(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年9月1日23時30分
島根県出雲海岸北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第十三明隆丸 |
漁船第二大洋丸 |
総トン数 |
499トン |
80トン |
全長 |
75.94メートル |
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登録長 |
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27.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
661キロワット |
3 事実の経過
第十三明隆丸(以下「明隆丸」という。)は、船尾船橋型の貨物船で、A受審人ほか3人が乗り組み、コークス1,300トンを積載し、船首3.2メートル船尾4.2メートルの喫水をもって、平成14年8月31日16時00分岡山県水島港を発し、富山県伏木富山港に向かった。
A受審人は、船橋当直を自らを含め一等航海士及び甲板長の3人による単独4時間の3直制とし、関門海峡を経て日本海に至り、翌9月1日20時30分出雲日御碕灯台の北東方約2海里付近で昇橋してその後の当直に就き、出雲海岸沖合を東行した。
22時42分A受審人は、多古鼻灯台から352度1.7海里の地点で、針路を080度(真方位、以下同じ。)に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
23時10分A受審人は、多古鼻灯台から062度5.3海里の地点に達したとき、沖ノ御前島灯標の北方に第二大洋丸(以下「大洋丸」という。)の白、紅2灯を双眼鏡で初めて視認し、6海里レンジとしたレーダーで同船との距離が約6海里であることを確かめ、それまでの経験では境港方面から出航して同灯標の西側を経てそのまま北上を続ける船舶を見たことがなかったので、いずれ大洋丸が西方に向け左転するものと予想し、その後目視とレーダーで同船の動静を監視しながら続航した。
A受審人は、大洋丸が緑灯をなかなか見せてこないことに不審を持って同船を見守りながら進行し、23時24分大洋丸を右舷船首25度1.8海里に認めるようになり、その後同船の方位に明確な変化がなく、互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることを知ったが、依然として大洋丸が西方に向けて左転し右舷を対して航過するものと思い、注意を喚起しようと同船の方向に向け探照灯を数秒間照射しただけで、早期に右転するなどして大洋丸の進路を避けることなく進行した。
こうして、A受審人は、23時29分レーダーを0.3海里レンジに切り替えたところ、近距離に接近し自船の船首方に向いた大洋丸の船型映像を認め、同船に左転する様子がないことから衝突の危険を感じ、再度探照灯を照射するとともに短音3回を吹鳴し、同時29分少し過ぎ手動操舵に切り替えて左舵一杯をとり回頭中、23時30分多古鼻灯台から069度8.7海里の地点において、明隆丸は、その船首が010度を向いて速力が7.0ノットとなったとき、その右舷船首に、大洋丸の左舷船首が後方から55度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、視界は良好であった。
また、大洋丸は、鋼製漁船で、B審人及びC指定海難関係人ほか8人が乗り組み、はた底引き網漁の目的で、船首2.0メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、同年9月1日22時00分境港を発し、隠岐諸島北方の漁場に向かった。
B受審人は、漁場との往復の船橋当直を維持するにあたり、5年前から大洋丸に乗船し2年前からはベテラン甲板員とともに2人当直で船橋当直に就いていたC指定海難関係人に、この度の出漁からは単独で入直するよう指示して、同人を含む甲板員7人による単独2時間の輪番制をとり、出航操船に引き続き美保関灯台を左舷方に大きく付け回して北上した。
23時00分B受審人は、既に昇橋していたC指定海難関係人に船橋当直を行わせることにしたが、付近は沿岸を東西に航行する船舶と行き交うところであったものの、平素からレーダーばかりでなく目視でも見張りを行うよう指示していたので改めて指示するまでもないと思い、前路の見張りを十分に行うよう指示することなく、12海里レンジとしたレーダー画面の船首方約10海里に映っていた先航する僚船数隻を追尾するよう伝えただけで、右舷前方のいか釣り漁船の灯火を見ながら更に15分間ほど在橋したのち降橋した。
単独の船橋当直に就いたC指定海難関係人は、23時15分多古鼻灯台から082度9.9海里の地点で、針路を315度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの速力で進行した。
C指定海難関係人は、操舵室右舷側に設置されたレーダーの右斜め後方にある椅子に腰掛けて船橋当直にあたり、右舷前方遠距離のいか釣り漁船の灯火を見ていたところ、23時24分多古鼻灯台から074度9.1海里の地点に達したとき、左舷船首30度1.8海里に明隆丸の白、白、緑3灯を視認することができ、その後同船の方位に明確な変化がなく、互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、右舷前方のいか釣り漁船の灯火に気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかったので、明隆丸に気付かないでB受審人に報告することができず、警告信号を行うことも、更に間近に接近した際、衝突を避けるための協力動作をとることもできないまま進行した。
23時30分わずか前C指定海難関係人は、ふと左舷船首方を見たところ至近に迫った明隆丸を初めて視認したものの、身体が硬直してどうすることもできず、大洋丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
階下の食堂にいたB受審人は、後部甲板で乗組員が大声を発したので同甲板に出たところ、明隆丸が吹鳴した汽笛を聞いて間もなく衝突の衝撃を感じ、急ぎ昇橋して事後の措置にあたった。
衝突の結果、明隆丸は右舷船首部外板に凹損及び右舷外板の中央から船尾にかけて擦過傷を、大洋丸は左舷船首部ブルワークに凹損及び同部アンカーローラに曲損を生じ、大洋丸の甲板員3人が第5肋骨骨折、頭部打撲・挫創等を負傷するに至った。
(原因)
本件衝突は、夜間、出雲海岸北方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、東行する明隆丸が、前路を左方に横切る大洋丸の進路を避けなかったことによって発生したが、北上する大洋丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
大洋丸の運航が適切でなかったのは、船長が無資格の船橋当直者に対して、前路の見張りを十分に行うよう指示しなかったことと、無資格の船橋当直者が、前路の見張りを十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、単独の船橋当直に就き、右前方に認めた大洋丸が西方に向かうことを予想して出雲海岸北方沖合を東行中、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で互いに接近していることを知った場合、早期に右転するなどして大洋丸の進路を避けるべき注意義務があった。しかし、同人は、それまで境港方面を出航しそのまま北上を続ける船舶を見たことがなかったので、依然として大洋丸が左転し右舷を対して航過するものと思い、早期に右転するなどして同船の進路を避けなかった職務上の過失により、大洋丸との衝突を招き、明隆丸の右舷船首部外板に凹損及び右舷外板の中央から船尾にかけて擦過傷を、大洋丸の左舷船首部ブルワークに凹損及び同部アンカーローラに曲損をそれぞれ生じさせ、大洋丸の甲板員3人に第5肋骨骨折、頭部打撲・挫創等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、出雲海岸北方沖合において、漁場に向け北上中、無資格の甲板員に単独の船橋当直を行わせる場合、付近は沿岸を東西に航行する船舶と行き交うところであったから、前路の見張りを十分に行うよう指示するべき注意義務があった。しかし、同人は、平素からレーダーばかりでなく目視でも見張りを行うよう指示していたので改めて指示するまでもないと思い、前路の見張りを十分に行うよう指示しなかった職務上の過失により、無資格の船橋当直者が見張りを十分に行わなかったため、明隆丸が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で互いに接近している状況に気付かないで、同船についての報告が得られず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもできないまま進行して明隆丸との衝突を招き、前示の損傷と負傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C指定海難関係人が、夜間、出雲海岸北方沖合において、単独の船橋当直に就いて漁場に向け北上中、前路の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
C指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。