(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年10月29日10時30分
熊野灘
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船龍勝丸 |
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総トン数 |
494トン |
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全長 |
74.60メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
1,029キロワット |
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船種船名 |
押船第十五隠岐丸 |
はしけB3501 |
総トン数 |
171トン |
2,752トン |
全長 |
29.16メートル |
93.30メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
735キロワット |
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3 事実の経過
龍勝丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、鋼製パイプ282本を積載し、船首1.40メートル船尾3.60メートルの喫水をもって、平成14年10月28日19時10分大阪港大阪区第6区を発し、北海道苫小牧港に向かった。
翌29日05時25分A受審人は、潮岬沖で前直の一等航海士と交替して単独で船橋当直に入り、07時30分三木埼灯台から197度(真方位、以下同じ。)11.6海里の地点で、布施田水道を通航するかどうか様子を見るため英虞湾沖に向けることとし、針路を042度に定めて、機関を全速力前進にかけ、10.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)をもって自動操舵で進行した。
10時ごろA受審人は、三重県見江島の南方を通過していたとき、レーダー無線業務日誌など書類整理と大王埼以降の予定航路の海図への記入を思い立ち、前方を一瞥して他船を認めなかったので大丈夫と思い、操舵室の左舷後方にある海図台で後方を向いて、その作業にとりかかった。
10時20分A受審人は、見江島灯台から155度5.6海里の地点に達したとき、左舷船首48度1.3海里のところに、B3501(以下「はしけ」という。)の船尾凹部に船首部を嵌合した第十五隠岐丸(以下第十五隠岐丸を「隠岐丸」、はしけを嵌合した状態を「隠岐丸押船列」という。)を視認でき、その後隠岐丸押船列が前路を右方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、前示作業に集中して、左舷方の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かないまま続航した。
10時27分A受審人は、見江島灯台から143度5.3海里の地点に至ったとき、操舵室の両舷出入口扉を閉鎖していたうえ、依然、海図台での作業に集中して左舷方の見張りを十分に行っていなかったので、隠岐丸押船列が吹鳴した長音2回の汽笛にも同押船列にも気付かないで、警告信号を行わず、その後、間近に接近し、隠岐丸押船列の動作のみでは衝突を避けることができなくなったが、機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行した。
龍勝丸は、同じ針路、速力で続航し、10時30分見江島灯台から137度5.2海里の地点において、その船首部が隠岐丸のトランサム右舷側に後方から48度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の北西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
また、隠岐丸押船列は、土砂など4,801トンを積載して船首4.82メートル船尾5.05メートルの喫水となった、無人の非自航式鋼製はしけの船尾凹部に隠岐丸の船首を嵌合し、隠岐丸の船首両舷に備え付けられたピンではしけと結合して全長約110メートルとし、隠岐丸には、B受審人ほか5人が乗り組み、船首3.40メートル船尾3.60メートルの喫水をもって、同月29日08時50分三重県度会郡紀勢町錦湾の土砂採取事業所専用桟橋を発し、同県鈴鹿市沖合に向かった。
B受審人は、09時08分見江島灯台から243度8.4海里の地点で船長と交替して、単独で船橋当直に入り、針路を090度に定め、機関を全速力前進にかけ8.0ノットの速力をもって自動操舵で進行した。
10時20分B受審人は、見江島灯台から150度4.4海里の地点に達したとき、右舷船首84度1.3海里のところに北東進中の龍勝丸を初認したが、一瞥して同船と特に危険な態勢とはならないものと思い、同船の動静監視を十分に行わなかったので、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、早期に大幅に転舵するなど同船の進路を避けないまま続航した。
10時27分B受審人は、見江島灯台から140度5.0海里の地点に至ったとき、双眼鏡により龍勝丸の船橋内を見て、人影を認めなかったので、同船の注意を喚起するつもりで長音2回の汽笛を吹鳴しただけで、依然として同じ針路、速力で進行した。
10時30分少し前龍勝丸が右舷後方至近に接近したとき、B受審人は、衝突の危険を感じて手動操舵に切り替え、右転しようと両舷のZペラのノズルの放出口を船尾方から右舷後方に10度回転させたが、このため、進行方向への出力が逓減するとともに、Zペラのノズルの抵抗と船体斜航開始に伴う抵抗が増加して、隠岐丸押船列は、速力が一時的に低下して6.5ノットまで下がり、10時30分前示のとおり衝突した。
衝突の結果、龍勝丸は球状船首部を圧壊し、隠岐丸はトランサム右舷側に亀裂を伴う凹損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、熊野灘において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、隠岐丸押船列が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る龍勝丸の進路を避けなかったことによって発生したが、龍勝丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、熊野灘において、三重県鈴鹿市沖に向け東行中、右舷正横付近に龍勝丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、一瞥して同船と特に危険な態勢とはならないものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、龍勝丸と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、早期に大幅に転舵するなど同船の進路を避けないまま進行して、龍勝丸との衝突を招き、隠岐丸のトランサム右舷側に亀裂を伴う凹損と、龍勝丸の球状船首部に圧壊とをそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、熊野灘において、英虞湾沖に向けて北東進する場合、左舷前方から接近する隠岐丸押船列を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、前方を一瞥して他船を認めなかったので大丈夫と思い、海図台で作業に集中して、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近する隠岐丸押船列に気付かないで、警告信号を行わず、機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して、隠岐丸押船列との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。