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平成15年広審第123号
件名

漁船第六十八西野丸漁船雄鵬丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年3月24日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(佐野映一、供田仁男、西林 眞)

理事官
平野浩三

受審人
A 職名:第六十八西野丸船長 海技免許:五級海技士(航海)(履歴限定)
C 職名:雄鵬丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:第六十八西野丸甲板員

損害
第六十八西野丸・・・船首部に擦過傷
雄鵬丸・・・左舷中央部外板に破口及び操舵室に破損等、のち全損処理

原因
第六十八西野丸・・・居眠り運航防止措置不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
雄鵬丸・・・見張り当直を立てなかったこと、警告信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、第六十八西野丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、漂泊中の雄鵬丸を避けなかったことによって発生したが、雄鵬丸が、見張り当直を立てず、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Cを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年5月6日01時20分
 島根県隠岐海峡
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第六十八西野丸 漁船雄鵬丸
総トン数 115トン 19トン
全長 35.10メートル 25.62メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 500キロワット 529キロワット

3 事実の経過
 第六十八西野丸(以下「西野丸」という。)は、かにかご漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか8人が乗り組み、操業の目的で、平成15年4月27日10時00分境港を発し、日本海中部の大和堆漁場に至って操業を行い、べにずわいがに2.4トンを漁獲して操業を終え、船首1.0メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、翌月5日04時00分漁場を発進し、同港への帰途に就いた。
 ところで、西野丸の操業は、1回に約5時間要する投かご及び揚かごを1日に3ないし4回行ったのち次のポイントに移動し、これを約1週間繰り返して境港に帰航するもので、操業中はその指揮をとる漁労長を除く全員が甲板上で投かご、揚かご及び漁獲物の整理等の作業を行い、ポイント移動中の約6時間は操船する漁労長を除く全員が休息をとることができた。
 漁場を発進したA受審人は、境港までの約24時間の船橋当直を、自らを含めB指定海難関係人と甲板員3人による単独2時間の5直制として、順次同当直を交替して日本海を南下し、23時00分隠岐諸島島後の東方約5海里付近で船橋当直に就き、隠岐海峡に至った。
 一方、B指定海難関係人は、漁場を発進したあと、05時00分から07時00分まで及び15時00分から17時00分までの間船橋当直に就き、19時00分就寝し、翌6日00時55分機関部当直者に起こされて昇橋したとき、正船首方3.3海里に雄鵬丸の明るい集魚灯を初めて視認し、それまでの経験から漂泊して操業中のいか釣り漁船であることを認めた。
 A受審人は、昇橋したB指定海難関係人に船橋当直を行わせることにしたが、同人が起床直後であったものの、十分休息をとれたから大丈夫と思い、要すれば眠気が覚めるまで自ら在橋できるよう、眠気が残っていないか確認して居眠り運航の防止措置をとることなく、針路と速力を伝えただけで引き継ぎを終え降橋した。
 B指定海難関係人は、当直交替にあたって、起床直後でまだ眠気が残っていたが、もう少し時間がたてば眠気がとれるものと考え、このことをA受審人に報告することなく、単独の船橋当直に就き、01時00分美保関灯台から012度(真方位、以下同じ。)20.0海里の地点で、法定の灯火を掲げ、針路を190度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
 定針したのちB指定海難関係人は、操舵室左舷側窓際に置かれた椅子に腰掛け、雄鵬丸まで2海里ほどになったら避けるつもりで右前方にある6海里レンジとしたレーダーの画面を見ていたところ、いつしか居眠りに陥った。
 こうして、01時15分B指定海難関係人は、美保関灯台から012度17.6海里の地点に達したとき、雄鵬丸が正船首1,540メートルとなり、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、居眠りに陥っていてこのことに気付かず、雄鵬丸を避けないまま続航中、01時20分美保関灯台から012度16.7海里の地点において、西野丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、雄鵬丸の左舷中央部に直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。
 階下の食堂にいたA受審人は、衝突の衝撃を感じて直ちに昇橋し、事後の措置にあたった。
 また、雄鵬丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人(平成6年10月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.92メートル船尾2.30メートルの喫水をもって、同月5日14時30分境港を発し、同港北方沖合の漁場に向かい、17時00分同漁場に至った。
 C受審人は、船首から約65メートルのロープを連結した直径約20メートルのパラシュート型シーアンカー(以下「シーアンカー」という。)を海中に投入して漂泊し、日没に近づいたころ、航行中の動力船が表示する灯火を点灯しないで、甲板上方の船首マストから船尾マストにわたって両舷に吊り下げた1個3キロワットの集魚灯60個を点灯して操業を開始した。
 C受審人は、甲板員2人を甲板上で漁獲物の選別及び箱詰め等の作業にあたらせ、漁獲が多いときは自らも甲板上で同作業を行い、そのうち漁獲が少なくなって操舵室でレーダーや目視で周囲の見張りを行っていたところ、自船の東方数海里のところに同業船がいるほか他船が見あたらず、翌6日00時00分から仮眠をとることにしたが、多数の集魚灯を点灯しているので、接近する他船があれば自船を避けてくれるもの思い、衝突のおそれがある態勢で接近する他船に対して警告信号を行うことができるよう、見張り当直を立てることなく、操舵室の床の上で横になって眠りに就いた。
 01時15分C受審人は、前示衝突地点で、船首が100度を向いて漂泊しているとき、左舷正横1,540メートルに自船に向首する西野丸が存在し、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、見張り当直を立てていなかったので、このことに気付かず、警告信号を行わないまま漂泊を続けた。
 こうして、01時20分少し前C受審人は、接近する西野丸に気付いた作業中の甲板員に起こされて左舷正横方を見たところ、自船の集魚灯に照らされて間近に迫った西野丸を認め、とっさにクラッチを後進に入れたが効なく、雄鵬丸は、100度に向首して、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、西野丸は船首部に擦過傷を生じただけであったが、雄鵬丸は左舷中央部外板に破口及び操舵室に破損等を生じ、西野丸によって境港に引き付けられたが、のち全損処理された。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、隠岐海峡において、西野丸が、操業を終えて帰航中、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で漂泊中の雄鵬丸を避けなかったことによって発生したが、雄鵬丸が、シーアンカーを投入して漂泊中、見張り当直を立てず、衝突のおそれがある態勢で接近する西野丸に対して警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 西野丸の運航が適切でなかったのは、船長が、昇橋した無資格の次直者に対して眠気が残っていないか確認しなかったことと、同次直者が、眠気が残っていることを報告しなかったこととによるものである。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、隠岐海峡において、操業を終えて帰航中、無資格者に単独の船橋当直を行わせる場合、起床直後であったから、要すれば眠気が覚めるまで自ら在橋できるよう、眠気が残っていないか確認して居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、次直者が十分休息をとれたから大丈夫と思い、眠気が残っていないか確認して居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、船橋当直者が居眠りに陥り、前路で漂泊中の雄鵬丸を避けないまま進行して同船との衝突を招き、西野丸の船首部に擦過傷を生じさせ、雄鵬丸の左舷中央部外板に破口及び操舵室に破損等を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、夜間、隠岐海峡において、シーアンカーを投入し漂泊していか釣り漁の操業中に仮眠をとる場合、衝突のおそれがある態勢で接近する他船に対して警告信号を行うことができるよう、見張り当直を立てるべき注意義務があった。しかし、同人は、多数の集魚灯を点灯しているので、接近する他船があれば自船を避けてくれるものと思い、見張り当直を立てなかった職務上の過失により、西野丸が衝突のおそれがある態勢で接近する状況に気付かず、警告信号を行わないまま漂泊を続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、夜間、隠岐海峡において、単独の船橋当直に就くにあたり、起床直後でまだ眠気が残っていた際、このことを船長に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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