日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) >  衝突事件一覧 >  事件





平成15年神審第96号
件名

旅客船第八進成丸プレジャーボートエヌ.ワイ.衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年3月24日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(平野研一、田邉行夫、甲斐賢一郎)

理事官
佐和 明

受審人
A 職名:第八進成丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:エヌ.ワイ.船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第八進成丸・・・プロペラ翼及び同軸を曲損及びスケグに損傷
エヌ.ワイ.・・・右舷船尾部に大破口を生じ、船内に浸水して沈没、同乗者5人が頚髄損傷、頸椎ねんざ及び打撲等及び船長が左膝関節部打撲等の負傷

原因
第八進成丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
エヌ.ワイ.・・・動静監視不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第八進成丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中のエヌ.ワイ.を避けなかったことによって発生したが、エヌ.ワイ.が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年6月1日12時40分
 兵庫県相生港南東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 旅客船第八進成丸 プレジャーボートエヌ.ワイ.
総トン数 9.7トン  
全長 17.60メートル 9.47メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 501キロワット 154キロワット

3 事実の経過
 第八進成丸(以下「進成丸」という。)は、船体中央部やや船尾寄りに操舵室を有する軽合金製小型漁船兼旅客船で、平成13年8月交付の一級小型船舶操縦士免状を受有するA受審人が1人で乗り組み、釣客28人を乗せ、氷630キログラムを積載し、船首0.50メートル船尾1.75メートルの喫水をもって、平成15年6月1日12時18分兵庫県家島諸島西島北岸の海上釣堀を発し、兵庫県姫路港飾磨区船場川左岸の釣客乗降場所に向かった。
 ところで、A受審人は、平素は、西島牛首ノ鼻から姫路港飾磨区南方沖合に直接向かう針路としていたが、当日は、台風の影響で北西風が強くなるとの予報が出ていたので風波を避けるため、一旦北上して兵庫県相生港南方沖合の蔓(かずら)島に向け、陸岸に接近して風波が弱まったのち転針して東行することとした。
 また、A受審人は、発航にあたって、北西風による左舷方からの波しぶきが釣客にかからないよう、釣客のうち7人を前部甲板右舷側に、残りの釣客を操舵室、操舵室後部の船室及び船尾甲板に分散して乗船させていた。
 12時35分半少し過ぎA受審人は、蔓島灯台から177度(真方位、以下同じ。)900メートルの地点に達したとき、陸岸に接近して風波が弱まってきたので、地ノ唐荷(じのからに)島と藻振(もふり)鼻の間に向けて針路を061度に定め、機関を全速力前進よりやや落とした16.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、手動操舵により進行した。
 12時38分少し過ぎA受審人は、蔓島灯台から105度1,170メートルの地点に達したとき、船首方1,000メートルに漂泊中のエヌ.ワイ.(以下「エ号」という。)を視認でき、その後同船に衝突のおそれがある態勢で接近していることを認め得る状況にあったが、前部甲板上の釣客に波しぶきをかけないよう、左舷方からの風浪模様に気をとられ、船首方の見張りを十分に行わなかったので、エ号の存在に気付かなかった。
 A受審人は、左舷方の君島に並航したころ、島の風下側に入って、北西からの風波が更に弱まったので、機関の回転数を上げ20.0ノットに増速したが、依然エ号に向首したまま接近していることに気付かないで漂泊中の同船を避けずに続航し、12時40分蔓島灯台から085度2,000メートルの地点において、進成丸は、原針路、20.0ノットの速力で、その船首が、エ号の右舷船尾部に、前方から31度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力6の北西風が吹き、高さ50センチメートルの北寄りの波があり、潮候は下げ潮の中央期であった。
 また、エ号は、FRP製プレジャーボートで、平成14年11月に一級小型船舶操縦士免許を取得したB受審人が1人で乗り組み、知人等5人が同乗し、魚釣りの目的で、船首尾とも0.50メートルの喫水をもって、平成15年6月1日11時30分相生港の相生コスモマリーナを発し、同港沖合の釣場に向かった。
 出港ののち、B受審人は、折からの北西風が強かったので、相生港外近くで釣りをすることとし、同港南西方の坂越湾(さごしわん)に行ったものの波が高く断念し、次に同港南東方の君島東方沖合に向かい、12時30分前示衝突地点に至って機関を中立とし、周囲に他船がいないことを確認し、船首を210度に向けて、漂泊して魚釣りを開始した。
 12時38分少し過ぎB受審人は、船首クリートに結んだロープを結び直すために船首部に移動しようとしたところ、右舷船首31度1,000メートルのところに自船に接近する進成丸を初めて視認したが、一べつして自船の右舷側を通過していくものと思い、衝突のおそれの有無を判断できるよう動静監視を十分行わず、その後進成丸が衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かないまま、同乗者に同船の航走波による船体動揺に注意するよう伝えただけで漂泊を続けた。
 12時39分少し過ぎB受審人は、船尾に戻ろうとしたとき、進成丸が500メートルまで接近したものの、依然動静監視不十分で、装備していたモーターホーンで警告信号を吹鳴せず、機関を使用するなど衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続け、同時40分少し前、船首至近に迫った進成丸を認めて衝突の危険を感じ、両手を大きく振るとともに、大声で合図を送ったものの効なく、エ号は、210度を向いたまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、進成丸は、プロペラ翼及び同軸を曲損し、スケグに損傷を生じたが、のち修理され、エ号は、右舷船尾部に大破口を生じ、船内に浸水して間もなく沈没し、同乗者5人が頚髄損傷、頸椎ねんざ及び打撲等を負ったほか、B受審人も左膝関節部打撲等を負った。 

(原因)
 本件衝突は、兵庫県相生港南東方沖合において、進成丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中のエ号を避けなかったことによって発生したが、エ号が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、兵庫県相生港南東方沖合を東行する場合、前路で漂泊中のエ号を見落とすことのないよう、船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前部甲板上の釣客に波しぶきをかけないよう、左舷方からの風浪模様に気をとられ、船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中のエ号に気付かず、これを避けることなく進行して同船との衝突を招き、進成丸のプロペラ翼及び同軸等に損傷を生じさせるとともに、エ号の右舷船尾部に大破口を生じさせて同船を沈没させ、B受審人及び同乗者5人に頚髄損傷、頸椎ねんざ及び打撲等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、兵庫県相生港南東方沖合において、漂泊して魚釣り中、船首方から自船に接近する進成丸を認めた場合、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一べつして自船の右舷側を通過していくものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、そのまま漂泊を続けて進成丸との衝突を招き、前示の損傷等を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:22KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION