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平成15年広審第118号
件名

油送船天侑丸漁船第一妙法丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年3月11日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(佐野映一、道前洋志、西田克史)

理事官
横須賀勇一

受審人
A 職名:天侑丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
B 職名:第一妙法丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
天侑丸・・・船首部に擦過傷
第一妙法丸・・・船体後部が沈没し、のち廃船

原因
第一妙法丸・・・居眠り運航防止措置不十分、横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
天侑丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因

主文

 本件衝突は、第一妙法丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切る天侑丸の進路を避けなかったことによって発生したが、天侑丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年11月20日10時55分
 島根県隠岐海峡
 
2 船舶の要目
船種船名 油送船天侑丸 漁船第一妙法丸
総トン数 699トン 19.91トン
全長 69.95メートル  
登録長   16.32メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット  
漁船法馬力数   160

3 事実の経過
 天侑丸は、船尾船橋型の油送船で、A受審人ほか6人が乗り組み、灯油2,000キロリットルを積載し、船首4.1メートル船尾4.8メートルの喫水をもって、平成13年11月19日12時40分大分県大分港を発し、山形県酒田港に向かった。
 A受審人は、船橋当直を自らを含め一等航海士及び次席一等航海士の3人による単独4時間の3直制として、関門海峡を経て日本海に至り、翌20日08時00分出雲日御碕灯台の北方沖合で前直の一等航海士から引き継いで同当直に就き、多古鼻灯台の約8海里西方に達したころ、同灯台北方沖合に漁船群を認め、同漁船群を右舷方に大きく替わすため沖出しして東行した。
 A受審人は、多古鼻灯台沖合の漁船群を右舷正横方に替わしたのち、更に離岸距離を大きくとることにして、10時00分同灯台から348度(真方位、以下同じ。)5.3海里の地点で、針路を経ヶ岬北方約23海里沖合に向く075度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
 A受審人は、操舵室内を適宜移動しながら見張りにあたっていたところ、やがて周囲に行き会い船や漁船を見かけなくなったので、10時40分同室の左舷前方隅で立ち止まったまま当直にあたるようになって続航した。
 10時50分A受審人は、美保関灯台から339度10.5海里の地点に達したとき、操舵室左舷前方角の窓枠に重なって南下する第一妙法丸(以下「妙法丸」という。)が左舷船首39度1.3海里に存在し、その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況であったが、離岸距離を大きくとる針路としたのち周囲に船舶を見かけなくなったことから、前路に他船はいないものと思い、適宜見張り位置を移動するなどして前路の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近した際、右転するなどして衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行した。
 こうして、A受審人は、操舵室の左舷前方隅から移動しないまま続航中、10時55分美保関灯台から344度10.4海里の地点において、天侑丸は、原針路、原速力のまま、その船首が妙法丸の右舷中央部に前方から83度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、視界は良好であった。
 また、妙法丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人(昭和50年3月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、操業の目的で、船首1.0メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、同月18日08時00分島根県浜田漁港を発し、隠岐諸島北西方約40海里の漁場に向かった。
 B受審人は、19時00分漁場に至り、翌19日日出ごろまで操業を行い、操業中の漁獲がないときと昼間は仮眠をとり、日没ごろから操業を再開して翌々20日00時00分いか150箱を漁獲して操業を終え、再び仮眠をとったのち、04時00分漁場を発進して境港への帰途についた。
 ところで、B受審人は、これまで沿岸から20海里ほど沖合の漁場で操業を行っていたところ、漁獲が減少してきたことから、浜田漁港から約110海里離れた遠距離の前示漁場に初めて出漁したものであった。
 漁場を発進したB受審人は、操舵室の板張りの床に置いた座椅子に座って当直にあたり、隠岐諸島の島後水道を経て隠岐海峡を南下し、09時30分美保関灯台から349度24.5海里の地点で、GPSプロッタの画面で地蔵埼の方向を確かめ、針路を172度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの速力で進行した。
 10時00分B受審人は、美保関灯台から348度19.5海里の地点に達したころ、海上は平穏で他船も見あたらず緊張感がなくなって眠気を催したが、あと短時間で境港に入港するので何とか我慢できると思い、甲板に出て身体を動かすなどして居眠り運航の防止措置をとることなく、座椅子に座ったまま当直を続けるうち、いつしか眠りに陥った。
 こうして、B受審人は、10時50分美保関灯台から349度11.2海里の地点に達したとき、右舷船首44度1.3海里に東行する天侑丸を視認することができ、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、居眠りに陥っていてこのことに気付かず、同船の進路を避けないまま続航し、妙法丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、天侑丸は、船首部に擦過傷を生じただけであったが、妙法丸は、船体中央部で切断されて船体後部は沈没し、船体前部は僚船により境港に引き付けられたが、のち廃船となった。 

(原因)
 本件衝突は、隠岐海峡において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、南下する妙法丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切る天侑丸の進路を避けなかったことによって発生したが、東行する天侑丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 B受審人は、漁場からの帰途について隠岐海峡を南下中、海上は平穏で他船も見あたらず緊張感がなくなって眠気を催した場合、甲板に出て身体を動かすなどして居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、あと短時間で境港に入港するので何とか眠気を我慢できると思い、甲板に出て身体を動かすなど居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、操舵室の座椅子に座って当直にあたるうちいつしか居眠りに陥り、天侑丸が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で互いに接近している状況に気付かず、その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、天侑丸の船首部に擦過傷を生じさせ、妙法丸の船体中央部を切断して船体後部を沈没させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人は、隠岐海峡を東行する際、単独で船橋当直にあたる場合、適宜見張り位置を移動するなどして前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、離岸距離を大きくとる針路としたのち周囲に船舶を見かけなくなったことから、前路に他船はいないものと思い、適宜見張り位置を移動するなどして前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、窓枠に重なった妙法丸が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で互いに接近している状況に気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近した際、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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