(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年5月24日15時10分
兵庫県神戸市須磨海水浴場南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート |
プレジャーボート |
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オンリーワン |
ジーエスピーエル |
全長 |
3.12メートル |
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登録長 |
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2.45メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
電気点火機関 |
出力 |
95キロワット |
62キロワット |
3 事実の経過
オンリーワン(以下「オ号」という。)は、C社が製造した、最高速力が毎時85キロメートル(以下「キロ」という。)のウォータージェット推進によるFRP製水上オートバイで、平成14年10月交付の四級小型船舶操縦士の免状を受有するA受審人が1人で乗り組み、友人の運転する水上オートバイとともに平成15年5月24日13時00分兵庫県西宮市西宮浜にあるマリーナを発し、明石海峡大橋付近へのツーリングに出かけた。
A受審人は、同日14時30分ごろ同マリーナから先に出発していたB受審人のグループと神戸市須磨海水浴場で合流し、海岸に上陸してしばらく休憩をとったのち、オ号に1人で乗り組み、同海水浴場沖の防波堤付近を遊走することとした。
ところで、須磨海水浴場は、神戸市須磨区若宮町1丁目の市立須磨ヨットハーバーと同区須磨浦通6丁目にある船だまりに挟まれた東西方向の長さが約1,800メートルの砂浜で、沖合100メートルから300メートルには8基の沖防波堤が海岸とほぼ平行して設置されているので、沖防波堤の内側は風波が穏やかであった。
当時は、海水浴のシーズンではなかったので、海水浴客もおらず、複数の水上オートバイなどが沖防波堤の内側で遊走していた。A受審人らが上陸して休憩した場所は、同海水浴場の西部に位置し、南方に延びた先端が内側に鉤の字(かぎのじ)状に折れた2本の突堤により挟まれた、東西方向の長さが約150メートルの海岸(以下「休憩用海岸」という。)で、操縦者の眼高が低い水上オートバイで同海岸に出入りする場合、同突堤で見通しが悪かったから、突堤先端付近を遊走するときは安全な速力で、周囲の見張りを十分に行いながら航行する必要があった。
15時09分30秒A受審人は、神戸港外須磨海釣公園塔灯から045度(真方位、以下同じ。)840メートルにある前示船だまりの東側防波堤先端(以下「基点」という。)から025度200メートルの地点を発し、艇首を180度に向け、エンジンのスロットルを少し引き込んで毎時10キロの艇速(対地速力、以下同じ。)で休憩用海岸西側の突堤先端至近に向け進行し、同時09分45秒同突堤の内側で停留中の水上オートバイを徐々に左転しながらかわしたところ、同海岸にいた友人から声をかけられたと思い、スロットルを戻して後方を振り返るなどしていて、前方の見張りを十分に行わなかったので、そのころ艇首やや右舷60メートルのところを低速で東行するジーエスピーエル(以下「ジ号」という。)が同突堤先端外側に見えてきたのに気付かず、直ちに停止するなどジ号との衝突を避けるための措置をとらないまま続航した。
こうして、A受審人は、一旦戻したスロットルを再び引き込んで、急速に増速しながら、突堤の先端を10メートルほど離して航過し、徐々に左転を続けていたとき、15時10分わずか前、右舷前方至近にジ号を初めて認めて衝突の危険を感じたので、激左転を試みてスロットルを更に引き込んでハンドルを左にとったものの効なく、15時10分00秒艇首を153度に向けて艇速が毎時45キロとなったとき、基点から044度150メートルの地点において、その艇首がジ号の左舷艇首に直角に衝突した。
当時、天候は曇で風力2の南南西の風が吹き、海上は平穏であった。
また、ジ号は、D社が製造した、最高速力が80キロのウォータージェット推進によるFRP製水上オートバイで、平成14年5月交付の五級小型船舶操縦士の免状を受有するB受審人が1人で乗り組み、友人の運転する水上オートバイとともに同15年5月24日11時30分ごろ西宮市西宮浜の前示マリーナを発し、明石海峡大橋付近へのツーリングに出かけた。
B受審人は、14時30分ごろあとからきたA受審人らのグループと休憩用海岸で合流したのち、ジ号の前部座席に同乗者1人を座らせ、自らは後部座席に座って同乗者の後ろからハンドルなどを操作して同海岸を離れ、沖防波堤の内側の風波が穏やかな海域で周回して遊走を楽しんだ。
15時09分30秒B受審人は、基点から038度115メートルの地点に達したとき、東方から休憩用海岸に向かう水上オートバイを認めたので、艇首を063度に向け、スロットルを離してエンジンをアイドリング状態として、艇速を毎時4キロに落として、これを先に行かせることとした。
15時09分45秒B受審人は、休憩用海岸に向かう水上オートバイが自艇の進路を通り過ぎて安心し、同乗者と雑談をしていて左舷方の見張りを十分に行わなかったので、そのころ左舷艇首60度60メートルのところを増速しながら接近するオ号が突堤先端付近に見えてきたのに気付かず、右転するなど衝突を避けるための措置をとることなく進行した。
こうして、B受審人は、原針路で、アイドリング状態として艇速を毎時4キロとしたまま続航し、15時10分わずか前艇首を上げて接近してくるオ号に初めて気付き、衝突の危険を感じたが、何もすることができないまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、オ号は艇首部バンパーに亀裂等を生じ、ジ号は左舷艇首部に破口とハンドルの曲損を生じ、B受審人が胸部打撲などを、ジ号同乗者が左上顎骨折などをそれぞれ負った。
(原因)
本件衝突は、神戸市須磨海水浴場の突堤で見通しが悪い海域において、複数の水上オートバイが遊走を行おうとする際、オ号が安全な速力で航行しなかったばかりか、見張り不十分で、ジ号を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、ジ号が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、神戸市須磨海水浴場の突堤で見通しが悪い海域において、遊走して同突堤に挟まれた水域から沖に出ようとする場合、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、海岸にいた友人から声をかけられたと思い、後方を振り返るなどして前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、突堤先端外側から接近するジ号に気付かず、直ちに停止するなどジ号を避けるための措置をとることなく進行して衝突を招き、オ号の艇首部バンパーに亀裂等を、ジ号の左舷艇首部に破口等を生じさせ、B受審人に胸部打撲などを、ジ号同乗者に左上顎骨折などをそれぞれ負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、神戸市須磨海水浴場の突堤で見通しが悪い海域において、同突堤先端外側を東方に向け遊走する場合、左舷方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、前方の水上オートバイが自艇の進路を通り過ぎて安心し、左舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、増速しながら接近するオ号に気付かず、オ号を避けるための措置をとることなく進行して衝突を招き、前示の損傷等を負わせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。