(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年11月6日21時30分
岡山県吉井川下流
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第2木畑丸 |
プレジャーボート万南海丸 |
総トン数 |
0.6トン |
0.4トン |
機関の種類 |
電気点火機関 |
電気点火機関 |
漁船法馬力数 |
30 |
30 |
3 事実の経過
第2木畑丸(以下「木畑丸」という。)は、全速力で約10ノットの航行性能を有する全長6.15メートルの船外機付きFRP製漁船で、A受審人(昭和49年10月一級小型船舶操縦士免許取得)が、1人で乗り組み、同人の息子を同乗させ、投網漁の目的で、船首0.10メートル船尾0.50メートルの喫水をもって、平成14年11月6日21時20分岡山県吉井川上流にある係留地を発し、同川河口の比沙古岩灯標周辺の漁場に向かった。
ところで、A受審人は、木畑丸が甲板を有しない箱形で、灯火を設置すると取付け用の支柱が操業の邪魔になることや灯火の明かりが眩しく操船の妨げになると考えていたので、同船に法定灯火を備えなかった。そして、同人は、当日の潮模様が漁に適していたので夕食後に出漁することとしたが、無灯火でこの水域を何度か航行して危険を感じたことがなかったので、それまでどおり航行することができると思い、自船には法定灯火の設備がなかったのに、夜間の出漁を取り止めなかった。
こうして、A受審人は、息子を船体中央部に座らせて自分は右舷船尾部に座り、他船の接近などで注意を喚起する必要があれば照射するつもりで、単一乾電池3個を直列に配し電源とした白色懐中電灯1個を点灯して腰の位置で右手に持ち、左手で船外機の操縦レバーを握って操舵操船にあたり、岸線などを確かめて船位を確認しながら吉井川を下航し、21時27分比沙古岩灯標から345度(真方位、以下同じ。)2,440メートルの地点で、吉井川河口東岸の街灯などの明かりを船首目標にして針路を157度に定め、機関を半速力前進にかけ、5.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
21時28分A受審人は、比沙古岩灯標から346度2,280メートルの地点に達したとき、右舷船首7度920メートルのところに万南海丸が存在し、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが、自船が灯火を表示していなかったので、自船の存在とその動静を万南海丸に示すことができず、また、無灯火の万南海丸を視認することもできずに続航した。
21時30分わずか前A受審人は、船首目前に万南海丸の船影を始めて認めたが、どうすることもできず、21時30分比沙古岩灯標から347度1,980メートルの地点において、木畑丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首部に、万南海丸の船首が前方から10度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力1の東北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期にあたり、周囲は暗闇で、日没は17時07分であった。
また、万南海丸は、全速力前進で約10ノットの航行性能を有する全長5.60メートルの船外機付きFRP製プレジャーボートで、B受審人(平成9年6月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、夜釣りの目的で、船首0.05メートル船尾0.10メートルの喫水をもって、同6日18時00分吉井川上流にある係留地を発し、同川河口南方沖合の岡山水道入口付近の釣場に向かった。
ところで、B受審人は、法定灯火を備えていない万南海丸のほかに、その設備がある他の船を所有しており、万南海丸を夜間航行させてはならないことが分かっていたので、専ら昼間に同船を使用していた。ところが、同人は、今回の夜釣りにあたって燃費が良い万南海丸の方を使ってみようと思い立ち発航することとしたが、前路を良く見張れば航行することができると思い、自船には法定灯火の設備がなかったのに、夜間の発航を取り止めなかった。
こうして、B受審人は、18時25分目的の釣場に到着して釣りを始め、釣果があったので21時10分帰途に就くこととし、左舷船尾部に座り、他船の接近などで注意を喚起する必要があれば高く掲げるつもりで、単一乾電池1個を電源とした赤、白交互に点灯する円筒形の点滅灯1個を点灯して自分の左横に置き、右手で船外機の操縦レバーを握って操舵操船にあたり、北上して吉井川に入り、岸線などを確かめて船位を確認しながらこれを上航し、21時27分比沙古岩灯標から347度1,050メートルの地点で、東西に架けられた西大寺大橋の西側水銀灯を船首目標にして針路を347度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
21時28分B受審人は、比沙古岩灯標から347度1,360メートルの地点に達したとき、左舷船首3度920メートルのところに木畑丸が存在し、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが、自船が灯火を表示していなかったので、自船の存在とその動静を木畑丸に示すことができず、また、無灯火の木畑丸を視認することもできずに続航中、万南海丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、木畑丸は、右舷舷側に亀裂を生じたが、のち修理され、万南海丸は、右舷船首部に擦過傷を生じたほか、A受審人が右肩などに打撲を負った。
(原因)
本件衝突は、夜間、岡山県吉井川において、法定灯火の設備がない木畑丸が、夜間の出漁を取り止めなかったことと、法定灯火の設備がない万南海丸が、夜間の発航を取り止めなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、漁場に向かおうとする場合、自船には法定灯火の設備がなかったから、夜間の出漁を取り止めるべき注意義務があった。しかるに、同人は、無灯火でこの水域を何度か航行して危険を感じたことがなかったので、それまでどおり航行することができると思い、夜間の出漁を取り止めなかった職務上の過失により、吉井川を無灯火のまま下航し、一方無灯火のまま上航する万南海丸と互いに視認することができずに衝突を招き、木畑丸の右舷舷側に亀裂及び万南海丸の右舷船首部に擦過傷をそれぞれ生じさせたうえ、自らが肩などに打撲を負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、釣場に向かおうとする場合、自船には法定灯火の設備がなかったから、夜間の発航を取り止めるべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路を良く見張れば航行することができると思い、夜間の発航を取り止めなかった職務上の過失により、吉井川を無灯火のまま上航し、一方無灯火のまま下航する木畑丸と互いに視認することができずに衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。