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平成15年神審第75号
件名

貨物船明成丸漁船大六栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年3月25日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(小金沢重充、田邉行夫、中井 勤)

理事官
加藤昌平

受審人
A 職名:明成丸二等航海士 海技免許:四級海技士(航海)
B 職名:大六栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
明成丸・・・船首部外板に擦過傷
大六栄丸・・・右舷側前部外板及び操舵室を損壊、船長が頭部打撲傷の負傷

原因
大六栄丸・・・船橋当直の維持不十分、横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
明成丸・・・警告信号不履行、横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、大六栄丸が、船橋当直の維持が不十分で、前路を左方に横切る明成丸の進路を避けなかったことによって発生したが、明成丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年5月12日00時50分
 石川県能登半島西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船明成丸 漁船大六栄丸
総トン数 499トン 6.6トン
全長 64.81メートル 18.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 956キロワット  
漁船法馬力数   120

3 事実の経過
 明成丸は、船尾船橋型の鋼製ケミカルタンカーで、船長C及びA受審人ほか4人が乗り組み、メタクリル酸メチル約1,000トンを載せ、船首3.4メートル船尾4.6メートルの喫水をもって、平成15年5月11日11時55分新潟港を発し、大阪港へ向かった。
 C船長は、船橋における当直体制として、8時から12時の間を同人が、0時から4時の間をA受審人が、4時から8時の間を一等航海士がそれぞれ単独の4時間交替で行う3直輪番制をとっていた。
 発航後、C船長は、出港操船を終えていつもの当直体制として能登半島北西方沖合に至り、23時40分猿山岬灯台から335度(真方位、以下同じ。)4.0海里の地点で、針路を207度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、航行中の動力船の灯火を表示して自動操舵により進行し、同時45分同灯台の北西方3.5海里ばかりの地点に達したとき、A受審人が昇橋してきたので、同人に船橋当直を引き継ぎ、降橋して休息した。
 A受審人は、単独の船橋当直に就き、引き継いだ針路速力で進行し、翌12日00時40分ごろ左舷前方2.8海里ばかりに大六栄丸の白1灯を初めて視認した。
 00時43分少し過ぎA受審人は、海士埼(あまさき)灯台から313度5.9海里の地点に達したとき、左舷船首41度2.0海里のところに大六栄丸の白、緑2灯を認め、その動静を監視して同船が前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で、避航措置をとらないまま接近することを知ったが、手動操舵に切り替えたものの、同船に対して警告信号を行わないで南下を続けた。
 その後、A受審人は、大六栄丸が更に間近に接近し、同船の動作のみでは衝突を避けることができない状況となったが、大六栄丸の避航を期待し、行きあしを止めるなど、衝突を避けるための協力動作をとることなく続航した。
 00時50分わずか前A受審人は、大六栄丸が左舷船首至近に迫ったとき、ようやく衝突の危険を感じ、右舵一杯としたが及ばず、00時50分海士埼灯台から300度5.7海里の地点において、明成丸は、原針路原速力のまま、その船首部が、大六栄丸の右舷側前部に前方から81度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力3の北東風が吹き、視界は良好であった。
 C船長は、衝突の衝撃を感じ、昇橋して衝突を知り事後の措置に当たった。
 また、大六栄丸は、沖合底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、昭和56年3月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したB受審人ほか3人が乗り組み、操業の目的で、船首0.40メートル船尾2.05メートルの喫水をもって、平成15年5月12日00時10分石川県富来(とぎ)漁港を発し、同港北西方沖合25海里付近の漁場へ向かった。
 B受審人は、離岸操船に引き続いて単独の船橋当直に就き、00時20分少し過ぎ海士埼灯台から206度1,100メートルの地点で、針路を306度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.5ノットの速力で、航行中の動力船の灯火を表示して自動操舵により進行した。
 B受審人は、その後操舵室内で見張りに当たっていたところ、4箇月ほど前に受けた推間板ヘルニア手術の術後経過中であったことから、腰痛が悪化し、船橋当直を継続することができなくなったが、周囲に船舶が見当たらないので少しの間なら大丈夫と思い、他の乗組員と交替するなど、船橋当直の維持を十分に行う措置をとることなく、00時34分ごろ同室後部の棚の上に横になり、その後西行を続けるうち、いつしか寝入ってしまった。
 こうして、大六栄丸は、00時43分少し過ぎ海士埼灯台から298度4.4海里の地点に達したとき、右舷船首40度2.0海里のところに明成丸の白、白、紅3灯を視認でき、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近したが、船橋当直者が眠っていたので、このことに気付かず、右転するなど、その進路を避けることができないまま進行中、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、明成丸は、船首部外板に擦過傷を生じたのみであったが、大六栄丸は、右舷側前部外板及び操舵室を損壊し、のち修理された。また、B受審人が頭部打撲傷を負った。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、石川県能登半島西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、西行中の大六栄丸が、船橋当直の維持が不十分で、前路を左方に横切る明成丸の進路を避けなかったことによって発生したが、南下中の明成丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、能登半島西方沖合において、漁場に向け単独の船橋当直中、腰痛が悪化し、船橋当直を継続することができなくなった場合、他の乗組員と交替するなど、船橋当直の維持を十分に行う措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、周囲に船舶が見当たらないので少しの間なら大丈夫と思い、船橋当直の維持を十分に行う措置をとらなかった職務上の過失により、操舵室後部の棚の上に横になり寝入ってしまい、明成丸の進路を避けることができないまま進行して衝突を招き、自船の右舷側前部外板及び操舵室に損壊を、明成丸の船首部外板に擦過傷をそれぞれ生じさせ、自らが頭部打撲傷を負うに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人は、夜間、能登半島西方沖合を南下中、左舷船首方に前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する大六栄丸を認め、その後、同船が間近に接近し、同船の動作のみでは衝突を避けることができない状況となった場合、行きあしを止めるなど、衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、大六栄丸の避航を期待し、衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、そのまま進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、B受審人に前示の傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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