷を対して航過できるようになるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかった職務上の過失により、竜良丸との衝突を招き、竜良丸の船首及び球状船首両外板並びに共同丸の左舷前部の舷側及び船底両外板にそれぞれ破口を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
A受審人は、夜間、祝島沖合に向けて西行中、船橋当直を次直者と交替する場合、同島沖合が季節的に霧の発生しやすいところであったから、視界制限状態となったときには速やかに報告するよう十分に指示すべき注意義務があった。しかし、同人は、自分が若いころ既に船長を務めていた次直者から指導を受けていたので全てを任せることに問題はないものと思い、視界制限状態となったときには速やかに報告するよう十分に指示しなかった職務上の過失により、船橋当直者から同状態になったことの報告を受けられず、自ら操船にあたることができないまま進行して共同丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、霧による視界制限状態の祝島沖合を西行中、レーダーで前路に探知した共同丸と著しく接近することを避けることができない状況となった場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、また、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかし、同人は、共同丸の映像がレーダーの船首輝線よりも右側にあるので近距離ながらも互いに右舷を対して航過できるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかった職務上の過失により、共同丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。