(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年9月27日06時04分
周防灘東部
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船第十六大徳丸 |
漁船美幸丸 |
総トン数 |
199トン |
4.73トン |
全長 |
47.93メートル |
12.83メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
40キロワット |
3 事実の経過
第十六大徳丸(以下「大徳丸」という。)は、九州一円及び瀬戸内海において主にC重油を輸送する船尾船橋型の油送船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首0.6メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成13年9月26日17時50分長崎県松浦港を出港し、大阪港に向かった。
A受審人は、平素どおり船橋当直を甲種甲板部航海当直部員の認定を受けたB指定海難関係人と昼間は4時間、夜間は5時間ずつの単独制とし、日没後は航行中の動力船の灯火を表示して、関門海峡の通航操船に引き続き当直にあたり、機関を全速力前進にかけて周防灘を東行した。
翌27日05時50分A受審人は、日出間際で周囲の他船を明瞭に判別できる明るさになったころ、徳山下松港の南方沖合に至り、昇橋したB指定海難関係人に交替することとしたが、同人が単独の当直経験が豊富なので改めて言うまでもないと思い、他船との航過距離を広げる動作をとったならば同船を航過するまで動静監視を行うよう十分に指示することなく、降橋して自室に退いた。
B指定海難関係人は、当直を交替し、右舷前方の北上する貨物船を避けて針路を種々変えながら東行を続けるうち、05時57分少し前左舷前方1.2海里に南方を向首した美幸丸を初めて視認し、双眼鏡を用いたところ、船尾に身体を屈めて作業している乗組員がいて、同船が停留しているように見えたものの、航過距離が近いと感じたことから、同距離を広げておくこととし、同時57分周防野島灯台から158度(真方位、以下同じ。)4.5海里の地点で、針路を同船の船首方約900メートルに向く104度に定めて自動操舵とし、10.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
06時00分B指定海難関係人は、左舷船首22度1,300メートルに所定の形象物を掲げて延縄漁法(はえなわぎょほう)により漁ろうに従事している美幸丸を視認でき、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近することを認め得る状況であったが、美幸丸は停留しているものと思い、航過距離を広げる動作をとったのちは同船の動静を十分に監視していなかったので、この状況に気付かず、美幸丸の進路を避けることなく続航した。
06時04分少し前B指定海難関係人は、左舷前方至近に迫った美幸丸を視認し、直ちに手動操舵に切り換えて右舵一杯をとり、次いで汽笛により短音1回を吹鳴するも効なく、06時04分周防野島灯台から148度5.3海里の地点において、大徳丸は、124度に向首し、原速力のまま、その左舷後部に美幸丸の船首が後方から72度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期にあたり、日出は06時04分であった。
A受審人は、自室で休息中、船体の傾斜と機関音の変化に続いて衝撃を感じ、直ちに昇橋して衝突したことを知り、事後の措置にあたった。
また、美幸丸は、船体の後部に操舵室を設けた木製漁船で、C受審人(昭和57年9月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、船首0.3メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、ふぐ延縄漁の目的で、同月27日03時10分山口県粭大島漁港を出港し、04時00分同漁港南方沖合の漁場に到着したのち、漂泊して操業準備に取り掛かった。
美幸丸のふぐ延縄漁は、太さ2ミリメートルの化学繊維製幹縄とこれに8メートル55センチメートル間隔で取り付けた太さ1ミリメートル長さ10センチメートルの枝縄及び枝縄先端の釣針から成る一連の漁具を延縄と称し、延縄を船尾から繰り出しながら釣針に餌を掛けて投縄して9.5海里にわたって海底にはわせ、一定時間の経過後に揚縄する漁法で、投縄及び揚縄時にはいずれも船舶の操縦性能を制限するものであった。
C受審人は、延縄をはちと呼ばれる19個の木製円形容器に分けて納め、はち及び餌を船尾甲板に置いて操業の準備を整え、04時30分発進し、同時53分周防野島灯台から090度4.1海里の地点で、針路を196度に定めて自動操舵とし、機関を半速力前進にかけ、4.0ノットの速力で投縄を開始した。
C受審人は、漁ろうに従事していることを示す形象物を前部マストに掲げ、マスト灯、舷灯及び船尾灯のほか、僚船に投縄中であることを知らせるべくマスト灯の上方に黄色回転灯を点灯し、トロール以外の漁法により漁ろうに従事していることを示す灯火を表示しないまま、船尾甲板右舷側で後方を向いていすに腰掛け、足元に置いたはちから延縄を繰り出し、ほぼ4秒ごとに釣針に餌を掛け、一はちを終える度に身体を屈めてはちを交換し、投縄を続けた。
06時00分C受審人は、周防野島灯台から146度5.1海里の地点に至ったとき、右舷船首66度1,300メートルに東行する大徳丸を視認することができ、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近することを認め得る状況であったが、投縄作業に気を取られ、時折釣針に餌を掛けることを見合わせて前方を振り向くなど、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、この状況に気付かず、避航の気配を見せない大徳丸に対して警告信号を行うことなく続航し、同船の吹鳴した汽笛音を聞いた直後、美幸丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、大徳丸は左舷後部及び同船尾部両外板に擦過傷を生じ、美幸丸は船首部を圧壊したほか、操舵室を破損したが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、周防灘東部において、大徳丸が、動静監視不十分で、漁ろうに従事している美幸丸の進路を避けなかったことによって発生したが、美幸丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
大徳丸の運航が適切でなかったのは、船長が、甲種甲板部航海当直部員の認定を受けた船橋当直者に対し、他船との航過距離を広げる動作をとった際の動静監視について十分に指示しなかったことと、船橋当直者が、美幸丸との航過距離を広げる動作をとったのち同船の動静監視を十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、日出間際の薄明時、周防灘東部を東行中、船橋当直を甲種甲板部航海当直部員の認定を受けた甲板長に交替する場合、他船との航過距離を広げる動作をとったならば同船を航過するまで動静監視を行うよう十分に指示すべき注意義務があった。しかし、同人は、同甲板長が単独の当直経験が豊富なので改めて言うまでもないと思い、他船との航過距離を広げる動作をとったならば同船を航過するまで動静監視を行うよう十分に指示しなかった職務上の過失により、同甲板長が美幸丸との航過距離を広げる動作をとったのち動静監視を十分に行わず、所定の形象物を掲げて延縄漁法により漁ろうに従事している同船と衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かないまま、その進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き、大徳丸に左舷後部及び同船尾部両外板の擦過傷を、美幸丸に船首部の圧壊及び操舵室の破損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、日出間際の薄明時、延縄漁法により漁ろうに従事して周防灘東部を南下する場合、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、投縄作業に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、右舷前方から衝突のおそれがある態勢で接近する大徳丸に気付かず、避航の気配を見せない同船に対して警告信号を行うことなく進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、日出間際の薄明時、船橋当直に就いて周防灘東部を東行中、美幸丸との航過距離を広げる動作をとった際、同船の動静監視を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、本件後、A受審人から動静監視について指導を受け、その後の船橋当直にあたっては動静監視を心掛けている点に徴し、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。